地震学者の提案
庭のアロニア・アルブティフォリア。
3月30日の本ブログ「14年前の警告」で、地震学の石橋克彦・神戸大名誉教授が巨大地震・津波による原子力発電所の過酷事故を「恐ろしいほどの正確さで想定していた」という14年前の論文を紹介したけど、その石橋氏が『世界』と『中央公論』(いずれも2011年5月号)で今回の地震と原発事故について書いている。
そのなかで氏は、政治家と学者と企業が一体となって(後記:年間244億円の広告費を受け取っているマスコミも加えるべきだろう)国策として進めてきた原発推進が、戦前の日本のありかたと同じ構造だと言う。
「(現在の事態は)私が思い描いた最悪の状態ではないが、まさに原発震災である」(『世界』「まさに『原発震災』だ 『根拠なき自己過信』の果てに」)
「地震列島に50基以上の大型原子炉を林立させることは、驚くべき暴挙であった」(『中央公論』「首都圏直下地震、東海・東南海・南海巨大地震の促進も否定できない」)
「日本がアジア太平洋戦争を引きおこして敗戦に突き進んでいった過程が、現在の日本の『原発と地震』の問題にあまりにも似ていることに驚かされる。『根拠のない自己過信』と『失敗したときの底の知れない無責任さ』によって節目節目の重要な局面で判断を誤り、『起きては困ることは起こらないことにする』意識と、失敗を率直に認めない態度によって、戦争も原発も、さらなる失敗を重ねた。そして、多くの国民を不幸と苦難の底に突き落とした(落としつつある)」(『世界』)
氏は戦前の歴史の参考文献として半藤一利『昭和史 1926-1945』を挙げている。それだけでなく、以前このブログ(2005年5月15日)でも触れた戸部良一他『失敗の本質』を読めば、石橋氏の指摘がその通りであることが分かるだろう。戦後の9電力会社による発電・送電の独占体制が戦時統制経済の名残であるのと同じように、システムを動かす人間の行動様式もまったく変わっていないとは。
今後の地震について、ほとんどの地震学者の見解と同じく、今回の震源域だけでなく首都圏直下や東海~南海など周辺で大地震が起きる可能性が高まったという。
「今回のM9.0の超巨大地震によって、日本列島にほとんど全域で大地震が起こりやすくなった可能性がある」(『世界』)
「早急におこなうべきことは……既存原発の原発震災リスクを総点検し、リスクが高い順に段階的に閉鎖・縮小する実際的プログラムを考えることである」(『世界』)
「何よりも、東海地震の想定震源域の直上の中部電力浜岡原発を止めるべきだ。これが原発震災を起こすと、最悪の場合、南西からの卓越風によって首都喪失に至る」(『中央公論』)
「野放図な電力消費の抑制を図るとともに、自然エネルギーの活用拡大を含む消費地内での分散型発電システムに移行するほうが望ましい」(『世界』)
14年前、石橋教授の警告は無視されてしまったたけれど、こういう提言を今、誰も絵空事とは言えない。いま進行中の福島原発の危機を止めるだけでなく、僕たちはどういう生き方を選ぶのか、ひとりひとりが考え、議論しなくちゃいけない。
Comments