須田一政のB面
Tokyo B-side, around 1980(photo exhibition)
須田一政の写真展「TOKYO B-side, around 1980」(2月26日まで。新中野・ギャラリー冬青)を見てきた。
B-sideとは、かつてのドーナツ盤レコードのB面のこと。聴かれることの少ないB面に思いがけない佳曲を見つけたときの喜びは格別で、自分だけの密かな宝として他人に黙っていたいような、でもしゃべりたいような気分になった。
1980年前後といえば、須田一政は日本中を旅して『風姿花伝』『人間の記憶』といった彼の代表作、というより戦後写真史に残る名作を撮っていた。これをA面とすれば、今回の東京を撮った写真群はB面に当たるのだろう。これがなんとも魅力的なB面だった。
『風姿花伝』も『人間の記憶』も、日常のなかに一瞬ひび割れて姿を見せる非日常の風景や人間の姿を捉えていた。でもこの「B-side」ではもっと素直で普通の、でも間違いなく須田一政のアンテナを振るわせた風景が集められている。
僕が6年間通った田端駅裏口の坂を、近くの女子聖学院の制服をきた女子高生が歩いている。背後に崖下の線路と東京の下町が見える。再開発される前の有楽町駅前の、戦後の匂いを感じさせる街頭がある。どれもなにげない風景なんだけど、華やかさと無縁の「裏面の東京」(タイトルの本来の意味はこういうことだろう)の細部にじっと見入ってしまう。
それにしてもプリントが素晴らしい。美しい諧調、隅々まで来ているピント。35ミリ・サイズのように見えたので、それにしてはすごいピントだと思ったら、6×6カメラに6×4.5の枠をつけて撮ったらしい。そんな隠れた技が30年後の今も新鮮な作品を生んだ。
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