« 『白いリボン』 静かなる不穏 | Main | 2010 MY映画ベスト10 »

December 19, 2010

『人生万歳!』 ニューヨーク賛歌

Whatever_works

ウッディ・アレンがニューヨークに帰ってきた。『人生万歳!(原題:Whatever Works)』を一言で言えばそうなる。

『マッチポイント』以来5年ほどヨーロッパを舞台に映画をつくっていたけれど、ウッディ・アレンと言えば、ずっとニューヨークを舞台に、ユダヤ系ニューヨーカーらしい辛らつなユーモアに満ちた饒舌な映画をつくってきた。だからウッディとニューヨークとの縁は切っても切れない。帰ってきたのも当然かもしれない。

『人生万歳!』は初期のウッディ・アレンのコメディが必ずそうだったように、冒頭からウッディを彷彿とさせる主人公(以前はウッディ本人が演じていた)が、機関銃のような早口でシニカルな意見やひねくれたジョークを連発する。場面転換では、ウッディ好みのスイング・ジャズが流れる。しかも舞台が過去のウッディの映画によく出てきたグリニッジ・ビレッジ周辺とあれば、彼のファンならそれだけで浮き浮きしてしまうはず。

しかもニューヨークに戻ってきただけでなく、昔のウッディ・アレンの映画が持っていたテイストそのままなのだ。それもそのはず、これはウッディが絶好調の1970年代に書き、ある事情でオクラに入った脚本を書き直したもの。主人公が、ウッディが歳を取ったのと相応の老人に設定されてはいるけれど。

ノーベル賞候補にまでなった物理学者・ボリス(ラリー・デヴィッド)は自殺未遂やら離婚やらで学問も大学も辞め、今はイースト・ヴィレッジ(らしい)の汚いアパートで一人暮らし。そこにニューオリンズからやって来た田舎娘・メロディ(エヴァン・レイチェル・ウッド)がころがりこむ。

自分を天才と呼ぶボリスは、ことあるごとにメロディとの「知性格差」をからかうが、彼女はなぜかボリスに惚れてしまう。はじめ追い出そうとしていたボリスもまんざらでなく、遂には年の差を超えて結婚してしまう。かなりのご都合主義だけど、いかにものセリフとジョーク、ボリスがいきなりカメラ目線でしゃべりだす手法(昔のウッディの映画にもあった)なんかで、それを感じさせないあたりがウッディのうまさ。

ところがメロディを探して母・マリエッタがニューオリンズからやって来る。マリエッタはメロディとボリスを別れさせようと、若い俳優ランディ(ヘンリー・カヴィル)にメロディを口説くようけしかける。やがて、マリエッタと離婚した父・ジョンもアパートにやってきて……と、原題「Whatever Works」は字幕で「なんでもアリ」と訳されていたけど、なんでもアリの展開。そして、いかにも性解放の時代だった70年代の脚本らしく、なんでもアリの結末へとなだれこんでゆく。

僕にとっては、ニューヨークに滞在していたとき週1、2度は行ったヴィレッジとチャイナ・タウンが映しだされるのが楽しかった。ボリスと仲間はいつもイースト・ヴィレッジのモロッコ・レストランにたむろしているが、このあたりは洒落たエスニック・レストランがたくさんあって、よくランチを食べに行った。ボリスたちが日本映画を見にいく「シネマ・ヴィレッジ」はミニシアター系の映画館で、何度か入ったことがある。確かここでジョニー・トーの『マッド・ディテクティブ』を見たんじゃなかったかな。

チャイナ・タウンでは「徳昌」のネオンが映る。もともと肉屋だけど、魚や野菜、できあいの惣菜まで売っているスーパー。安くてうまいから、いつも人であふれている。ボリスと同じように僕も毎週、買い物に通った。そんなふうに自分が知っている場所が映ると、それだけで他愛もなく嬉しくなってしまう。バカだねえ。ニューヨークが舞台の映画と聞くと、つい見にいってしまうわけだ。

ところで、マリエッタと両親がニューオリンズ出身、しかも両親は敬虔なクリスチャンというあたりが、この映画のミソ。ニューヨーカーと保守的な南部人の価値観の差が笑いの元になっている。しかも最後は南部人が「なんでもアリ」のニューヨークの価値観に染まってしまう結末で、要するにこの映画、人生万歳というよりニューヨーク賛歌なんですね。

それにしてもマリエッタがボリスのためにつくったクレオール料理、ザリガニのガンボ(ブイヤベースみたいなスープ)はうまそうだったなあ。ザリガニのガンボはさすがにニューヨークでは経験できず、ニューオリンズでしか食べられなかった。あのどろっとした、こってりスープの味が忘れられない。


|

« 『白いリボン』 静かなる不穏 | Main | 2010 MY映画ベスト10 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/50324221

Listed below are links to weblogs that reference 『人生万歳!』 ニューヨーク賛歌:

» 人生万歳!/Whatever Works [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね [Read More]

Tracked on December 20, 2010 at 10:44 AM

» 『人生万歳!』(ウディ・アレンならではのコメディ) [ラムの大通り]
(原題:Whatever Works) ----これってウディ・アレンの映画だよね。 舞台がニューヨークに戻ったんだって? 「うん。 それもあってか、なんとも懐かしいタッチの映画だ... [Read More]

Tracked on December 20, 2010 at 11:52 PM

» 映画:人生万歳! Whatever Works 強力なアイコンを得て、アレン節「超高速回転」!! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
ウディ・アレンの新作。 2010-09-15にもアップしているが、久々にNYに帰ってきたウディ・アレン。 しばらく映画の舞台を、イギリスやバルセロナに求めていたが、やっと帰ってきた。 元々、NY子で、撮る映画はほとんどNYマンハッタン(Annie Hall、Manhat...... [Read More]

Tracked on December 23, 2010 at 11:13 AM

» 人生万歳! [ここにあるもの]
ウディ・アレン監督通算40作品目、NYが舞台のヒネクレ恋愛狂奏曲!? って言ったら観にいくよね、しかもガーデンシネマ最後の上映作品。 恵比寿ガーデンシネマの休館が発表されたの ... [Read More]

Tracked on January 05, 2011 at 11:30 PM

» 人生万歳! [映画的・絵画的・音楽的]
 恵比寿ガーデンシネマが、来年1月一杯で閉館することになり、その最後の上映作品だということで、気は早いのですが『人生万歳!』を見に行ってきました。 (1)『人生万歳!』は、ウディ・アレンの監督40...... [Read More]

Tracked on January 08, 2011 at 05:47 AM

» 人生万歳! [Movies 1-800]
Whatever Works (2009年) 監督:ウディ・アレン 出演:ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッド、パトリシア・クラークソン 偏屈老人と天真爛漫な家出娘、娘を捜しにきた両親、それぞれの恋愛模様を描くコメディ。 原題の「何でもあり」が意味するのは、邦題の“人生”なわけだが、さらに突き詰めれば、恋愛の形である。 とにかく、主人公がよく喋るので、字幕を追うのが大変なのはさておき、久しぶりにホームのニューヨークに帰ってきたW・アレンが、皮肉とユーモアに満ちた独自の恋愛論を展開して... [Read More]

Tracked on January 11, 2011 at 01:09 AM

» 映画「人生万歳!」ウディ・アレンもユニクロで買い物する? [soramove]
「人生万歳!」★★★★面白かった ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッド、パトリシア・クラークソン、 エド・ベグリー・Jr.、コンリース・ヒル、マイケル・マッキーン出演 ウディ・アレン監督、119分、2010年12月11日公開、 2009,アメリカ,アルバトロスフィルム (原作:原題:Whatever Works )                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「偏屈じいさん... [Read More]

Tracked on January 15, 2011 at 11:17 PM

« 『白いリボン』 静かなる不穏 | Main | 2010 MY映画ベスト10 »