『瞳の奥の秘密』 現代史の中の愛と犯罪
考えてみれば、本格的(?)なアルゼンチン映画を見るのははじめてだ。面白そうだった『僕と未来とブエノスアイレス』は見逃したし、評判の音楽映画『アルゼンチンタンゴ』はまだ見てない。アルゼンチンで撮影された映画なら『ブエノスアイレス』(ウォン・カーウァイ監督)や『モーター・サイクル・ダイアリーズ』(ウォルター・サレス監督)があるけど、資本関係や監督、俳優などの枠組みが国際的でアルゼンチン映画とは言いにくい。
『瞳の奥の秘密(原題:El Secreto de Sus Ojos)』も資本はスペインとの合作だし、監督のファン・ホセ・カンパネラはアメリカに渡ってTVシリーズを撮っている人だけど、まずはアルゼンチン映画と言っていいだろう。最近の映画は資本も人も国籍を超えて結びつくから、アルゼンチン映画とか日本映画とか言いにくくなっているけれど、それでも国によって映画の肌触りはずいぶん違う。
この映画が公開されたのは、『おくりびと』の翌年のアカデミー外国語映画賞受賞作という話題性もあったに違いない。ミニシアターが経営難でマイナーな映画を見る機会が減っているなか、いろんな国の映画が公開されるのは嬉しいし、僕が見た日曜夕方の回は満席で、お客が入っているのも嬉しい。
『瞳の奥の秘密』は物語も画面も音楽も温かな肌触りで、エモーションあふれる映画だった。
物語は、1999年の現在から1974年の過去へとフラッシュバックしながら進む。その間に流れた25年という歳月そのものが映画の主題になっている。1974年、ある殺人事件が起こる。銀行員の妻が何者かに暴行され殺される。被害者の知人が容疑者として拘束されるが、政情不安のなか彼は権力のスパイとなって釈放されてしまう。当時、イサベル・ペロン大統領が軍のクーデタによって追放され、軍事政権によるペロン主義者や左翼に対するテロが頻発していた。
ベンハミン(リカルド・ダリン)はこの事件を担当した刑事裁判所の係官(アルゼンチンの司法制度を知らないけど、刑事的な役割もするらしい)。1999年に退職するが、結局未解決に終わった25年前の事件が忘れられない。事件を忘れられないのは、当時上司だった美しい判事補イレーネ(ソレダ・ビジャミル)への思いが断ち切れないからでもある。イレーネもまた、左遷されたベンハミンを見送る別れのホームで初めて確かめた互いの思いに囚われて25年生きてきた。妻を殺された銀行員もまた、妻への思いから、釈放され消えた容疑者を追いつづけている。
そんな思いを持ちつづける3人にとって、25年の歳月も一瞬みたいなものだ。ベンハミンもイレーネも銀行員も、大事なことを言葉にぜずに25年間、それぞれの思いを抱きつづけてきた。そんな3人の思いが、映画の最後になって交錯する。一歩間違えれば大時代なメロドラマになりそうだけど、センチメンタルに流れないのは3人の沈黙の深さが画面に緊張を与えているからだろう。
ベンハミンが高卒の叩きあげなのに対して、イレーネはアメリカに留学し一流大学を卒業したエリートという設定。だからこそベンハミンは臆病になったのだが、そんな古風(?)な思いが描かれるのも、そういう社会構造がアルゼンチンに存在しているからだろう。(『モーターサイクル・ダイアリーズ』に描かれた若きゲバラも上流階級の出だった)。
ベンハミンの気のいい同僚(ギレルモ・フランチェラ)がアル中で役立たず、でもバーで朝から飲んだくれながら事件のカギを発見し、最後はベンハミンの身代わりにテロの犠牲になる脇のエピソードも泣かせる。Aの文字が打てない25年前のタイプライターとか、小道具も効いている。
古い写真から目つきだけで容疑者を割り出したり、満員のスタジアムで容疑者を見つけたり、偶然がすぎるところもあるけど、そんなことを忘れさせる語りのうまさ。『瞳の奥の秘密』はアルゼンチンでも大ヒットし、史上2番目の興行成績を上げたという。アルゼンチンの現代史を踏まえた愛と犯罪のドラマだからこそだろう。
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本国アルゼンチンでは大ヒットを記録し第82回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品です。70年代の軍事政権下のアルゼンチン社会を背景に過去の記憶に支配され苦悩する男の姿を描くサスペンス・ドラマ。
出演はその他に、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディーノ、カルラ・....... [Read More]
Tracked on August 25, 2010 09:34 PM
» 『瞳の奥の秘密』 [ラムの大通り]
(原題:El secreto de sus ojos)
「う〜ん。これは体調がいいときにもう一回、じっくりと観たい…。
そういう手合いの映画だね」
----へぇ〜っ。そうニャンだ。
アカデミー賞外国語映画賞受賞とは聞いていたけど、
いったい、どんなお話ニャの?
「それは、比較的簡単に説明できる。
主人公は、長年務めた刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシスト。
残りの人生で、25年前の殺人事件を題材にした小説を書こうと決意した彼は、
当時の職場を訪ね、
彼の元上司で判事補、イレーネ・メネン... [Read More]
Tracked on August 25, 2010 11:22 PM
» 『瞳の奥の秘密』(2009)/スペイン・アルゼンチン [NiceOne!!]
原題:ELSECRETODESUSOJOS/THESECRETINTHEIREYES監督:ファン・ホセ・カンパネラ出演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、ギレルモ・フランチェラ、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディーノ鑑賞... [Read More]
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2009年:スペイン+アルゼンチン合作映画、フアン・ホセ・カンパネラ監督、リカルド・ダリン、ソレダー・ビジャミル、パブロ・ラゴ、ハビエル・コディノ出演。 [Read More]
Tracked on August 29, 2010 08:32 PM
» 瞳の奥の秘密 [小部屋日記]
EL SECRETO DE SUS OJOS(2009/スペイン・アルゼンチン)【劇場公開】
監督: ファン・ホセ・カンパネラ
出演:リカルド・ダリン/ソレダー・ビリャミル/パブロ・ラゴ/ハビエル・ゴディノ
ブエノスアイレスを震撼させた殺人事件から25年──
未解決の謎を小説にする男に、封印された愛が甦る。
本年度アカデミー賞外国語映画賞を受賞。
本国のアルゼンチンでは34週間というロングランの大ヒットを記録。サスペンスとロマンスが入り混ざった物語。
25年前の残虐な殺人事件と秘めた愛を忘れ... [Read More]
Tracked on August 29, 2010 10:11 PM
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☆☆ 好き好きだとは思いますが、この主人公の顔、ちょっと暑苦しくないですか。ひげもじゃのラテン系の顔って、クソ暑い夏に見る顔じゃないよなあ、と思ったのは、ぼくだけ?そんな邪心に満ちた気持ちで観たものだ... [Read More]
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» 映画:瞳の奥の秘密 アカデミー賞外国映画賞も納得の出来。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
アカデミー賞外国映画賞を受賞したアルゼンチン映画。
アルゼンチン映画は二ヶ月くらい前の「アルゼンチンタンゴ伝説のマエストロたち」以来。
だが、アチラは音楽映画なのに対し、こちらは現代劇。
通常触れられない世界の映画をみると、ハリウッド映画や日本映画にない感性を発見して面白い。
この映画では、
「アルゼンチン流、怨念」
「アルゼンチン流、友情」
「アルゼンチン流、愛情」
「アルゼンチン流、ストーリーテリング」
などを感じることができ、大変新鮮だった。
つまり一言で... [Read More]
Tracked on September 01, 2010 11:47 PM
» 映画「瞳の奥の秘密」人は誰も決して忘れてはならない秘密を持っている [soramove]
「瞳の奥の秘密」★★★★
リカルド・ダリン、ソレダー・ビリャメル、パブロ・ラゴ、ハビエル・コディノ 出演
フアン・ホセ・カンパネラ 監督、129分 、2010年8月14日公開、2009,スペイン、アルゼンチン,ロングライド
(原題:EL SECRETO DE SUS OJOS )
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「主人公ベンハミン(リカルド・ダリン)は、
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» 瞳の奥の秘密 [映画、言いたい放題!]
一月に一回開催している、映画を観る会。
今回の作品の選択権は私です。
第82回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しているこの作品を選びました。
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おすぎさんが褒めていることもあって。
って、最近... [Read More]
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EL SECRETO DE SUS OJOS
THE SECRET IN THEIR EYES
裁判所を定年退職し、孤独な日々を送るベンハミン・エスポシト(リカルド・ダ
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Tracked on September 10, 2010 07:50 PM
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裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は、25年前に起きた事件を小説に書こうと、久しぶりに昔の職場を訪れ、かつての上司だったイレーネ(ソレダ・ビジャミル)と再会した。当時判事補で婚約者のいた彼女は、今は判事に昇進し、二人の子持ちに..... [Read More]
Tracked on September 11, 2010 08:14 PM
» 瞳の奥の秘密 [映画的・絵画的・音楽的]
本年度のアカデミー賞の最優秀外国語映画賞受賞作ということであればぜひ見てみたいと思い、『瞳の奥の秘密』を日比谷のTOHOシャンテに行ってみました。
(1)この映画では、裁判所の書記官のベンハミンと、彼の上司だった判事補イレーネとの時を隔てた愛の物語と、彼らが昔携わったことのある殺人事件の物語との二つが絡み合うように描かれています。
裁判所を定年退職したベンハミンは、時間的な余裕が出来たことから、25年前に取り扱った殺人事件を基に小説を書こうとし、そのことをやはり25年ぶりに再会したイレーネに... [Read More]
Tracked on September 15, 2010 05:53 AM
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