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July 15, 2010

『アウトレイジ』 北野アクションの危うい魅力

Outrage

アクション映画監督・北野武が帰ってきた!

この数年、北野武の映画を見るたびに、アクション映画の監督としての才能は尽きてしまい、あとはアーティストとしての自分自身を素材にアート系映画をつくっていくしかないのかな、と思っていた。彼の最後のアクション映画『BROTHER』(01)があまりにひどかったせいもあるし(その後の時代劇『座頭市』もいまいち)、このところ『TAKESHIS'』『監督ばんざい』『アキレスと亀』と"芸術家映画"が続いていたせいもある。

ところが『アウトレイジ(OUTRAGE)』は、『その男、凶暴につき』『3-4×10月』『ソナチネ』といった初期のアクション映画の傑作群を思い出させる快作。アクション映画好きとしては、その復活を単純に喜びたい。

もちろん、北野武は単純に初期のアクション映画に回帰したわけではない。『その男、凶暴につき』や、特に『ソナチネ』は暴力的でありながら静謐といってもいい画面が印象的だったけれど、『アウトレイジ』はそうした「作家性」を感じさせるつくりではない。

血と暴力と、これは昔と変わらない思わず笑ってしまう場面が、快いテンポでつながれてゆく。エンタテインメントに徹した映画で、その印象は『仁義なき戦い』シリーズに近い。同じアクション映画でも、そのために国際的に評価された作家的な表現に戻るのでなく、娯楽映画に仕立てたところがまたたけしらしい。

ただ、『仁義なき戦い』にあって『アウトレイジ』にないものがある。それは男と男の友情。『仁義なき戦い』も『アウトレイジ』と同じように、同じ陣営に属している同士が陰謀と裏切りを繰り広げ、時に殺し合いをするけれど、それでも菅原文太と松方弘樹がそうだったように、かすかな友情の糸は信じられていた。でも『アウトレイジ』にはそれもない。

だからこの映画に、感情移入できる人物はいない。人と人のつながりが信じられていないから、映画全体が欲望と計算とに支配されている。北野武はインタビューで、この映画から暴力を除いたら日本社会そのものじゃないかと語っているけれど、そのあたりが1970年代の『仁義なき戦い』から『アウトレイジ』を区別する現代性かもしれない。

それに対応するように、映像も情感を湛えた『仁義なき戦い』に対して、『アウトレイジ』はメタリックで色鮮やかだ。黒いメルセデスやトヨタの車体へのフェティッシュな描写や、椎名桔平が殺されるシーンで風力発電装置のある海岸線の風景などが印象に残るけれど、それがあまり心象風景にならないのが逆にいいんだろう。

もうひとつ、逆に『仁義なき戦い』になくて『アウトレイジ』にあるものがある。それは暴力描写の身体性とでも呼ぶべきものだ。

『仁義なき戦い』も血と暴力にあふれた映画だったけど、それは見る者を不快にさせるものではなく(血と暴力が画面に出てくるだけで不快な人はいるかもしれないが)、むしろ映画的カタルシスを与えるエンタテインメントになっていた。

でも『アウトレイジ』では、カッターや包丁で小指を落としたり、歯医者で患者用椅子に座った親分(石橋蓮司)の口に治療具のエアタービンを突っ込んで口中をずたずたにしたり、見る者の感覚を逆なでするような描写がつづく(これではカンヌで不評のはず。アフリカ人が出てくるところはポリティカリー・インコレクトでもあるし)。傷つけられた石橋蓮司がクローネンバーグばりの矯正治療具を顔に装着しているのも、笑いを誘うと同時に、倒錯的な好みをも感じさせる。

これは、アナーキーではあるけれど精神は健全な深作欣二と北野武の資質の差なのかもしれない。僕が北野武のアクション映画から感ずるのは、自分自身を破壊したい自滅願望、もっとはっきり言えば自殺願望が映画のエネルギー源になっていることだ。そんな自滅願望が映画からにじみ出ているところが、北野のアクション映画の危うい魅力だと思う。北野個人の側から言えば、アクション映画はそんな自滅願望をなんとか飼いならすための道具ということになのか。

『ソナチネ』にそのことをひしひしと感じ、この『アウトレイジ』もエンタテインメントなつくりの背後にそれが通奏低音のように流れているのを感ずる。そもそも『アウトレイジ』は、はじめ登場人物がすべて死んでいく物語として構想されたらしい。

役者も北野映画の常連が出ていないのが新鮮。三浦友和も國村隼も石橋蓮司も北村総一朗も生き生きしてる。若い役者も、体重をかなり増やしたらしい椎名桔平(ただ一人、裏切りも計算もしない得な役)、はじめ誰だか分からなかったほどイメージを変えた加瀬亮(冷徹な計算と裏切りで生き残る)と、新しい面を見せる。生き残る者を見極め情報を漏らして出世する警察官の小日向文世も効いている。出番は多くないけど板谷由夏も好きな役者。


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