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July 28, 2010

『ぼくのエリ 200歳の少女』 現代の民話

Let_the_right_one_in

映画の最初と最後。暗闇にしんしんと降る雪の映像が映し出される。はじめは何かがうごめいているようにしか感じられない抽象化された雪の映像にはさまれて、この映画がリアルな物語ではなくフェアリー・テイルというか北欧の民話みたいなものだと暗示される。

ヴァンパイアものは、このところ世界各国でつくられている。僕はあまり見ていないけれど、韓国の『渇き』などいかにもパク・チャヌク監督らしい、おぞましくも美しい作品だった。

スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女(原題:Lat den Ratte Komma In)』は、ヴァンパイアものでありながらホラーのおどろおどろしさを極力抑え、少年少女の幼い恋の物語にしたことで現代的な民話の世界に近づいたように思う。

1980年代、ストックホルム郊外の小さな町。学校でいじめられている少年オスカー(カーレ・ヘーデブラント)が、アパートの中庭でナイフを木に突き刺し悔しさをまぎらせていると、ジャングルジムの上からエリ(リーナ・レアンデション)が声をかける。エリはオスカーの隣室に引っ越してきた少女で、夜しか姿を見せず、冬なのにTシャツ一枚。オスカーが彼女に興味を示しても、「友だちにはなれないわ」と素っ気ない。

町では、林で男が逆さ吊りにされ血を抜かれる。猟奇殺人なんだけど、カメラはやや引き気味に犯行現場を見つめ、緊迫感の感じられない日常的な描写で事件が示される(エリの父親が、彼女のために血を求めたのだ)。しばらくすると、ヴァンパイアであるエリが住民に襲いかかるシーンもあるけれど、これもカメラを遠くに据えたワンショット。見る者を驚ろかせるカットを連ねたり、音楽でそれを増幅したり、ホラーやサスペンスで使われる常套的な手法が意識的に避けられている。

その代わりにトーマス・アルフレッドソン監督が描くのは、北国の生活風景だ。オスカーやエリが窓に手を押しつける。雪の積もった外は寒く、室内は暖かいから、手を離した後に水蒸気が手形になって残り、それが蒸発してゆく。そんな静かなショットが印象に残る。

オスカーとエリ、2人の少年少女の無垢な存在感が素晴らしい。ハリウッドでリメイクされるらしいけど、この2人以上の少年少女を見つけられるか。

(後記:トラックバックをいただいたCOLOR of CINEMAさんのブログに興味深いことが書いてあった。エリが着替えるシーンで下半身にボカシが入る。ブログの主emanon23さんが輸入版DVDで確認したところ、このシーンで少女の性器は縫合されていたそうだ。エリは永遠に交われない。それを知っている知らないでは、映画の感想がまた変わってくる。特にエリと父親との関係。原作を読むと、このあたりがもっと詳しく書きこまれているのかもしれない)

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Comments

はじめまして。
※以下ネタバレ注意です。


>少女の性器は縫合されていた

あれは男性器が切り取られた跡です。
女性器のあるべき場所とは位置が違います。
女性器のあるべき場所には(最初から)何もありません。
エリは男の子なのです。

Posted by: esme | September 13, 2010 at 02:24 PM

貴重な情報をありがとうございます。私は無修正版を見ていないので、esmeさんおっしゃるように「エリは男の子」なのか、emanon23さんが書いているように「少女の性器が縫合されている」のかは分かりません。いずれにしても、肝心なところを修正してしまったのは、映画の生命を損なう行為ですね。

Posted by: | September 14, 2010 at 12:16 PM

こんばんは。
今頃になってすみません。
※注意:ネタバレを含むコメントです。

今、COLOR of CINEMAさんのブログを読ませていただいて気づいたのですが・・・
emanon23さんは私と同じことを言われているのだと思います。
「オスカーがドア越しに覗いたときにエリの言っていた意味がわかる。」と書かれていますが、「エリの言っていた意味」とは「女の子じゃない」という言葉を指すものと思われます。
また、emanon23さんは原作を読まれているようですが、原作にはエリが実は「エライアス」という名の少年で、倒錯した貴族(おそらくヴァンパイア)に去勢される過程が描かれているのです。
「縫合」というのは去勢された傷の縫合のことを言われているのでしょう。

Posted by: esme | October 13, 2010 at 12:32 AM

なるほど。原作にそういう記述があるなら、おっしゃるとおりなのでしょう。ありがとうございます。

3年前、私がニューヨークに滞在していたとき、トライベッカ映画祭でこの作品が上映されていました。そのときは見なかったのですが、日本での修正のことを考えると、あのとき見ておけばよかったと悔やむことしきりです。日本版では映画の意味がずいぶん違ってしまいますね。

Posted by: | October 13, 2010 at 04:38 PM

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