来宮神社の大楠
樹齢2000年と言われる熱海・来宮神社の大楠は、何度見てもその異形の姿に打たれる。
来宮神社は江戸末期までは「木宮明神」と記されていた。この地には7本の大楠があり、「神が降りる木」として信仰をあつめていた。
ところが嘉永年間に熱海村で漁業権をめぐる争いが起き、訴訟費用を捻出するために5本を伐採してしまった。残る2本も伐ろうとしたところ、白髪の老人が現れてこれを遮り、木にあてた鋸が真っ二つに割れたという。村人たちは神のお告げだとして伐採をやめた。その2本が境内に残っている。
1本が、この樹齢2000年の楠。周囲23.9メートル、高さ20メートル。主幹は2本に別れていたが、1本は残念なことに1974年の台風で地上5メートルのところで折れてしまった。
古代人が巨樹巨木に畏怖の心をもち神を感じた理由が、この楠を見ているとよくわかる。
楠は関東以南に自生する常緑樹。楢、椎などとともに東アジアの温暖多雨地域に広がる照葉樹林をなしている。関東の照葉樹林の多くは開墾され消えてしまったけれど、真鶴半島から伊豆半島にかけて、ところどころに残っている。葉や幹に樟脳を含んでいて芳香をもち、薬や虫よけに使われることはよく知られている。
伊豆半島には「木の宮」と呼ばれる神社がたくさんある。おそらくこの来宮神社と同じように巨樹を神木としていたにちがいない。先日訪れた大和の三輪神社は三輪山そのものが神体で、本殿を持たない神社だった。来宮神社は大楠の手前に本殿があるけれど、三輪神社と同様、山や木や岩を神体とした古神道の面影を伝えているんだろう。
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