『アリス・イン・ワンダーランド』 3D体験
3D映画として話題になった『アバター』を見てない。だから3D映画初体験なんて、並みの映画ファンにも及ばないけど、ともかくも初めて見た印象をメモしておこう。
『アリス・イン・ワンダーランド(Alice in Wonderland)』はディズニー・デジタル3DとIMAX3Dという2つの方式で上映されている。現在の3Dにはいくつかの方式があるけど、IMAX方式が画面の鮮明さ、立体感についてダントツに評判がいいようだ。ただIMAX方式の劇場は日本では109シネマズ系列の4館しかなく、東京にはない(って、僕は埼玉の住民で、埼玉県久喜市にIMAXシアターがあるんだから、そっちに行けばいいのにね)。
だから僕が見たのはディズニー方式3Dで、IMAXを見てから語れって言われそうだけど、まあそれはともかく……。
3D『アリス・イン・ワンダーランド』の印象をひとことでいえば、立体絵本が動いてる、って感じ。ページを開くと、折りたたまれたモノや人が垂直に立ちあがる立体絵本を見ているのに近い。遠くから近くまで、モノや人が自然な遠近感をもって立体的に見えるのでなく、選ばれた特定のモノや人が遠近いくつかのレベルで立体感に立ち上がる、と言えばいいのかな。
昔の3Dは、投げられたボールや槍が観客に向かって飛んできて、思わずよけてしまうような「脅し」が多かったけど、そして今回もそういうシーンはあるけれど、スクリーンの前方ではなく後方に奥行きを感じさせる立体感のあるシーンが多い。その意味では3D技術をこれ見よがしに使うんじゃなく、大人の使い方になってきたと言えるかも。
もっとも、3D自体が「見世物回帰」であるとは言えるだろう。19世紀末、まだ映画が見世物だったころの画期的フィルムに、ルイ・リュミエールの『列車の到着』というのがある。列車が駅に到着するのを低い視点の固定カメラで撮っただけのものだけど、はじめスクリーンの奥に小さく映っていた機関車が近づき、やがて観客にのしかかるほど大きくなる。観客は、機関車に轢かれると恐れて席から逃げ出した。
3D映画は、そういう体感を拡大したものだろう。といって僕は「見世物」が悪いとも思わない。映画はもともと見世物として出発し、見世物性をもっているからこそ20世紀の大衆的な娯楽として成功したわけだから……。ただ、マイナーな映画を好む僕の趣味からすると、今のところ3Dはまだ表現としての力を獲得していないように思う。
もともと映画は写真と基本的に同じフィルムを使っている(というより、もともと写真用の35ミリ・ロールフィルムを映画に転用した)。だから映画も写真も、3次元の現実をレンズを通して2次元のフィルムに焼きつけている。3次元の現実を2次元のフィルムに転写するのだから、現実がそのまま記録されるわけではない。写真的表現や映画的表現は、その不自由さのなかにこそ成立したんじゃないだろうか。そこにカメラという機械が介在していることが、いかにも20世紀的だけど。
その不自由さを捨ててもう一度3次元に戻ろうとする3Dが立体絵本という既視感のレベルでしかない現状では、今のところ3Dだから見に行こうとは思わないな。
映画としては、少女アリスがナウシカみたいな戦士に変貌し、原作の迷宮のような世界が善と悪のはっきりしたファンタジーになっていることが(ティム・バートンふうの味つけはあっても)不満だった。僕は流行のファンタジー映画をほとんど見てないけど、人間の想像力ってどんなに奔放になろうとしても結局は現実をなぞるしかないんだなと思った。まあそういうことは置いといて、楽しいディズニー映画ですけどね。
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