『カケラ』 柔らかですべすべ
主人公の大学生・ハル(満島ひかり)と、彼女に思いを寄せるリコ(中村映里子)が、狭いアパートに寝そべって相手の体を触りながら会話を交わす。「女の子の体って、こんなに柔らかですべすべで、ぷちぷちしてるんだ」(正確に覚えてませんが)。
そのセリフの通り、柔らかで、すべすべしてる映画だなあ。あんまりぷちぷちではなかったけど(なにがぷちぷちか、自分でもよく分かりませんが)。原作は桜沢エリカの漫画。脚本を書き監督したのは27歳の安藤モモ子(奥田瑛二の娘)で、これがデビュー作。
クローズアップの画面が印象的だった。「ぷちぷち」のセリフのところで映し出される、とがった針でちょんと突かれるお尻のアップ。ハルのボーイフレンドが靴下をはいたまま寝ているシーンで、穴のあいた靴下のアップ。同じくボーイフレンドがむしゃむしゃと朝ごはんを食べる口のアップ。
クローズアップの画面は、文字通り映し出されたものを強調する。靴下と口のアップはハルがボーイフレンドに感じている違和感を、お尻のアップは、それと反対に女同士の親密な空気を際立たせる。最近のインディーズ系映画はどちらかといえば広角で引きの画面を基本にし(是枝裕和あたりの影響?)、こういうどアップをあまり使わないから、かえって新鮮だった。
とくに大きな事件も起こらない女の子の日常。変わったことといえば、事故や病気で失った身体のパーツをつくるメデカル・アーティストのリコに思いを寄せられ、彼女がハルのアパートにころがりこんで、女性同士で住みはじめたことくらい。
吉本ばななの『キッチン』以来、女性の小説や漫画でよく見かける世界だけど、それがごく素直に、デビュー作らしくないこなれた(逆にいえば冒険のない)語りで映像化されてる。その優しい感触が、この映画の生命だろう。女性監督ならではのきわどいシーンやセリフも下品にはならない。リコが工房でつくっている樹脂の乳房や指のパーツが、視覚的な生々しさを与えるのも計算のうち。
満島ひかりは『愛のむきだし』のエキセントリックな女の子がよかったけど、この映画ではもっと普通の女の子を演じて、微妙な感情の揺れをうまく見せてる。
このところ『渇き』『息もできない』といった濃くて熱くてパワフルな韓国映画を立て続けに見たので、『パレード』のクールさや『カケラ』の柔らかさといった日本映画との差が目についた。これは出来の差(出来については2本の韓国映画のほうが上)というより、映画を生みだす社会の温度差によるんだろう。
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