« 鉛筆の力 | Main | 『書と日本人』で目ウロコ »

April 13, 2010

『カケラ』 柔らかですべすべ

Kakera

主人公の大学生・ハル(満島ひかり)と、彼女に思いを寄せるリコ(中村映里子)が、狭いアパートに寝そべって相手の体を触りながら会話を交わす。「女の子の体って、こんなに柔らかですべすべで、ぷちぷちしてるんだ」(正確に覚えてませんが)。

そのセリフの通り、柔らかで、すべすべしてる映画だなあ。あんまりぷちぷちではなかったけど(なにがぷちぷちか、自分でもよく分かりませんが)。原作は桜沢エリカの漫画。脚本を書き監督したのは27歳の安藤モモ子(奥田瑛二の娘)で、これがデビュー作。

クローズアップの画面が印象的だった。「ぷちぷち」のセリフのところで映し出される、とがった針でちょんと突かれるお尻のアップ。ハルのボーイフレンドが靴下をはいたまま寝ているシーンで、穴のあいた靴下のアップ。同じくボーイフレンドがむしゃむしゃと朝ごはんを食べる口のアップ。

クローズアップの画面は、文字通り映し出されたものを強調する。靴下と口のアップはハルがボーイフレンドに感じている違和感を、お尻のアップは、それと反対に女同士の親密な空気を際立たせる。最近のインディーズ系映画はどちらかといえば広角で引きの画面を基本にし(是枝裕和あたりの影響?)、こういうどアップをあまり使わないから、かえって新鮮だった。

とくに大きな事件も起こらない女の子の日常。変わったことといえば、事故や病気で失った身体のパーツをつくるメデカル・アーティストのリコに思いを寄せられ、彼女がハルのアパートにころがりこんで、女性同士で住みはじめたことくらい。

吉本ばななの『キッチン』以来、女性の小説や漫画でよく見かける世界だけど、それがごく素直に、デビュー作らしくないこなれた(逆にいえば冒険のない)語りで映像化されてる。その優しい感触が、この映画の生命だろう。女性監督ならではのきわどいシーンやセリフも下品にはならない。リコが工房でつくっている樹脂の乳房や指のパーツが、視覚的な生々しさを与えるのも計算のうち。

満島ひかりは『愛のむきだし』のエキセントリックな女の子がよかったけど、この映画ではもっと普通の女の子を演じて、微妙な感情の揺れをうまく見せてる。

このところ『渇き』『息もできない』といった濃くて熱くてパワフルな韓国映画を立て続けに見たので、『パレード』のクールさや『カケラ』の柔らかさといった日本映画との差が目についた。これは出来の差(出来については2本の韓国映画のほうが上)というより、映画を生みだす社会の温度差によるんだろう。


|

« 鉛筆の力 | Main | 『書と日本人』で目ウロコ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『カケラ』 柔らかですべすべ:

» 『カケラ』 [ラムの大通り]
----あらら。この映画『カケラ』って、 もう、明日公開だ。 「そうなんだよね。 最初、別のお話を…と、考えていたんだけど、 これは、やはり一言言及しておかなくては…という映画。 これまた奥田瑛二がらみ。 あの安藤サクラの姉・安藤モモ子が メガホンを取った映画なんだ」 ----主演は、またまた話題の満島ひかりだよね。 「そう。ただ、これまでの彼女の役柄に比べて、 今回のヒロイン・ハルは、それほどアクは強くない。 とはいえ、中村瑛里子演じるリコに 強く恋い焦がれられてしまうという、 ちょっとややこしい... [Read More]

Tracked on April 13, 2010 09:59 PM

» 『カケラ』〜ゆとり世代に捧げる日本映画(後)〜 [Swing des Spoutniks]
『カケラ』公式サイト監督:安藤モモ子出演:満島ひかり 中村映里子 永岡佑 光石研 根岸季衣ほか【あらすじ】(goo映画より)大学生のハルは普通のどこにでもいるような女の子。ある時ハルは、事故や病気で失った身体のパーツを作るメディカルアーティストのリコと...... [Read More]

Tracked on April 16, 2010 11:35 PM

» 『カケラ』(2009)/日本 [NiceOne!!]
監督・脚本:安藤モモ子出演:満島ひかり、中村映里子、永岡佑、光石研、根岸季衣鑑賞劇場 : ユーロスペース公式サイトはこちら。<Story>大学生のハル(満島ひかり)は普... [Read More]

Tracked on April 23, 2010 12:30 AM

» 『カケラ』 [かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY]
鋭利でやわらか。ホントは隠しておきたいようなこと。 女子大生のハルは「メディカルアーティスト」のリコと出会う。俳優奥田瑛二の長女1982年生まれの安藤モモ子初監督作。これがただの芸能人のコネをつかった七光りデビューっていうなら興味はもてないところなんだけど。奥田家の次女安藤サクラのただものではない女優っぷりに感嘆させられるばかりだった昨今ゆえ、海外でアートや映画づくりを学んできたというその姉の監督デビューには注目せずにはいられない。経験があって下地がしっかりしているからか、初監督作だとは思えな... [Read More]

Tracked on April 24, 2010 07:58 AM

» 映画 カケラ [単館系]
愛のむきだしという映画で安藤サクラさんがメインのキャラのひとりとして出演していました。 その安藤サクラさんの姉の初監督作品だそうです... [Read More]

Tracked on May 09, 2010 09:50 PM

« 鉛筆の力 | Main | 『書と日本人』で目ウロコ »