『ホワイト・オン・ライス』と寅さん
『ホワイト・オン・ライス(原題:White on Rice)』は在米日本人を主人公にしたコメディ。アメリカ人監督デイブ・ボイルがつくったインディペンデント映画だ。知り合いのMio Takadaが出演している。彼はTVの人気シリーズ「ヒーローズ」にも出ている。
この映画に出たことは知っていたけれど、日本ではなかなか見る機会がなかった。そんなところに大阪アジアン映画祭に特別出品されることになり、東京でも1回だけ上映された(3月20日。4月5日に追加上映あり)。
会場の渋谷・アップリンクには主演の渡辺広、NAE(裕木奈江)、監督のデイブ・ボイル(左から)が顔を見せて挨拶。渡辺広はロスを本拠に活動しており、『ラスト・サムライ』や『硫黄島からの手紙』に出ている。NAEも『硫黄島からの手紙』がすごく印象的だった。彼女もロスに住んでおり、次はデヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』というから楽しみだ。
25歳のデイブ・ボイルは初めて日本に来たというのに、日本語がうまいのにびっくり。聞けばデビュー作は、彼自身がオーストラリアの日本人コミュニティで伝道に従事しながら日本語を習った体験をもとにした『ビッグ・ドリームス・リトル・トーキョー』だという。この作品がロスのAFI映画祭で注目された。今回の作品もロサンゼルス・アジア太平洋映画祭で審査員特別賞を受けている。
『ホワイト・オン・ライス』のキャッチには「アメリカ版寅さん」とあった。たしかに。
アメリカで暮らすアイコ(NAE)とタク(高田ミオ)夫婦の家に、アイコの兄・ハジメ(渡辺広)がころがりこむ。別れた妻が忘れられないバツイチの40歳で、趣味は恐竜。小学生の息子の部屋に居候し、いろいろ仕事をやっているのだが失敗つづき。何をやってもうまくいかない。ある日、タクの姪ラモナ(リン・チェン)に再会したハジメは、美しく成長した彼女に心を奪われる……。
ハジメが寅さんなら、ラモナがマドンナ。アイコとハジメは、さくらと寅さんと同じ「賢い妹」に「ダメな兄」の関係。タクが、寅さんを半ば迷惑がりながら愛している、さくらの夫や叔父、叔母といった家族の役どころをひとりでになう。
寅さんのキャラクターが落語の影響を受けていることはよく知られている。寅さんも、その家族も、舞台になる下町の濃密な人間関係もリアリズムでなく、過去にも現在にも存在したことのない、人々の願望や夢のようなものであることは誰もが分かっている。現代の民話みたいなものだからこそ長寿なシリーズになった。
それをアメリカの日本人コミュニティに移しかえようというのはむずかしい試みだね。寅さんのキャラクターが民話として成立するのは、誰もがそれを了解し愛することのできる共同体あってのことだけど、それがない。となると、寅さん(ハジメ)は共同体から切り離された個人になってしまい、ただのルーザーであったり、マドンナにまとわりつくストーカーみたいになってしまう。
ハジメは何があってもめげず、最後には仕事も恋もなんとかなってしまう。寅さんが最後に必ず失恋して再び旅に出るのとちがって、そのあっけらかんに笑ってしまう。そのズレというか、ちぐはぐな感じが、この映画の面白さかもしれないな。
アメリカの日本人(アジア人)コミュニティを舞台に英語と日本語が行きかう(息子は家族内でも英語しかしゃべらない)こういう映画ができたこと、しかもそれをつくったのが日本映画オタクのアメリカ人だったってところが、いかにも今の映画づくりの裾野がどう広がっているかを表わしているようだ。
タイトルのwhite on riceとは、「引き剥がそうとしても、離れない。白とごはんは一体のものだから。つまりハジメを一家から引き剥がせない」という意味らしい。
Mio Takadaは、その引き剥がせないハジメと妻のアイコを苦々しい表情で見つめる夫の役を演じて、いい味出してる。NAEさんも、困ったちゃんの兄を優しく見つめる妹役で相変わらず魅力的でした。
(後記)ハジメとアイコを弟と姉と書きましたが、兄と妹でした。それに従って本文を直しました。指摘してくれたTAKAMI君、ありがとう。
Comments
渋谷での20日の上映会の情報はRadical Imaginationで知って慌てて問い合わせた時には既に満員でした。残念!と思っていたら4月に追加上映が決まったそうでよかったですね。
でももう観ちゃいました、DVDで。(TAKAMIさんの所に今あります。)
監督さんは「アメリカ版寅さん」を目指しているようですが、観た感想は…ちょっと苦しいかな?この際、寅さんは考えない方がよさそうです。
それより脚本が粗さが目に付きました。例えば…ピンクの包装紙のプレゼント(もっと突っ込んで!面白い展開が出来そうなのに。)、タクのギブス(あれ?どこでそうなったの?)etc
タクのヴァイオリン演奏はさすが!で格好良かったです。(息子のピアノもね。)
Posted by: Madam Ball | March 24, 2010 04:22 PM
ハジメはアイコの弟じゃなくて兄ではないか?
Posted by: Toshio TAKAMI | March 24, 2010 07:42 PM
>Madam Ballさま
まあ商業映画ではありませんから、いろいろ粗は目立ちますね。でも、タクのバイオリンはさすがプロの技でした(わざと下手に弾くことも含めて)。息子もピアノのうまい子を探したそうです。
>TAKAMIさま
僕は見ながら姉と弟だと思い込んでたけど、調べてみたら兄と妹なんだね。寅さんとさくらと同じなんだ。なぜそう思い込んだかと考えると、2人の間の空気がそう感じられたんですね。さっそく本文、直させてもらいます。ご指摘ありがとう。
Posted by: 雄 | March 24, 2010 11:06 PM