『ルドandクルシ』のゆるさ
『天国の口、終りの楽園。』ってメキシコ映画は、大ヒットしたわけでもなく、ベスト10クラスの映画でもなかったけれど、なぜか忘れがたい感触が残っている。
高校の同級生2人が、年上の女と3人で「天国の口」と呼ばれる伝説の海岸を探して旅に出る。とりたてて事件が起こるわけでもなく、なんてことない青春のロード・ムービーがメキシコののどかな風景のなかで展開される。現実感がなく、リアルな地上からほんの数センチ浮いているみたいな、ゆる~い幸福感が印象的だった。
『ルドandクルシ(原題:Rudo y Curci)』は、その『天国の口、終りの楽園。』の脚本を書いたカルロス・キュアロン(同作の監督、アルフォンソ・キュアロンの弟)の初監督作品。『天国の口』に主演した2人、その後、国際的に活躍しているガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナが共演している。
田舎のバナナ園で働くサッカー好きの兄弟がスカウトの目にとまり、メキシコシティに出てプロ選手として活躍するが、麻薬やギャンブルや女にはまり、あれやこれやで結局、田舎に逆戻り。そんな浮いたり沈んだりを、『天国の口』と同じような柔らかな語り口で楽しませてくれる。
もっともキュアロンは『天国の口』でヴェネツィアの脚本賞を取り、主演の2人も今やスターだから、映画の規模はぐっと大きくなっている。カルロスの兄、アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(『アモーレス・ペロス』)、ギレルモ・デル・トロ(『パンズ・ラビリンス』)というメキシコを代表する3人の監督が集まってつくった製作会社の第1作。それだけに、映画好きが好きなようにつくったらしい『天国の口』に比べると、ぐっと普通の映画に近づいてる。
人口の都市集中や麻薬といった問題も折り込んで社会派的な顔を持ってるし、コメディぽいシーンもあって、いろんな客層を狙うエンタテインメント映画の王道を行く。でも、ギャンブルにはまって借金を作った兄を脅しにくるギャングがスーパーでパンパースを探していたりして、そんなゆるさが『天国の口』の語り口に似て快い。
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