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February 05, 2010

『フローズン・リバー』とインディアン保留地

Frozenriver_2

一昨年、ニューヨークに住んでいたとき、週に2日はマンハッタンのチャイナタウンに足が向いた。いつもごったがえしているチャイナタウンの雑踏を歩き、果物や野菜を売っている屋台のおばちゃんの声を聞いていると、なぜかほっとした。

中国から来た友人と話をしていて、チャイナタウンの人口はどのくらいだろうという話になったとき、彼はこう言った。「9万とか10万とか言われてるけど(端から端まで歩いて20分ほどの狭い地域に)、正確な数は誰にも分からない。不法入国した中国人は、たいていチャイナタウンに隠れ住んで、ウェイターや売り子といった単純労働をやってる。それがどのくらいいるかは、誰も知らないから」(ちなみに映画に出てくるモホーク・インディアンもニューヨークに多数住んでいる)。

南からリオ・グランデ川を越えてアメリカに不法入国するヒスパニックのことは、映画や本で見たり読んだりしたことがあるけど、中国系の不法入国者がどんなふうにこの国に入ってくるのかは、まったく知らなかった。その答えのひとつが、『フローズン・リバー(原題:Frozen River)』を見て分かった。

舞台はニューヨーク州北部のカナダ国境。セント・ローレンス川をはさんでカナダ側にもアメリカ側にもインディアン、モホーク族のアクウェサスネ保留地(リザベーション)が広がっている。

主人公のひとりは、モホーク族の夫が蒸発した白人女性レイ(メリッサ・レオ)。もうひとりは、モホークの夫を失った、同じモホークのライラ(ミスティ・アップハム)。2人の子供をかかえるレイと、義母に子供を奪われたライラ。明日の生活費にも困る2人が、ふとしたことで知り合い、互いに反目しながらも密入国犯罪にかかわっていく。

2人の「仕事」は、冬に国境のセント・ローレンス川が凍結し、車で川面を走れるのを利用して、密入国者をトランクに隠しカナダ側の保留地からアメリカ側保留地に連れてくる運び屋。川を行き来するモホークのライラは、こう言う。「向こうとこちらの間に、国境はない」。

インディアン保留地は一定の自治権が認められており、警察もなかなか手を出せない。密入国者は中国人、パキスタン人など東洋系。監督のコートニー・ハント(これが長編第1作)は、夫の実家がカナダ国境にあり、密入国が多いのに興味を持って取材したと語っているから、現実も映画に近いんだろう。カナダには中国移民が多いから、それなりのルートもあるんだろうな。

ライラは保留地のギャンブル場、ビンゴ・パーラーで働いている。レイのモホーク族の夫はギャンブル中毒になって失踪した。これもまた、現実を反映しているにちがいない。

インディアン保留地はアメリカ史の暗部に深く根ざしている。先住民のアメリカ・インディアンを殺戮して広大な土地を開拓した白人は、生き残ったインディアンを保留地に閉じ込めた。東部の豊かな土地を保留地にした部族は、白人の投機家に土地を奪われ、数千キロ離れた西部の貧しい保留地へ強制移住させられたりもしている。

保留地では多分に名目だけとはいえ自治が認められ、わずかな年金も支給される。「自立」のためギャンブル場経営も認められている。僕もニュー・メキシコ州サンタ・フェ近くの保留地を走っていて、延々つづく沙漠のなかに突如出現したカジノにびっくりしたことがある。

でも土地は貧しく、産業も育たないから、多くのインディアンが貧困にあえいでいる。アルコール中毒や、この映画のようなギャンブル中毒になる者も多い。ひとことで言えば、「飼い殺し」にされている。

映画はそういう背景をさらりと描きながら、2人の女性の犯罪と家族のドラマに焦点をしぼってゆく。その家族のドラマの舞台となる場が、2人が住んでいるトレーラー・ハウス(モバイル・ホーム)だ。本来はキャンピング・カーだけど、アメリカでは貧困層の住居として使われている。

ひとり暮らしのライラは、ドアに穴が空いた、ごく狭いトレーラー・ハウスに住んでいる。子供が2人いるレイは、あと4400ドル払えばダブル・ワイドという広く「豪華」なトレーラー・ハウスが買えるのに、その金がないことから犯罪に手を染める。レイが持っているトレーラー・ハウスのパンフレットにある「Live the Dream」という文句が悲しい。

母と子の物語であり、家族の物語なんだけど、過剰にセンチメンタルにならないのがいいな。ライラが寂しげなダイナーで、奪われた幼児と同じくらいの子供を連れた親子をじっと見ている。窓の外からレイが、そのライラをじっと見ている。映画はそれ以上なにも言わないけれど、2人の間にかすかな共感が生まれたことを見る者は感じとる。

2人が爆弾と誤解して赤ん坊を隠したバッグを凍りついた川に置き去りにしたり、トラブルに巻き込まれ警察に追われるシーンも、ことさらサスペンスを盛り上げることをせず、ドキュメンタリーでも撮っているように淡々と描写しているのが好ましい。それだけに、おだやかなラストシーンがかすかに希望と明日を感じさせて暖かい。

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Comments

はじめまして。
TBさせていただきましたm--m

インディアン居住区のこと、興味深く読ませていただきました。
アメリカで根強く残る人種差別的なことを
母親であるという共通項で超えた2人のヒロインに考えさせられるものがありました。
「客を感動させてやる!」という過剰演出を排除し、
等身大のヒロイン像やストーリーに
逆にグッと深く心に沁み渡るようないい映画でした。

Posted by: カワベ | December 24, 2010 at 06:25 PM

インディアン保留地のことは私も詳しくありません。でも知れば知るほど、アメリカ建国が血にまみれていたことに改めて驚きます。今年読んだ小説、コーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』(早川書房)は、そんな建国当時の光景を臨場感あふれる筆で再現していました。

Posted by: 雄 | December 27, 2010 at 02:11 PM

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