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February 16, 2010

『インビクタス/負けざる者たち』のまっすぐ

Invictus

小生、40歳まで草ラグビーをやっていたから、一応はラグビー・ファンのつもり。ファンにとって、『インビクタス(原題:Invictus)』に描かれた1995年のW杯は思い出したくもない記憶だ。なにしろ、予選プールで日本はニュージーランド(オールブラックス)に17対145とW杯史上最多失点で敗れた。映画でもそのスコアに触れられていて、館内から失笑がもれるのがつらい。

どんなに実力差のあるチーム同士のゲームでも、100点取るのは大変だ。大学ラグビーや日本選手権の1回戦でときどきあるけど、印象としてはゲームの最初から最後まで一方的に攻め、トライを重ねてはじめて100点の大台に乗る。それが145点というんだから、想像もつかない。薫田主将以下、平尾、元木、ラトゥ、堀越、増保といった面々(出場メンバーは未確認)で、歴代日本代表のなかでも悪いチームじゃないけど、なにかが切れてしまったんだろう。

それはともかく、ラグビーは世界的にもマイナー・スポーツだから、競技をテーマにした映画はごく少ない。記憶に残っているのは、1960年代の『孤独の報酬(This Sporting Life)』くらいか。当時のイギリス・ニューシネマの1本で、リチャード・ハリスが元炭鉱夫のプロ・ラグビー選手を演じた。といってもラグビーはあくまで背景にすぎず、労働者階級の孤独で寂しい恋愛映画だった。

その意味で、ラグビーそのものをこんなにきちんと描いた映画は初めてかもしれない。

悪名高いアパルトヘイト体制の間、南アフリカのラグビー代表チームは国際マッチから締め出されていた。それでも南ア・チームの強さは知れわたっていたから、南アは「影の最強国」と言われていた(ドラマ性を高めるためか、映画では最初、弱小チームみたいに描かれてるけど、そこだけは違う)。

アパルトヘイトが崩れ、ネルソン・マンデラが大統領に就任して南アは国際マッチに復帰し、首都ヨハネスブルクでラグビーW杯が開かれることになった。映画は、W杯での南ア代表チームの戦いを忠実に追ってゆく。

ラグビー・ジャーナリスト村上晃一のブログには、この映画を見た元日本代表のフランカー梶原宏之の、こんな感想が紹介されている。「試合の場面はよく再現されている。専門家がそうとう綿密に指導していますね。西サモア(現サモア)戦の南アフリカのサインプレーもそのままでしたよ」。

7トライでトライ王に輝いた最大のスター、オールブラックスのロムーを演じたのはトンガ出身のラグビー選手で、つい最近まで現役としてプレーしていたザック・フュナティ。顔も似てるし、体が大きいこともそっくりで、南ア代表のキャプテン、ピナールに扮したマット・デイモンがタックルにいくシーンなんか、おいおい大丈夫? と心配してしまう。

きちんと再現されているのは試合だけはでない。大統領になったネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が初めて大統領府に顔を出す朝、白人スタッフが荷物をまとめて出ていこうとしている。マンデラは彼らを集め、協力して国をつくっていこうと話しかける。さらに反政府時代からマンデラを守ってきた黒人の護衛官たちに加えて、新大統領は新たに白人の護衛官を任命する。彼らははじめ反目し、ぎくしゃくしながらも、共同して任務に当たる。

旧支配者だったアフリカーナー(オランダ系)ら白人と、新たに政権中枢についた黒人の間の不安や確執、民族意識がていねいに描かれている。南アに行ったことのある知り合いのジャーナリストは映画を見て、「白人黒人の融和を強調しすぎてるきらいはあるけど、状況はきちんと押さえられてる」と言っていた。

監督のクリント・イーストウッドは、そんなふうにアパルトヘイト崩壊後の社会状況を押さえたうえで、黒人のマンデラ、白人のピナールという2人のまっすぐな人物を配している。「インビクタス」という詩を媒介に2人の友情を描きながら、予選プール、準決勝、オールブラックスとの決勝と、W杯の興奮を盛り上げてゆく。

このあたり、職人監督としての腕の見せどころといった感じ。全体として爽やかで、社会的視点を持ちあわせ、劇的興奮もありの、良質なハリウッド映画に仕上がっている。さすがイーストウッド監督、たっぷり楽しませてもらった。

もっとも僕個人の好みでいえば、この作品や『チェンジリング』のような「正しい主人公」を配した作品より、『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』のように内部に屈託を抱えた人物を主人公にした作品のほうが好きだ。もともと監督としてのイーストウッドは、監督第1作『恐怖のメロディ』以来、そういう人物像を好んで描いてきた。

といっても、イーストウッド監督はそればかりじゃなく、『スペース・カウボーイ』の痛快エンタテインメントもあれば、ハードボイルドの『ブラッド・ワーク』、純愛ものの『マディソン郡の橋』、そして『父親たちの星条旗』のような戦争映画の傑作もある。それもこれもイーストウッドなんだから、すごい。やっぱりハリウッドを代表し、王道を行く映画監督なんだなあ。

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Comments

こんにちは。マダムSです。
今年に入ってブログを引っ越し、HNもエマと改めました。よろしくお願い致します。
いつもながら、いちいち頷きながら雄さんの記事を幾つか読ませて頂きました。
ラグビーに疎い人間ですが、弱小チームがいくらなんでも優勝はないだろうとは思っていましたが、やはり元々強豪ではあったのですね^^。
 >内部に屈託を抱えた人物を主人公にした作品のほうが・・
私も好みですが、久々にこういう”正統派まっすぐ”も気持ちが良いものですね。

Posted by: エマ | March 05, 2010 at 10:44 AM

こんにちは。マダムSからエマへ、華麗なる変身(?)ですね。

新しいブログ拝見しました。映画だけでなく、旅行、グルメなどなど、楽しみにしています。小生のブログも身辺雑記を交えていますので、親しみを感じます。

これからたびたび訪問させていただきますね。

Posted by: | March 05, 2010 at 12:40 PM

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