『インビクタス/負けざる者たち』のまっすぐ
小生、40歳まで草ラグビーをやっていたから、一応はラグビー・ファンのつもり。ファンにとって、『インビクタス(原題:Invictus)』に描かれた1995年のW杯は思い出したくもない記憶だ。なにしろ、予選プールで日本はニュージーランド(オールブラックス)に17対145とW杯史上最多失点で敗れた。映画でもそのスコアに触れられていて、館内から失笑がもれるのがつらい。
どんなに実力差のあるチーム同士のゲームでも、100点取るのは大変だ。大学ラグビーや日本選手権の1回戦でときどきあるけど、印象としてはゲームの最初から最後まで一方的に攻め、トライを重ねてはじめて100点の大台に乗る。それが145点というんだから、想像もつかない。薫田主将以下、平尾、元木、ラトゥ、堀越、増保といった面々(出場メンバーは未確認)で、歴代日本代表のなかでも悪いチームじゃないけど、なにかが切れてしまったんだろう。
それはともかく、ラグビーは世界的にもマイナー・スポーツだから、競技をテーマにした映画はごく少ない。記憶に残っているのは、1960年代の『孤独の報酬(This Sporting Life)』くらいか。当時のイギリス・ニューシネマの1本で、リチャード・ハリスが元炭鉱夫のプロ・ラグビー選手を演じた。といってもラグビーはあくまで背景にすぎず、労働者階級の孤独で寂しい恋愛映画だった。
その意味で、ラグビーそのものをこんなにきちんと描いた映画は初めてかもしれない。
悪名高いアパルトヘイト体制の間、南アフリカのラグビー代表チームは国際マッチから締め出されていた。それでも南ア・チームの強さは知れわたっていたから、南アは「影の最強国」と言われていた(ドラマ性を高めるためか、映画では最初、弱小チームみたいに描かれてるけど、そこだけは違う)。
アパルトヘイトが崩れ、ネルソン・マンデラが大統領に就任して南アは国際マッチに復帰し、首都ヨハネスブルクでラグビーW杯が開かれることになった。映画は、W杯での南ア代表チームの戦いを忠実に追ってゆく。
ラグビー・ジャーナリスト村上晃一のブログには、この映画を見た元日本代表のフランカー梶原宏之の、こんな感想が紹介されている。「試合の場面はよく再現されている。専門家がそうとう綿密に指導していますね。西サモア(現サモア)戦の南アフリカのサインプレーもそのままでしたよ」。
7トライでトライ王に輝いた最大のスター、オールブラックスのロムーを演じたのはトンガ出身のラグビー選手で、つい最近まで現役としてプレーしていたザック・フュナティ。顔も似てるし、体が大きいこともそっくりで、南ア代表のキャプテン、ピナールに扮したマット・デイモンがタックルにいくシーンなんか、おいおい大丈夫? と心配してしまう。
きちんと再現されているのは試合だけはでない。大統領になったネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が初めて大統領府に顔を出す朝、白人スタッフが荷物をまとめて出ていこうとしている。マンデラは彼らを集め、協力して国をつくっていこうと話しかける。さらに反政府時代からマンデラを守ってきた黒人の護衛官たちに加えて、新大統領は新たに白人の護衛官を任命する。彼らははじめ反目し、ぎくしゃくしながらも、共同して任務に当たる。
旧支配者だったアフリカーナー(オランダ系)ら白人と、新たに政権中枢についた黒人の間の不安や確執、民族意識がていねいに描かれている。南アに行ったことのある知り合いのジャーナリストは映画を見て、「白人黒人の融和を強調しすぎてるきらいはあるけど、状況はきちんと押さえられてる」と言っていた。
監督のクリント・イーストウッドは、そんなふうにアパルトヘイト崩壊後の社会状況を押さえたうえで、黒人のマンデラ、白人のピナールという2人のまっすぐな人物を配している。「インビクタス」という詩を媒介に2人の友情を描きながら、予選プール、準決勝、オールブラックスとの決勝と、W杯の興奮を盛り上げてゆく。
このあたり、職人監督としての腕の見せどころといった感じ。全体として爽やかで、社会的視点を持ちあわせ、劇的興奮もありの、良質なハリウッド映画に仕上がっている。さすがイーストウッド監督、たっぷり楽しませてもらった。
もっとも僕個人の好みでいえば、この作品や『チェンジリング』のような「正しい主人公」を配した作品より、『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』のように内部に屈託を抱えた人物を主人公にした作品のほうが好きだ。もともと監督としてのイーストウッドは、監督第1作『恐怖のメロディ』以来、そういう人物像を好んで描いてきた。
といっても、イーストウッド監督はそればかりじゃなく、『スペース・カウボーイ』の痛快エンタテインメントもあれば、ハードボイルドの『ブラッド・ワーク』、純愛ものの『マディソン郡の橋』、そして『父親たちの星条旗』のような戦争映画の傑作もある。それもこれもイーストウッドなんだから、すごい。やっぱりハリウッドを代表し、王道を行く映画監督なんだなあ。
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» 『インビクタス 負けざる者たち』 [ラムの大通り]
(原題:Invictus)
あけましておめでとうございます。
----いやあ、元旦からブログなんて
えいも暇だニャあ。
「まあ、たまにはそういう年があってもいいんじゃない」
----だけど、まだお屠蘇が残っているじゃニャい。
なのに、クリント・イーストウッド監督作品だって?
そんなんでいいのかニャあ。
「うん。いいと思う。
この映画は、このところ密度の濃い作品を立て続けに放ってきた
イーストウッドが、ちょっとだけ肩の力を抜いて作ったような感じ。
それと、映画の中に込められているメッセージから... [Read More]
Tracked on February 16, 2010 08:38 PM
» お薦め映画『インビクタス/負けざる者たち』 [♪心をこめて作曲します♪]
★★★★★娯楽作品と言う程にはくだけていないものの、社会派ドラマの割にはユーモアもあり、手に汗握るスポ根ものとしても見ごたえあり。 鑑賞後がさわやかなお薦め作品である。 [Read More]
Tracked on February 16, 2010 09:19 PM
» 『インビクタス/負けざる者たち』 [Rabiovsky計画]
『インビクタス/負けざる者たち』公式サイト
監督・製作:クリント・イーストウッド
原作:ジョン・カーリン
出演:モーガン・フリーマン 、マット・デイモン
2009年/アメリカ/134分
おはなし Yahoo!映画
1994年、マンデラ(モーガン・フリーマン....... [Read More]
Tracked on February 16, 2010 09:21 PM
» インビクタス 負けざる者たち / INVICTUS [我想一個人映画美的女人blog]
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クリント・イーストウッド監督、記念すべき30作目{/ee_3/}
スポーツものってあまり好きじゃないし、(「少林サッカー」みたいのは別 {/warai/})。
タイトルにもポスターにもあまり惹かれなかったけど
コンスタントに名作を撮り続けるイーストウッド、その作品にはハズレなし!なので見逃すわけにはいきません。
来週か... [Read More]
Tracked on February 16, 2010 10:27 PM
» インビクタス 負けざる者たち [LOVE Cinemas 調布]
『チェンジリング』、『グラン・トリノ』と素晴らしい名作を世に送り出し続けているクリント・イーストウッド監督の最新作。アパルトヘイト撤廃後のラグビー南アフリカワールドカップを巡りマンデラ大統領を中心とした実話を映画化したヒューマンドラマだ。主演はマンデラ元大統領たっての願いでもある名優モーガン・フリーマンと、「ボーン」シリーズのマット・デイモン。また一つ名作が生まれる。... [Read More]
Tracked on February 16, 2010 10:58 PM
» 映画:インビクタス Invictus 開始5分で既に号泣(笑) これまた強烈な1発にノックアウト! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
昨年は「チェンジリング」で、まずファースト・ダウン。
続いて、ヤバイかもと身構えたにもかかわらず、ぶっ飛ばされた超魔球「グラントリノ」
そして今日、
三たびふっ飛ばされノックアウト!
ナゼここまで書くかというと.....
過去触れているように、私はずっと「イースドウッド監督もの」嫌いだったからだ!
と聞けば、ただのスポーツ物では全くないことをご理解いただけようか。
タイトルにもあるように、最初の5分だけで、もう既に「号泣」(マジで)
あとは思想とか批評とかなんていう概念なぞ超越し、ただ画... [Read More]
Tracked on February 17, 2010 01:05 AM
» 『インビクタス/負けざる者たち』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「インビクタス/負けざる者たち」□監督 クリント・イーストウッド□脚本 アンソニー・ペッカム□原作 ジョン・カーリン □キャスト モーガン・フリーマン、マット・デイモン、ザック・フュナティ、グラント・L・ロバーツ、 トニー・キゴロギ、スコット・イーストウッド、ラングレー・カークウッド、ボニー・ヘナ■鑑賞日 2月7日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★★(5★満点、☆は0.5)<感想> ラグビーのノーサイド。 戦い終わっ... [Read More]
Tracked on February 17, 2010 12:12 PM
» 「インビクタス/負けざる者たち」 INVICTUS [俺の明日はどっちだ]
・
ブラボー! イーストウッド翁!
いやはや、本作で30作目を迎えるというそのとどまるところを知らない創作パワーも驚異的だけど、近年に至っては作り出される作品それぞれのクオリティの高さにもまた、ただただひれ伏すばかり。
アパルトヘイト撤廃後も人種間対立が残る中、国民が一つにまとまる大きな転機となった自国開催のラグビーW杯での奇跡の初優勝までの道のりを、ネルソン・マンデラ大統領と代表チーム・キャプテンを務めたフランソワ・ピナール選手との間に芽生える絆を軸に描き出した本作もまたイーストウッドらしから... [Read More]
Tracked on February 18, 2010 05:32 PM
» 『インビクタス/負けざる者たち』〜ラグビーでシロクロ同色〜 [Swing des Spoutniks]
『インビクタス/負けざる者たち』公式サイト監督:クリント・イーストウッド出演:モーガン・フリーマン マット・デイモン トニー・キゴロギ パトリック・モフォケン マット・スターンほか【あらすじ】(goo映画より)1994年、南アフリカ共和国初の黒人大統領に就任した...... [Read More]
Tracked on February 20, 2010 05:00 PM
» 「インビクタス/負けざる者たち」不屈の精神は穏やかで強靭なものだった [soramove]
「インビクタス/負けざる者たち」★★★★☆
モーガン・フリーマン、マット・デイモン主演
クリント・イーストウッド 監督、134分、 2010年2月5日公開、2009,アメリカ,ワーナー
(原題:INVICTUS)
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ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)。
彼が仕掛けた新たな挑戦とは、
国代表のラグビー・チームの... [Read More]
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» 「インビクタス/負けざる者たち」感想 [狂人ブログ 〜旅立ち〜]
今やハリウッド有数のヒットメイカーとなった名監督・クリント・イーストウッドの最新作は、南アフリカ初の黒人大統領となった”英雄”ネルソン・マンデラ氏と、「国の恥」とまで評された弱小ラグビーチーム・スプリングボクスによってもたらされた、1995年ラグビー...... [Read More]
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Tracked on February 26, 2010 04:48 AM
» 最近観た映画(2010.1〜2月) 劇場編 [Brilliant Days Part?]
1月〜2月の間に 映画館で鑑賞した作品は最終的に6本でした!GG賞の発表を聞いて、慌てて隣の隣の都市まで観に行った『イングロリアス・バスターズ』、 予告編を観て死後の世界がどんな風に映像化されているのか興味があり『ラブリー・ボーン』、 ヒースの遺作『Dr.パルナサスの鏡』、 久々のアルモドヴァル『抱擁のかけら』、 イーストウッドの『インビクタス』、 久々の邦画『食堂かたつむり』 期待以上のもの、期待はずれもありで・・。 (3/4 記事追加! )nbsp; nbsp;... [Read More]
Tracked on March 05, 2010 10:46 AM
» インビクタス [映画的・絵画的・音楽的]
『インビクタス/負けざる者たち』を渋谷のシネパレスで見ました。
クリント・イーストウッド監督の作品については、これまでも随分とおつきあいをし、昨年だけでも『チェンジリング』と『グラン・トリノ』の2本を見ているので、この作品もぜひと思って映画館に出向きました。
(1)見る前にあまり情報を持っておらず、偶々耳にした話から、南アフリカのマンデラ大統領とサッカーの話なのかしらと漠然と思っていましたら〔ちょうど、南アでサッカーのワールドカップがもうすぐに開催されることもあるしと〕、ラグビーの話なのでア... [Read More]
Tracked on March 07, 2010 07:57 AM
» 『インビクタス 負けざる者たち』09・米 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ]
あらすじ1994年、マンデラ(モーガン・フリーマン)はついに南アフリカ共和国初の黒人大統領となる。いまだにアパルトヘイトによる人種差別や経済格差の残る国をまとめるため、彼はラグビーチームの再建を図る。1995年に自国で開催するラグビー・ワールド・カップ...... [Read More]
Tracked on March 08, 2010 11:29 PM
Comments
こんにちは。マダムSです。
今年に入ってブログを引っ越し、HNもエマと改めました。よろしくお願い致します。
いつもながら、いちいち頷きながら雄さんの記事を幾つか読ませて頂きました。
ラグビーに疎い人間ですが、弱小チームがいくらなんでも優勝はないだろうとは思っていましたが、やはり元々強豪ではあったのですね^^。
>内部に屈託を抱えた人物を主人公にした作品のほうが・・
私も好みですが、久々にこういう”正統派まっすぐ”も気持ちが良いものですね。
Posted by: エマ | March 05, 2010 10:44 AM
こんにちは。マダムSからエマへ、華麗なる変身(?)ですね。
新しいブログ拝見しました。映画だけでなく、旅行、グルメなどなど、楽しみにしています。小生のブログも身辺雑記を交えていますので、親しみを感じます。
これからたびたび訪問させていただきますね。
Posted by: 雄 | March 05, 2010 12:40 PM