« 正月の庭 | Main | 浦和ご近所探索 別所沼・1月 »

January 05, 2010

『パブリック・エネミーズ』のフェティッシュ

Public_enemies

1930年代、大恐慌下のアメリカで悪玉ヒーローになった銀行強盗ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)が、恋人ビリー(マリオン・コティヤール)に初めて会ってダンスするシカゴのクラブ。バンドづきの歌手が「バイ・バイ・ブラックバード」を歌っている。20年代のヒット曲で、後にマイルス・デイヴィスの名演でジャズ・ファンにはおなじみになった曲。おや、聴いたことのある歌声だなと思ったら、ダイアナ・クラールのカメオ出演じゃありませんか。

誰も僕を分かってくれない、と恋人に訴える内容の「バイ・バイ・ブラックバード」が、ラスト・シーンで泣かせる仕掛けとして使われている。

その直前、デリンジャーが密告されているのも知らずに入る映画館では、クラーク・ゲーブルの『マンハッタン・メロドラマ』が上映されている。劇中のゲーブルが「バイ!」と告げる別れの挨拶がジョンの気持ちに重なるのを、見ている者は感じてしまう。

そんな仕掛けや、30年代を象徴する大道具小道具の使い方が憎いほどうまいなあ。本物のスチュードベーカーの車が動いてメタリックな輝きを放ってる。無数のランプが灯り、コードが絡み合う電話交換室のビジュアルも見応えがある。フェティッシュな映像。デリンジャーが襲うファースト・ナショナル銀行や、銃撃戦の舞台リトル・ボヘミア・ロッジ、映画館のバイオグラフ・シアターなんかも、当時のまま残っている建物を使ってロケしている。

TVの『マイアミ・バイス』で名を上げたマイケル・マンを、けっこう面白い映画つくるなあと見直したのは『コラテラル』だった。それまではデ・ニーロとアル・パチーノ2大スター共演の『ヒート』はじめ、凡庸な監督って印象しかなかったからなあ。『コラテラル』ではじめて、激しいアクションのなかにトム・クルーズ演ずるクールな殺し屋の虚無をさらりと描いてみせる、独特のスタイルをつくったように思えた。映画版『マイアミ・バイス』や、この『パブリック・エネミーズ(原題:Public Enemies)』でも、その基調は変わらない。

細かく揺れる手持ちカメラで、時には近づきすぎて顔がゆがむほどクローズアップを重ねる画面。対照的に空や森が美しいロング・ショット。闇の艶やかさも素敵だ。発射音がずしんと響く銃撃戦も迫力があって、ノワール系アクション映画のツボを心得てる。撮影は『ヒート』『LAコンフィデンシャル』のダンテ・スピノッティ。

ビリーとの愛を絡めながら、銀行を襲い、捕まっても脱獄するデリンジャーと、彼を追うFBIのハーヴィス捜査官(クリスチャン・ベイル)との追跡劇が快いテンポでラストに向かってゆく。アクション映画として、たっぷり楽しめる。ただし、マイケル・マンのことだからスタイルが先に立ち、肝心のデリンジャーをはじめとする人物造形はいかにも弱い。

1973年にジョン・ミリアスが監督し、ウォーレン・オーツが主演した『デリンジャー』を見てるからなあ。ミリアス版の、殺伐とした時代のリアルな空気、何かに追われるように逃げつづけるデリンジャーの姿は忘れがたい。それに比べれば、マイケル・マン版はラブロマンスの色が濃く、甘い空気が強すぎる。ミリアス版に比べれば美男美女のカップルだし、名優ウォーレン・オーツとジョニー・デップの差も大きいかも。

|

« 正月の庭 | Main | 浦和ご近所探索 別所沼・1月 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/47207149

Listed below are links to weblogs that reference 『パブリック・エネミーズ』のフェティッシュ:

» ★「パブリック・エネミーズ」 [★☆ひらりん的映画ブログ☆★]
週末ナイトショウを観に「TOHOシネマズららぽーと横浜」に行ってきました。 夜中だっていうのに激混みだったよーー。 ツイッター見てて、朝の回から満員御礼の劇場が続出だって聞いてた、 「One Peace」のお客だったのね。... [Read More]

Tracked on January 05, 2010 at 11:13 PM

» パブリック・エネミーズ / PUBLIC ENEMIES [我想一個人映画美的女人blog]
{/hikari_blue/}{/heratss_blue/}ランキングクリックしてね{/heratss_blue/}{/hikari_blue/} ←please click 社会の敵ナンバーワン=Public Enemy No.1と言えば、先日観た ヴァンサン・カッセル主演の「ジャック・メスリーヌ/フランスでパブリック・エネミーNo.1と呼ばれた男」 あちらはタイトルにもあるようにフランスで、 こちらはアメリカでナンバーワン。時代も違うし別人。 マイケル・マン監督作は「ラスト・オブ・モヒ... [Read More]

Tracked on January 05, 2010 at 11:27 PM

» パブリック・エネミーズ [★YUKAの気ままな有閑日記★]
ちょっと風邪引いちゃったんだけど、、、ジョニーに会いたくって朝一で鑑賞【story】鮮やかな手口で銀行から金を奪い、不可能とも思える脱獄を繰り返す世紀のアウトロー、ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)。利益を独り占めする銀行を襲撃する大胆不敵な犯罪行為、強者から金を奪っても弱者からは一銭も奪わないといった独自の美学を貫くカリスマ性に、不況に苦しむ多くの国民は魅了された。ある日デリンジャーは、ビリー(マリオン・コティヤール)と出会い一目惚れし、強引に自分の女にしようとする。ビリーは危険を承知でそん... [Read More]

Tracked on January 05, 2010 at 11:36 PM

» 『パブリック・エネミーズ』 [ラムの大通り]
(原題:Public Enemies) ----『パブリック・エネミーズ』。 これって直訳すると“社会の敵”だよね。 ということは、主役のジョニー・デップは悪役ってこと? 「そうだね。 彼が演じているのは、FBI史上初の “社会の敵ナンバーワン”に指名された犯罪者デリンジャー。 彼は“汚れた金しか奪わない”というポリシーを持っていて 当時の大衆の心をつかんだ、いわば義賊。 そう、これは実話を基にしたピカレスク・ロマンってヤツかな」 ----日本で言えば鼠小僧? 「う〜ん。カッコよさで言えば、... [Read More]

Tracked on January 05, 2010 at 11:51 PM

» 映画:パブリックエネミーズ PUBLIC ENEMIES デップ+マイケル・マン=無性にカッコよすぎ [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
我ながらドバイばっかりでゲップが出てきた(だいたい仕事で行ってるし) ので、機内映画だったコレを紹介。 この映画、まずはデップ。 (クリスチャン・ベールもがんばっているのだが、役的にかなわない) そして、監督・脚本・製作のマイケル・マンの2人に尽きるだろう。 だいたい、マイケル・マンの映画は「当たらない」(=ヒットしない) 「男」を描かせたら天下一品!で映画通好みにもかかわらず。 「ヒート」「インサイダー 」「コラテラル」「キングダム 見えざる敵」(製作)とか、プンプンに「男」臭さが炸裂してい... [Read More]

Tracked on January 06, 2010 at 09:39 PM

» 「パブリック・エネミーズ」 Public Enemies [俺の明日はどっちだ]
・ 1930年代前半のアメリカ。利益を独り占めする銀行を大胆不敵に幾度となく襲撃し金を奪い、不可能とも思える脱獄を繰り返した世紀のアウトロー、ジョン・デリンジャー。そんな彼の壮絶な運命を久々映画化ということでかなり期待していた作品。 なるほど指名手配中にもかかわらずわざわざ捜査本部にまで出向いてしまうふてぶてしさをもつ主人公扮するジョニー・デップのエキセントリックではなく説得力あるクールな演技は充分に魅力的だったし、当時の建物を実際に使ったことに加え、1930年代を見事に再現したホテル、タクシ... [Read More]

Tracked on January 07, 2010 at 08:38 PM

» パブリック・エネミーズ [Addict allcinema おすすめ映画レビュー]
奪うのは、汚れた金 愛したのは、たった一人の女。 [Read More]

Tracked on January 17, 2010 at 07:16 PM

» [遅ればせながら、映画『パブリック・エネミーズ』を観た] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆もうすぐ公開が終了してしまいそうだったので、いまいち、気分が乗らなかったのだが、『パブリック・エネミーズ』を観に行く。  何で気分が乗らなかったかと言うと、何となく雰囲気的に『ジェシー・ジェームズの暗殺』っぽい雰囲気があって、  『ジェシー・・・』は完成度は高いのだが、アメリカの歴史上で有名な人物の末期を描いており、アメリカ人にはその前段階の活躍が既知のことなのだろうが、私には感情移入が難しく、派手なアクション作品でもなかったので、娯楽として楽しむにはきつかったのだ。  そう、『チェ』二部作... [Read More]

Tracked on January 21, 2010 at 03:02 AM

« 正月の庭 | Main | 浦和ご近所探索 別所沼・1月 »