正月から『東京大学のアルバート・アイラー』
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「本と映画とジャズ」というブログをやってるのに、年末と正月は映画にもジャズにも縁遠い日々でした。せいぜい一昨年ニューヨークではまったテレビ映画「コールドケース」の特集を4本見たくらい。
せめて本くらいというわけで、菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録 歴史編・キーワード編』(文春文庫)を読みふけりました。
この本については、毎月、書評を書いている「ブック・ナビ」で相方の<正>氏がていねいに論じているので、詳しい内容はそちらにお任せするとして、昨年ライブを追いかけた菊地成孔が自分について語っている面白い言葉があったのでピックアップしておこうかな。このブログは公開してるから他人さまに読んでいただくのが前提だけど、自分のためのメモ代わりでもあるので。
菊地がメンバーだったバンドONJOのリーダー、大友良英との対話から。
「O(大友) 俺ね、阿部薫はフリー・ジャズって言われてるけど、阿部薫はパンクだと思ってる。
K(菊地) 俺もブギャブギャーとか吹くじゃない?(注・菊地がアドリブしながら出すフリージャズのノイズみたいな音) それ聴いて俺がこれ(注・阿部薫の音)と同じだと思う人もいるんだよね。
O ナルちゃん(注・ナルちゃん!て呼ばれてるんだ)の『ブギャーッ』は全然違うよね。醒め切ってるもん。
K そうそう。全然違うモノで、俺のはポルノっていうか、AVで女優が喘ぎ声出してるようなもんで(笑)。言うなれば洋ピンだよ」
大友のアルバムに菊地を呼んだ理由について。
「O 単にね、ナルちゃんのエロいサックスが必要だったから呼んだだけですね。
K 洋ピンが必要で(笑)」
「洋ピン」には説明がいるかもしれないなあ。「洋ものピンク映画」のこと。小生の高校時代にも、『アバター』も真っ青、赤青の眼鏡をかけて見る飛び出す洋ピン『パラダイス』なんてのがありました。それにしても、菊地成孔の音を「エロいサックス」とは言いえて妙だなあ。いま、あんなに艶っぽい音を出すサックスはいませんもの。しかもそれが「AV女優の喘ぎ声」=フェイクだって自ら言うんですから。
最高に艶っぽくて、しかもフェイク。ホットとクールがどちらがどうと識別できないほど密に絡みあったウロボロスの環みたいな音が、菊地成孔の秘密なのかもしれない、なんて、この本を読んで思ったことでした。
こうも言っている。「音楽家としての僕っていうのは自意識としても客観的な評価としても、かなりオールド・ファッションドなポップ&ファンク・メイカーであり、ブルースメンでもあるわけです。即興演奏家ではなくあくまでもジャズメンであって」。
「オールド・ファッションド」とはまた韜晦じみた発言だけど、「ブルースメン」であることは確かでしょうね。ウィントン・マルサリスみたいなフェイクと違って、それがエロになり艶にもなるでわけです。
ほかにも、自分のことを「ダンス・ミュージックのクリエイター」と呼んでいて、踊れる音楽を志向してることを表明してます。クラブでのライブが多いのも、そのせいでしょう。もっとも、彼のジャズ・グループであるダブ・セクステットは50年代マイルス・デイビスという、踊りから最も遠い音を光源にしている。そこもまたウロボロスなんですね。
なんて書いてたら、ああ、菊地成孔を聴きたくなってきた。CDを数枚持ってるけど、フリージャズと同じで、彼の音楽は聴くものでなく参加してこそ、その魅力にひたることができます。次のライブは確か2月だったか。
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