嶋津健一トリオ『The Composers Ⅰ』
新作『The Composers Ⅰ』(Roving Spirits)を出した嶋津健一トリオのライブを聴いた(12月26日、赤坂・Relaxin)。メンバーは嶋津のピアノに、加藤真一(b)、岡田佳大(ds)。
演奏したのは、その新しいCDからの曲が多い。CDに入っている10曲のうち6曲が嶋津のオリジナル。あとの4曲はミシェル・ルグランの曲だ。
いちばん好きなのは、この日のオープニングでも演奏した「I Will Wait You(シェルブールの雨傘)」。映画では甘美でスローなラブソングだけど、嶋津の演奏は軽快にスイングしてる。メロディーにアクセントがつけられてるから、何気なし聴いてると、どこかで聞いた曲だけど何だったけ? 黒い瞳? なんて迷ったりする。CDでは、甘いメロディの香りを残したままピアノのアドリブが次第に高揚していくのが手に取るように分かる。スタジオ録音だけど、20人ほどの客(小生もその一人だった)をスタジオに入れているから半分ライブみたいな空気。それが効いてる。
嶋津の曲「You! Name It」はバド・パウエルみたいな雰囲気の曲で、これも気持ちよくスイングする。こういうの好きだなあ。
「Tender Road to Heaven」はライブでもCDでも嶋津のソロ・ピアノで。栗本薫(中島梓)に捧げられた曲。嶋津は栗本のジャズ・ピアノの師匠で、それだけでなく栗本のミュージカルの音楽を担当したりもしていた。おだやかで優しいテーマが、変奏されるごとに一段づつ階段を上がって天に近づいてゆくような曲。栗本への感謝と祈りが込められている。
嶋津健一が弾くスローバラードの美しさはファンなら誰でも知っている。この日も、新作に納められたバラードから何曲か。知り合いの女性は「涙が出そうになった」と言ってた。そのうちのいくつかは、メロディーとリズムがいわゆるジャズからはみだしかけているようにも聞こえる。アメリカに10年いて第一線で活躍し、帰ってきた嶋津が、自分にしか弾けない独自な世界を求めた結果なのだろう。
来年は『The Composers』の第2弾が出るらしい。楽しみだ。
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