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December 19, 2009

『倫敦から来た男』 夢魔のような

The_man_from_london

夜。霧が流れる港。カメラが海面からゆっくり上昇しながら、光と影にくっきり分かれた船の船首をなめるように映し出す。カメラの前をアウトフォーカスになった窓枠らしきものの影が下方に横切るから、どうやらカメラは室内に、それもかなり高い位置に置かれているらしい。室内では男が後ろ姿を見せて窓の外を見ている。カメラは男の肩ごしにデッキに近づいて、船上でのある出来事を映しだす。上へと移動してきたカメラが今度は水平に移動すると、窓の外の桟橋に列車が横づけされ、発車を待っているのが見える。逆光で真っ黒になった男の歩き去る影が長く伸びている。

『倫敦から来た男(原題:The Man from London)』冒頭の十数分間、ゆっくり移動しながらの長回し。ここまで2カットだったか3カットだったか。音は不安げな弦楽の繰り返し。モノクロームの夢を見ているような感触に釘づけにされる。はて、これらの出来事を目撃している男が、そしてカメラが置かれている空間はどんなところだろう。

それが明らかにされるのは、男がその空間から出てゆき、また戻ってきたとき。そこは港に隣接した鉄道駅の管制室だった(上のポスター)。夜と霧。港と船。鈍く光る線路と列車。湾の向こうに遠く光る町の灯り。闇に輝く管制室。ざわざわと見る者の胸を騒がせる夢魔のようなイメージ。タル・ベーラ監督はこれを撮りたかったんだろうな。

この外界から閉ざされた「ガラスの檻」は、この映画の核となる出来事が、その男マロワン(ミロスラヴ・クロボット)の孤独な心のなかで生起することの比喩とも言えそうだ。映画は、男の心理描写を一切しないけれど。

初老の鉄道員マロワンが、ある夜、管制室から殺人を目撃する。彼は殺人の原因になった、大金の詰まったカバンを手に入れる。やがて、彼の周りにカネを探す殺人者や、殺人者を追う刑事が姿を現してマロワンを脅かす。

片隅で実直に生きてきた男が、ふとしたはずみで犯罪に巻き込まれる。メグレ警視シリーズで有名な、いかにもジョルジュ・シムノンらしい物語。北西フランスの寂しい港町を舞台に、暗く重苦しい空気をタル・ベーラ監督は余分なものを一切省いて再現している。

原作がどうなっているのか知らないけど、結末はすとんと腑に落ちるようにはつくられていない。いろいろ忖度はできるけど、疑問は残る。それもシムノンの世界ということかな。寂しい港のロケ地はコルシカ島、そこに管制室はじめセットをつくったらしい。

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» 『倫敦から来た男』 [ラムの大通り]
(原題:A londoni terfi) -----この映画ってモノクロ。 しかも138分もあるんだって。 観るの、きつくなかった? 「いや、思ったほどでもなかったね。 観る前に、静かな映画と聞かされていたし、 監督が監督。 正直、大丈夫かなという一抹の不安はあったけどね」 ----監督が監督って? 「ハンガリーの鬼才タル・ベーラ。 7時間半にも及ぶ大作『サタンタンゴ』や 傑作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』で観客を熱狂させ、 ブラッド・ピット、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュら世... [Read More]

Tracked on December 19, 2009 07:39 PM

» 『倫敦から来た男』(2007)/ハンガリー・ドイツ・フランス [NiceOne!!]
原題:ALONDONIFE'RFI/DERMANNAUSLONDON/L'HOMMEDELONDRES/THEMANFROMLONDON監督・脚本:タル・ベーラ原作:ジョルジュ・シムノン出演:ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ、レーナールト・イシュトヴァーン観賞劇場 ...... [Read More]

Tracked on January 08, 2010 04:23 PM

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