『母なる証明』の痛覚
『母なる証明(原題:マザー)』の最初のシーンと最後のシーンで、母(キム・ヘジャ)が踊る。最初のシーンは秋枯れの草原。ひとり歩いてきた母が立ち止まり、最初おずおずと両手を上げ韓国の伝統的な踊り方で体を動かしはじめ、やがてそれに熱中する。見る者は、こんな場所でなぜ彼女がひとり踊っているのか分からない。ふつう踊りだすのは何か嬉しいことがあったときだけど、何が嬉しくて踊るのかも分からない。
映画の終わり近く、この草原を母が歩くシーンが再び呼び出される。このとき見る者は、母が息子トジュン(ウォンビン)のために何をしたかを知っている。映画の最後にファースト・シーンに戻るのはよくある手だから、あ、これで母は踊りだすんだと思う。ところがポン・ジュノ監督は、もうひとつのエピソードをつけ加える。
(以下ネタバレです)母は、殺人犯で捕らわれた息子の無実を証明するために、現場に居合わせたクズ拾いの男を問いつめながら、実は殺人を犯したのは息子だったことを知ってしまう。その瞬間、ためらいもなく母は男を殺し、放火する。母が草原を歩くのは、その次のシーンだ。
釈放されたトジュンは男のバラックの焼け跡で、母のものである治療用の鍼の容器を拾う。母が放火殺人に関係していた証拠になりうるその容器を、トジュンは母に返す。なぜそれがそこにあったか、トジュンは母に聞かないし、母も何も言わない。
そしてラストシーン。母は仲間とバス旅行に出かける。バスの座席に座った母は鍼の容器を取りだして1本の鍼をつまみ、自らの太腿にその鍼を打つ。見る者は、鍼を打たれる一瞬の痛覚を母と共有する。母が踊りだすのはその後だ。物見遊山の旅で早くも踊りだした仲間にまじって、(たぶん)太腿に鍼を刺したまま母は踊る。カメラはシルエットになった彼女をクローズアップで捉えている。
ここがポン・ジュノだね。最後に草原のシーンに戻って母が踊るところで終わっては、よくある映画、になってしまう。母が鍼を自分の身体に打つ痛覚。その痛覚とともに踊ることで、この母と子、2人の殺人者の思い思われる関係がいっそう凄味を増す。
映画の舞台は韓国の地方都市に設定されているが、町の名前は明らかにされない。ロケもどこか1ヵ所ではなく韓国各地でやっているらしい。どこか1ヵ所でロケをすれば、韓国の観客にはだいたいの場所が分かってしまうだろう。複数の場所でロケをしているのは技術的理由もあるだろうけど、それだけでなく、見る者に場所を特定させないという意図も監督にあったかもしれないと思う。
それは母に名前が与えられていないことに対応している。特定の場所、特定の母ではなく、どこにもない場所の、誰でもない、ということは誰でもありうる母の物語なのだ。
ポン・ジュノは『ほえる犬は噛まない』でも『殺人の追憶』や『グエムル』でも、作品としてのまとまりを崩してでも自分のこだわりを執拗に描写する監督、という印象を受ける。この『母なる証明』でも、そのこだわりは一層強まっている。だからカンヌで賞を取れなかったのかもしれないけど、やはりこのほうがポン・ジュノらしい。
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「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」 でも高い評価&注目を浴びるポン・ジュノ監督の最新作。
ある罪を問われた息子を守ろうとする母親を描いたミステリーサスペンス!
ってことでかなり楽しみにしてました★
NY国際映画祭やカンヌ映画祭でも上映済み!
女子高生殺人事件の謎を解いていくミステリーものではあるけど、
映画の焦点、一番のみどころとなっているのは
一心に息子を思う母親の常軌を逸した心理と行動
5年振りの復帰となるウォンビン。
子供そのまんまのような、純粋さを持つ、知的障害の青年を見事に演じて... [Read More]
Tracked on November 09, 2009 08:03 PM
» 『母なる証明』 [ラムの大通り]
(英題:mother)
----これも、プレスの中に
「ご紹介にあたりましてのお願い」が入っていた映画だよね。
そういのって逆に身構えるからやめてほしいって言ってなかった?
「そうだね。
できれば配るのは
映画が終わってからにしてほしいってところはあるけど、
まあ、そのことを自分もここで言っちゃっているわけだから、
ぼくも同罪か…。
さて、今回の“お願い”は大きく分けると次の3つ。
(1) ストーリーはここまでに。
(2) トジュンの役柄設定は、監督は詳細については言及していない。
(3) トジ... [Read More]
Tracked on November 09, 2009 08:56 PM
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『殺人の追憶』、『グエムル -漢江の怪物-』のポン・ジュノ監督が送るサスペンスミステリー。主演は“韓国の母”と呼ばれる国民的女優キム・ヘジャ。そして共演に5年ぶりに兵役から復帰したウォンビンが出演。殺人の罪を着せられた知的障害を持つ息子を助けるために、狂気ともとれる母の愛で真犯人を捜す姿を鋭く描いた作品だ。原案・脚本もポン・ジュノ監督が務めている。... [Read More]
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永遠に失われることのない母と子の絆。すべての“謎”の先に“人間の真実”が明かされる。
母の子供への無償の愛
殺人事件の容疑者となった息子を救うため、真犯人を追う母親の姿を極限まで描く、ヒューマン・ミステリー
11月6日、京都シネマにて鑑賞。頭をどつかれたような凄い衝撃を受けた。「チェイサー」といい勝負じゃないかな・・・・?!
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監督:ポン・ジュノ(天才ですね。最近、虜になってしまいました)
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