アラン・トゥーサン みずみずしいピアノ
こんなセロニアス・モンク、聞いたことなかったなあ。ニューオリンズ・スタイルで演奏されるモンクの「ブライト・ミシシッピ(Bright Mississippi)」。アラン・トゥーサン(Allen Toussaint)の演奏だ。
モンク右手の独特のタッチと、時に不協にもなる左手の和音を消し、アラン・トゥーサンの快いピアノをニューオリンズ・スタイルのバックが支えると、まるでストーリーヴィルの路上で演奏されているみたいに陽気なモンクになる。モンクの斬新な音が、実はこういう伝統のなかから出てきたことがよく分かる。
アラン・トゥーサンはニューオリンズのR&Bシーンで活躍するピアニスト、歌手、作曲家。オーティス・レディングやローリング・ストーンズ、Dr.ジョンなんかが彼の曲をカバーしている。僕はほとんど聞いたことがなかったけど、最新アルバム『ブライト・ミシシッピ』(Nonesuch)を、ここんとこ毎日のようにかけている。ニューオリンズのR&Bとニューヨークのジャズが出会うとこんな音になるんだ。
ベテランのアラン・トゥーサン以外、ニューヨークのジャズ、ロックの若い腕っこきが周りをかためている。ニコラス・ペイトン(tp)、マーク・リボット(acoustic g)といった連中に、ブラッド・メルドー(p)、ジョシュア・レッドマン(ts)も1曲ずつ加わる豪華メンバー。
僕はモダン・ジャズ好きなので、ニューオリンズ・ジャズを聞くとどうもモダンジャズ前史をお勉強するみたいな気分になってしまう。去年、ニューオリンズでセント・ピーター・ストリート・セレナーダーズというバンドを聞いたときも、ニューヨークでウィントン・マルサリスのニューオリンズ・スタイルの演奏を聞いたときも、それなりにいいとは思ったけど、心が浮き立つような満足感はなかった。
でもアラン・トゥーサンのピアノは聞いてて本当に楽しい。70代とは思えないみずみずしいタッチに、優しい音色がたまらない。なかでも「セント・ジェームズ診療院(St. James Infirmary)」のトゥーサンとリボットのかけあいは泣ける。
「エジプチアン・ファンタジー(Egyptian Fantasy)」などシドニー・ベシェやデューク・エリントンの曲をニューオリンズ・スタイルで、あるいはブルースでやっていながら、伝統的なニューオリンズ・ジャズやブルースそのままではない。古いけど新しい、新しいけど古い、不思議な音。このメンバーならそれも当然か。ストリート・ミュージックの香りがするのもいいな。
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