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May 07, 2009

『バーン・アフター・リーディング』とジャンル映画

Burn_after_reading

『バーン・アフター・リーディング(原題:Burn After Reading)』、読んだら燃やせ、とはタイトルからして懐かしいスパイ映画の匂いがする。僕らの世代なら「なおこのテープは自動的に消滅する」のTV映画『スパイ大作戦』か、似たタイトルの007シリーズ『For Your Eyes Only』を思い出すな。

1枚の、実は役にも立たないCD-ROMをめぐってCIAやロシア大使館まで巻き込んだドタバタ劇を、脚本を書く段階から役者を想定してアテ書きされたというジョージ・クルーニー、ジョン・マルコビッチ、ブラッド・ピット、フランシス・マクドーマンドらが実に楽しげに演じてる。コーエン兄弟を中心にワイワイやりながら撮影している現場が目に浮かぶ。

CIAが登場するブラック・コメディといっても、政治的風刺を目的にしたものじゃなく、スパイ映画らしい小道具と設定のために借りた、お遊びみたいなもの。

アル中でクビになった元CIA職員(ジョン・マルコビッチ)が書いた回想録のCD-ROMは国家機密が暴露されているわけでもないのだが、紛失したROMを拾ったフランシス・マクドーマンドやブラッド・ピットらが美容整形するカネ欲しさにロシア大使館に売り込む。

マルコビッチの妻(ティルダ・スウィントン)と連邦保安官(ジョージ・クルーニー)は不倫の最中で、女狂いのクルーニーは出会い系サイトでマクドーマンドとも親しくなる。彼らが絡み合うドタバタが、CIAには訳の分からない陰謀に見えてしまう。

カネと不倫と離婚と美容整形といえば、アメリカ人が(あるいは先進国の人間が)日々いちばん頭を悩ませている問題だから、身に覚えのある観客はいささか自虐的に彼らのドタバタぶりを笑うことになる。時にスパイ映画らしいサスペンスを織り交ぜながらのブラックな笑いが快調。コーエン兄弟の語りのうまさに身を委ねていれば、それ以上なにを言うこともない。

僕はコーエン兄弟の映画では『ノー・カントリー』みたいなハードボイルド系が好きだけど、コメディ系はいかにも映画少年が楽しんでる気配なのがいい。

『ビッグ・リボウスキ』はハードボイルド映画のコメディだったし、『オー・ブラザー』が冒険映画のコメディだったように、コーエン兄弟のコメディ系には少年時代に浸ったにちがいないジャンル映画をコメディにしたのが多い。スパイ映画のコメディであるこの映画もそうで、『スパイ大作戦』や『007シリーズ』が大好きだったにちがいない空気が漂っている。

僕はジェフ・ブリッジスが同世代としての共感があって好きなんだけど、『ビッグ・リボウスキ』で超肥満体で出てきたのにはびっくりした。ハードボイルド・コメディとして、ジェフが主演した『800万の死にざま』の私立探偵のイメージを引っくり返す起用かなと感じた。その伝でいくと、『スパイ・ゲーム』での若いCIA要員ブラッド・ピットを頭に入れての、このおバカな役だったのかもしれないな。プラピのファンはどうなんだろう。


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Comments

コーエン兄弟、面白いですよね。
役者の使い方が凝ってて好きだなぁ。女優の選び方も、????な感じがたまらない。
「顔フェチ」ともいいたくなる変な顔への偏執的こだわりセンスに、私もガツンときます。脚本もいいし。
「ノーカントリー」よく英語で解読できましたね、ハビエルをああいう役に使ったって、慧眼としかいいようがないですdog「ファーゴ」の殺し屋と、対極的容貌だけど、暴力性は似てなくもないかなsign02

Posted by: aya | May 13, 2009 at 01:00 PM

なるほどコーエン兄弟はブシェーミからハビエルまで「顔フェチ」ですね。この映画ではマルコビッチですか。女優の選び方の????って、なんだろう? 女優については、いまいちよく分からなくて。
「ノーカントリー」、NYで見た時はラストシーンがどういう結末だったのか(妻が殺されたのか、殺されなかったのか)、帰ってきて確認しました。

Posted by: | May 14, 2009 at 10:04 PM

chickマルコビッチ、よかったですか?
まだ彼が若かった頃から、あの顔に
掃除機のように惹きつけられて、
目が離せなかった。。実は。
誰より「セクシー」な顔だと感じる。
なので、尚更コーエン兄弟に親近感もちました。
女優は、「ファーゴ」の誘拐される女房役
笑えましたが。女優の使い方、シニカルで可笑しいね。
ところで「ノーカントリー」の妻、殺されたの?殺されなかったの?

Posted by: aya | May 14, 2009 at 11:38 PM

マルコビッチ、変ですよね。僕は昔、ミシェル・ファイファーの大ファンだったんで、『危険な関係』でミシェルに迫るマルコビッチ、やな奴、なんて思ったのが印象に残った最初かな。
確かに女優にはシニカルかも。「ノーカントリー」、小説を読むと最後に殺されてますね。

Posted by: | May 15, 2009 at 11:22 PM

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