『ザ・バンク』 グッゲンハイムを壊す
『ザ・バンク(原題:The International)』のなかでトム・ティクヴァ監督がいちばん情熱を傾けたのは、映画全体の出来というより、ラスト近く、ニューヨークのグッゲンハイム美術館を舞台に展開される銃撃戦ではなかったか。
そう思いたくなるほどに、クライヴ・オーウェンが殺しても殺しても機関銃を手にしたギャングが現れ、無数の弾丸を発射して白い回廊に「弾痕アート」と呼びたくなるような痕をつけ、巨大な液晶パネルを粉々にし、吹きぬけの天井に吊るされたオブジェを落下させて美術館を破壊するシーンは長く、すさまじい。
これ、どうやって撮影したんだろう。外観はロケだけど、美術館内部の銃撃戦はまさかロケじゃないだろうな。『アイ・アム・レジェンド』でメトロポリタン美術館のデンドゥール神殿が登場したように、アメリカの美術館や公共施設が映画撮影に協力的といっても、いくらなんでもここまでは許さないだろう。そう思って探してみたら、ありました。
FIRSTSHOWING.NETにBhind-the Scenes of the Guggenheim Shootout in The Internationalという記事があり、そこにグッゲンハイムの巨大セットをつくる様子が6分半の動画で紹介されていた。面白いです。
グッゲンハイム美術館はよく知られているようにフランク・ロイド・ライト設計で、建物全体が巨大な白いカタツムリみたいな形をしている。中央は吹き抜けで丸天井はガラス張り。周囲に螺旋状の回廊が巡らされ、観客は回廊をめぐりながら各階の絵画を鑑賞するようになっている。
ルソー、シャガールなど近現代絵画の名品がたくさんあって、僕もニューヨーク滞在中に2回ほど訪れた。展示してある絵画だけでなく、建築の内部を歩くことそれ自体が視覚的にも体感としても「アート体験」になっている。銃撃戦の舞台として、そこに目をつけたのが憎い。
映画のアート・ディレクター、サラ・ホートンによると、この回廊での銃撃戦を撮影するセットをつくるには直径36メートルの巨大空間が必要だったという。そこで見つけたのが取り壊される直前の巨大な円形倉庫。動画を見ると、グッゲンハイムと同じように中央の丸天井がガラス張りになっている。この倉庫に10週間かけてグッゲンハイムの回廊のセットをつくったという。
動画では、コンピューターで設計図を解析しながらミニチュアをつくり、本物そっくりに仕上げていく様子が紹介されている。スピルバーグが『ターミナル』でケネディ空港のセットをまるごとつくったのには驚いたけど、これもそれに劣らず見事。しかもつくっておいてぶっ壊すのだから、監督もスタッフも痛快だったにちがいない。
トム・ティクヴァは『ラン・ローラ・ラン』にしても『パフューム』にしても、映画全体というより部分部分のシーンやショットが記憶に残る監督だった。『ラン・ローラ・ラン』はローラがひたすら走るシーンが印象的だったし、『パフューム』のラストシーンはどうにもいただけないけれど、18世紀パリの裏町の耽美的なショットには素敵なのがあった。
『ザ・バンク』でも見終わって印象に残るのはやはり部分で、とりわけグッゲンハイムの銃撃戦。もっとも、サスペンス映画として、それなりにうまくまとまっている。なによりベルリン、リヨン、ミラノ、ルクセンブルク、ニューヨーク、イスタンブールと、土地土地の空気を感じさせるロケを見ているだけで楽しい。
主人公は、武器取引やクーデタに暗躍する国際的なメガ・バンクの犯罪を暴こうとするインターポールの捜査官(クライヴ・オーウェン)とNY検事局の検事(ナオミ・ワッツ)で、2人とメガ・バンクの暗部を担う殺し屋たちの戦いを描く社会派サスペンス。
でも、正義派捜査官という柄じゃないクライヴ(なにせ『シン・シティ』『インサイド・マン』『シューテム・アップ』だものね)の起用といい、長い長い銃撃戦といい、彼が組織を無視して私的復讐に走る結末といい、社会派ふうなテーマはあくまで衣で、監督やクライヴが本当に楽しんだのはグッゲンハイムのシーンに代表される、アクション映画のぶっ放しぶっ壊す爽快感と見た。


Comments
うーむ。いつもながらいいレビューですね。
グラン・トリノから遡って、読ませていただいてます。これからも楽しみにしております。
Posted by: isoya | May 12, 2009 12:16 PM
isoさんのブログも充実してますね。私ももう少し話題を広げようかとも思うのですが、なかなかうまくいかなくて。
Posted by: 雄 | May 14, 2009 09:53 PM