『唐川びとへ』 山里の風景
島根県出雲市に唐川(からかわ)という小さな山里がある。谷々に点在する54戸、人口は179人。唐川茶と呼ばれるお茶の生産地として知られる。
ここには韓竈(からかま)、斐代(ひしろ)という「風土記」以来の古い神社があり、この神社を中心に祭りや神楽や獅子舞が昔と変わらず営まれている。そんな「唐川びと」の暮らしを写真と文章で追ったのが『唐川びとへ』(写真・白谷達也、文・古澤陽子、ラトルズ刊、2400円+税)だ。
何軒もが共同で作業する新茶つみ。新茶まつりでは、小学生が自分で摘んだお茶をたてるテントの喫茶店が出る。大祭の神楽では、大人にまじって小学生や女の子までが舞う。お祭りや神事に使う道具は竹や榊などすべてを集落のなかで調達する。和紙もここで漉いたもの。獅子舞の笛も近くの竹を切ってつくる。
そんなふうに家族ぐるみで手づくりの生活が営まれているさまを見ていると、ここでは資本主義以前、貨幣経済以前の暮らしが奇跡的に残っているように感じられる。
もちろん都会に出てゆく子供世代がおり、農業でどう食ってゆくのか、唐川も今この国が抱える問題と無縁でありうるはずもない。けれど、神楽や獅子舞といった神事が親から子へ継承され、集落をあげての楽しみになっていることを核にして、共同体が共同体としてきちんと働いているように見える。
写真家の白谷と記者の古澤は10年以上の歳月をかけて「唐川びと」を追ってきた。きっかけはグラフ雑誌の取材だったようだけど、途中からは私的な訪問になったという。「取材というよりも休息を求めて通っていただけかもしれない」と彼らは書いているが、そんな息の長いつきあいがあって初めてこうした丹念な仕事が可能になったのだろう。


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