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March 29, 2009

『愛のむきだし』のやりすぎ

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満席の映画館なんて久しぶりだなあ。新宿のK's cinema。小さな映画館で、上映時間は237分。1日1回の上映。そういえ条件があるとはいえ、そして日本映画が好調だとはいえ、マイナーな映画にこれだけの客が詰めかけるとはちょっとした驚きだし嬉しくもある。

『愛のむきだし』は一言でいえば「ボーイ・ミーツ・ガール」の青春映画なんだけど、そこにあらゆる素材を放りこみ、ごった煮にして、商業エンタテインメント映画の常識を超えた奇っ怪な、それでいて痛快な作品に仕上がった。

まず上映時間237分というのが半端じゃない。昔のプログラム・ピクチャーなら90分が標準だったから、その3本分近い。途中で休憩が入る映画なんて、いつ以来だろう。『ディア・ハンター』だったか?

映画は「ボーイ・ミーツ・ガール」のその瞬間までがすごく長い。映画のなかほどで主人公ユウ(西島隆弘)がようやくヨーコ(満島ひかり)に出会うとき、彼は映画『さそり』の梶芽衣子ふうに女装しているんだけど、なぜ彼がそんな恰好をするようになったか、まずは彼の前史がたっぷり描かれる。

ユウの父親(渡部篤郎)は牧師。彼は妖艶なカオリ(渡辺真起子)に入れあげ、捨てられる。人格が変わった父はユウに懺悔を強要する。ユウは懺悔する罪をつくるために女性の股間盗撮にはげみ、やがてAV界のスターになる(ときどき、「運命の瞬間まであと○○日」と、マンガみたいに字幕がはさまれる)。盗撮仲間とのゲームに負け罰として女装しているとき、ユウはヨーコに出会う。そこまでで映画1本分。

ヨーコは素顔のユウではなく、女装した「さそり」に恋してしまう。ヨーコは実はカオリの連れ子で、父とカオリが縒りを戻し、ユウとヨーコは兄と妹として1軒の家で暮らす破目になる。そこからまたどたばたが繰り返され、ヨーコが「さそり」ではなくユウに恋するハッピーエンドまでが映画もう1本分。

さらに色んな要素がぶちこまれる。怪しげな新興宗教の女(安藤サクラ)が出没して、ヨーコたちを洗脳する。女とヨーコのレズビアンふうな関係。うさんくさいAV業界の面々(社会学者・宮代真司がカメオ出演)。ユウは盗撮の早業を決めると必ず見栄を切って静止し、その静止画面は映画というよりコミック表現そのもの。

時おりインサートされる、主人公たちが十字架を背負うシンボリックな映像。映画『さそり』と、それを下敷きにしたタランティーノ『キル・ビル』へのオマージュ。ともかくごった煮で、(上映時間も含め)やりすぎで、その過剰さが笑いと痛快の源泉だ。

何年か前、『ピンポン』を見た。人気のコミックを映画化したもので、原作の絵がなかなかうまく映画的表現におきかえられていた。『愛のむきだし』はコミックの原作があるわけではなく、監督・園子温(その・しおん。他の作品を見てないけど、名前からしてキリスト教にアンビバレントな感情を抱いてるんだろうか)のオリジナル脚本。

でも『ピンポン』がコミックが映画になったものとしたら、『愛のむきだし』は映画がコミックになったような作品だった。疾風怒濤の237分、そこが新しいし、面白かったな。


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