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February 15, 2009

『悲夢』の設定

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キム・ギドクを見ていて置いてけ堀を食らった気分になったのは、たぶん初めてじゃないかな。うーむ、ちょっとしたショック。なにしろキム・ギドクは、このところいちばん気になってる監督のひとりだから。

なぜ映画に入り込めなかったのか。映画のせいなのか、こちらの体調のせいなのか。よく分からない(ジジイになると、ちょっと寝不足だとどんな面白い映画でも寝てしまうことがあり、自分の観賞力にかつての自信がないのです)。

最初のささやかな違和感は、この映画を見る誰もが感ずるものとおんなじだった。オダギリ ジョーが日本語をしゃべり、イ・ナヨンはじめ韓国の役者が韓国語をしゃべる。そしてそのまま意思が通じ合っている。

いかにもキム・ギドクがやりそうなことだなあ。まあ、そのうち気にならなくなるだろうと思っていたら、その通り、やがて不自然さを感じなくなったから、そのことが映画に入りこめなかった原因じゃない。

ただ、ちょっと気になったことがあった。オダギリ ジョーの演技(特にセリフ回し)が、計算違いをしてるんじゃないか、ってこと。オダギリ ジョーは映画によって演技やセリフ回しを自在に変える役者だけど、この映画の口跡のはっきりしすぎたセリフ回しがイ・ナヨンと噛み合っていないような気がした。オダギリ ジョーとイ・ナヨンの微妙な感情の移り行きがうまく伝わってこないような気がした。

そんなことに気を取られているうちに、キム・ギドクの映画がキム・ギドクになっていく瞬間を逃してしまったらしい。キム・ギドクの映画は最初は普通の顔をしているのに、たいていある時点を境に映画の常識的な約束を超えて過激になってゆく。

『悲夢』でいうなら、ジン(オダギリ ジョー)とラン(イ・ナヨン)が惹かれあう瞬間。それを境に、2人の愛は自傷行為を繰り返し、自滅にまで突き進む激しいものになってゆく。

ジンとランは夢を共有する、ひとつの人格の二つの分身として設定されている。ジンが夢のなかで、別れて、忘れられない元恋人の女性を抱く。ジンがその夢を見ているとき、夢遊病のランは、別れ、憎んでさえいる元恋人の男のところへ無意識のうちに出かけて行って抱かれる。

ランは、ジンが夢を見ることを責める。ジンは、ランが交通事故を起こした無意識の行動は自分の責任だと何度も繰り返すから、初めは愛情というより人間としての自責の念からランに接していたように見える。でも二人が会うことを繰り返すうちに、いつしかジンのランへの思いは愛情に変わる。

映画を見ていて、そこへ自分の気持ちを乗せ損ねた。だからジンへの感情移入がうまくいかず、彼の自傷行為をやや客観的にながめることになった。

ジンが夢を見ないよう瞳を開いたままテープで止め、必死に睡魔と闘う。彫刻刀で額を傷つけ、金槌で足をたたきつぶし、その痛みで眠らないように自分をしむける。それこそキム・ギドクがキム・ギドクである描写だけど、その痛切さ哀切さが、いつもの彼の映画のようには感じられなかったんだなあ。

とはいえ、キム・ギドクが見る者の身体感覚に訴えるすごさは相変わらずだ。ジンになりきれていなくても、ジンが金槌を自分の足に振り下ろすとき、こちらの五感がずきんずきんと刺激される。

一緒に見にいった映画好きのKさんが、「キム・ギドクはあんまり設定に凝らないのに、今回は設定が凝ってる」と言っていた。確かに、キム・ギドクのキム・ギドクらしさは例えば『21グラム』や『クラッシュ』みたいな設定の面白さではなく、一見普通の顔をした風俗映画みたいな設定がねじれながら加速するそのねじれ具合の激しさによるものだと思う(『悪い男』とか『青い門』とか『魚と寝る女』とか)。

そこからすると、『悲夢』はひとつの人格の2つの分身の物語という設定が、いつもよりトリッキーであるような気もする。あるいはオダギリ ジョーの計算違いもあるのか。それとも、こちらの体調が悪かったのか。いずれにしろ、もう一度見直すまで判断は保留ということにしておきたい。


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Comments

キム・ギドク、もう実に嫌いです。
彼のセンスでグイグイ来られると、
「ちがうよ、もう止めな」と、
辟易しながら苦笑いする感じ。
雄さん、スミマセン

Posted by: aya | February 17, 2009 01:30 AM

あはは、そうでしょうね。あのエグさが好きなのは一部の人でしょう(僕もそうですが)。男尊女卑の気配もあるから、特に女性には嫌われるんじゃないかな。

もっとも、ここ数年は普通の映画に近くなって、その分、エグさが減ったような気がしますが。

Posted by: | February 17, 2009 07:16 PM

雄さん、こんにちは。TBありがとうございました。
FC2からココログさんへはTBが不調のことが多く、今回も届かないようで残念です。

今回、ギドクの企みは不発だと私も思いました。
オダギリジョーに日本語を喋らせるくらいなら、いっそのこと無言で通してほしかったと思います。
しかし、ついつい次回作には期待してしまいます。
『悪い男』につかまってしまいました(笑)。
ではでは、失礼します。

Posted by: 真紅 | February 19, 2009 09:34 AM

TBやコメントの不調って、けっこう多いですね。

オダギリ ジョー無言ですか。それも面白そう。キム・ギドクはこのところ裏切られたと思うことも多いですが、やっぱり気になって見に行ってしまいます。

Posted by: | February 19, 2009 11:20 PM

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