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January 12, 2009

『そして、私たちは愛に帰る』の抑制

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『そして、私たちは愛に帰る(原題:Auf der Anderen Seite)』は、3組の親子が織りなす死と和解の物語だった。見終わって、その抑制の効いた語り口がじわっと胸にしみてくる。

移民としてドイツで暮らすトルコ人の父と息子。ドイツで娼婦をしているトルコ女性と、故国にいる娘。普通の市民であるドイツ人の母と娘。3組6人の親子がドイツとトルコの両国でふたつの三角形をつくり、ふたつの死をきっかけにそれぞれ欠けた三角形がひとつにつながることになる。

ブレーメンに住む移民トルコ人アリ(トゥンジル・クルティズ)は、トルコ人娼婦イェテルを金で囲って同居をはじめる。大学講師をしている息子のネジャットははじめイェテルを嫌うけれど、彼女を知るにつれ故国の娘に送金するイェテルに好感をもつようになる。これがひとつめの三角形。

イェテルの娘アイテンは過激な政治活動家で、警察に追われトルコを脱出してドイツに逃亡する。アイテンがたまたま声をかけたドイツ人女子学生ロッテが彼女に同情して自宅に連れ帰る。ロッテの母スザンヌ(ハンナ・シグラ)はアイテンを嫌うが、ロッテとアイテンはやがて女同士恋人になる。これがもうひとつの三角形。

トルコ移民のアリは同居しているイェテルと喧嘩して彼女を殴り、打ちどころが悪かったイェテルはあっけなく死んでしまう。アリは刑務所に収監され、息子のネジャットは死んだイェテルの娘を探そうとトルコに旅立つ。

一方、イェテルの娘アイテンはドイツへの不法入国が発覚してトルコに強制送還されてしまう。恋人のロッテも彼女の後を追ってトルコに旅立つ。ロッテはイスタンブールでネジャットのアパートの一室を間借りすることになり、ここでふたつの三角形が交錯することになる。彼女は収監されているアイテンを助けようとするが、たまたま路上でひったくりに会い、犯人の少年に殺されてしまう。

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こう書いてくると入り組んでるようだけど、複雑な関係を簡潔に語る描写は過剰にドラマチックになることなく、淡々としている。ふたつの死も因果が絡んだあげくではなく、偶然の事故のようにあっけなくやってくる。

ふたつの棺がドイツとトルコの空港で航空機に積み込まれ、下ろされるショットが2度繰り返され、それによって死がふたつの三角形、ふたつの国を結ぶことになるのを暗示する。抑制が効いていると感じたのも、そういうさりげないショットで死を語る姿勢から来ているんだろう。

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(以下、結末に触れています)殺されたロッテの母スザンヌもイスタンブールにやってきて、娘が借りていたネジャットの部屋に滞在し、ここでふたつの三角形は再び交わることになる。イスタンブールの、観光名所でない旧市街の街角の描写が素敵だ。スザンヌはアパートを出、商店街の坂を下り、顔なじみになった住民に(娘がやったのと同じように)声をかけて、娘の恋人であるアイテンを助けに出かける。

やがてやってくるスザンヌとアイテンの和解。スザンヌと、彼女の娘の恋人であるアイテンとの抱擁は、母と亡くなった娘との和解でもあり、ドイツとトルコとの和解でもある。

冒頭、映画はネジャットがトルコの田舎町を車で旅するシーンで始まり、観客は当然のことながら、これが何なのか分からない。映画が終わりちかくなって、同じシーンがもう一度繰り返される。そこで見る者ははじめて、ネジャットは殺人を犯し故国に送還されてひっそり暮している父に会いにいくのだと理解する。ネジャットが運転する車の窓から見えるトルコの田舎町の風景が心にしみる。

ネジャットは漁村の海辺でじっと浜に座り、波の音を聞きながら釣りに出かけた父を待つ。もうひとつの和解を描かずに映画は終わる。最後まで抑制された長回しのショットが素晴らしい。

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監督のファテキ・アキンはドイツ生まれのトルコ移民2世だという。トルコ移民アリを演じたトゥンジル・クルティズは、ユルマズ・ギュネイ監督のトルコ(クルド)映画『希望』の主役。ドイツ人の母を演じたハンナ・シグラはライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『マリア・ブラウンの結婚』のヒロイン。

ドイツへのトルコ移民が急増したのは1960年代だけど、その時代のドイツとトルコを代表する2人の監督が愛した名優を起用したアキン監督の意図は、映画を見ていれば自ずから分かってくるね。

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Comments

こんにちは。
『愛より強く』は激しくパンキッシュだったのですが、今作は本当に抑制されていましたね。クールです。
ラストショットのままで波の音とともにエンドロールというのもとてもステキでした。
そのひとつ前のネジャットの目もとのクローズアップにも、アキン自身の目線と強い思いが重なるようで。

Posted by: かえる | January 13, 2009 at 08:23 PM

私は映画のタイトルに「愛」とあると、どうも引いてしまう癖があり、これもどうしようかと迷ったのですが、ドイツのトルコ移民の話と聞いて出かけました。結果は正解でした。そんなわけで「愛より強く」も見ていません。ぜひ見なくては。

Posted by: | January 14, 2009 at 11:43 AM

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