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January 17, 2009

『チェ 28歳の革命』 ドキュメンタリーの感触

Che

『チェ 28歳の革命(原題:Che Part1)』と『チェ 39歳 別れの手紙(Che Part2)』は原題からも分かるように、本来1本の映画としてつくられている。カンヌ映画祭でもパート1、パート2が4時間30分の1本の映画として上映された。

だからパート1だけ見て、何かを言うのもちょっとはばかられるなあ。まして、この作品はもともとボリビアを舞台にチェ・ゲバラの死に至るパート2に当たる部分の映画として構想され、途中からパート1がつけくわえられたと聞くと、なおさらだ(と言いながら書いちゃうんだけど)。

プロデューサーの言によると、アルゼンチン出身の医師チェ・ゲバラがどのようにフィデル・カストロに共鳴してキューバ革命運動に参加し、バティスタ政権を倒したかというパート1を描いておかないと、革命後になぜゲバラがボリビアへ旅立ち、孤独なゲリラ闘争を続けたかがうまく理解されないからだという。

その言い方を借りるなら、チェ・ゲバラがなぜカストロの革命に参加する共鳴盤を持っていたのか、さらにその前史を描かないと、そもそもパート1もうまく理解できないなあ。というのが『チェ 28歳の革命』を見ての感想。まあ、映画好きなら『モーターサイクル・ダイアリー』を見てるはずで、これこそその前史に当たるから、『モーターサイクル』と『チェ 28歳の革命』を1本の映画と考えればいいのかも。

ハリウッドの職人的な監督なら、若きチェ・ゲバラが南米の貧しい人々を目の当たりにして革命に目覚めるその前史に当たるエピソードを短くはさみこんで観客を安心させるはずだけど、スティーブン・ソダーバーグ監督はそういうことをやらない。その姿勢が彼らしいといえば彼らしいし、それが(パート2を見ずにこう言うのもなんだけど)あまりうまくいってないのもまた彼らしい。

ソダーバーグ監督は、ドキュメンタリー・タッチでふたつの時間を交錯させながらチェの行動と言葉を描いてゆく。ひとつは、カストロとともにキューバに渡り、山岳ゲリラ戦を経て重要都市サンタクララを陥落させる過程。もうひとつは、革命成功後、カストロ政権の代表としてニューヨークの国連本部で演説するためにしたアメリカ訪問。こちらは国連での演説やインタビュー、歓迎パーティでの言動などがモノクロで、あたかもニュース映像のようなスタイルで描かれてゆく。

アメリカ訪問をひとつの軸にしたのは、ゲバラとアメリカとの唯一の接点だからアメリカ映画としては当然だろうし、演説やインタビューによってゲバラの考えを明らかにしようという意図もあるだろう。そんなニュース映像的シーンを差し挟みながら、映画はゲリラ戦の推移を追いかける。

指揮官として戦いつつ医師としてケガ人や住民を診察し、学校をつくり、兵士に読み書きを教える、その一方で、ゲリラから離脱し住民に危害を加えた元兵士を処刑するチェの姿が、その行動を通して描かれてゆく。チェの心理描写はない。

並みのハリウッド映画なら、後に妻となる女性ゲリラ兵士との交流などロマンチックに描きそうなものだけど、ソダーバーグはここでもそういうことをしない。それらしいセリフを交わすことはないし、感情をこめて見つめあったりもしない。

山岳での銃撃戦やサンタクララでの市街戦というアクション・シーンがあって、これがパート1のヤマ場になるんだけど、昨今のSFXを基準にするとなんとも牧歌的だし、画面のテンポもゆったりしていて、まるでメキシコを舞台にした50~60年代の西部劇でも見ているような気分になる。

ソダーバーグは『トラフィック』でテンポ早く短い映像を積み重ねる流行りの映画づくりもしているから、このゆるりとしたリズムもまた彼の意図したことに違いない。でも、そのためにエンタテインメントとしてのドラマの盛り上がりにはいまひとつ欠ける。もっとも、これはあくまでパート1なのだから、パート2のための前奏かもしれず、通して見なければ断言はできない。作品の評価もそれまではしないでおこう。

この映画で印象的なのは、暗い森でのゲリラ戦が実にリアルに撮られていることだね。メキシコでロケしたらしいけど、熱帯の緑の濃さ、闇の深さと、そのなかでの銃撃戦が素晴らしい。

プロダクション・ノートを見ると、この映画ではRED ONEというデジタル・ビデオ・カメラが使われたそうだ。従来は携帯電話やトイ・カメラに使われていたCMOSという受像素子を改良し、35ミリ・フィルムのクオリティとデジタル・ビデオの簡便さを兼ね備えた最新鋭のカメラだという。

そのため、多くのシーンをほとんど照明なしに自然光で撮影できたらしい。うーむ。スチールでも、デジタル・カメラは暗闇に強いからなあ。それがこの映画のドキュメンタリーのような感触を支えているんだな。あるいは、ソダーバーグはこのカメラがあったからこそ、こういうスタイルを選んだのかもしれない。

それにしても、ベニチオ・デル・トロは仕草やしゃべり方に至るまでゲバラによく似てる。さすが、この映画に入れ込んだだけのことはある。


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Comments

雄さん、お久しぶりです。
いろんな制作経緯を知るにつれ、これだけで評価しづらい作品でした。

>『モーターサイクル』と『チェ 28歳の革命』を1本の映画と考えればいいのかも

という捉え方も有りだと思いますが、どうせなら、
メキシコへ入国する前の数年間も描いて欲しかった。
というのはないものねだりでしょうか(笑)?

Posted by: nikidasu | January 17, 2009 at 08:06 PM

そうですね。ゲバラは大学を卒業後、まずグァテマラへ行って革命政権のために働いてたんですよね。その後、メキシコへ渡ってカストロと会ったわけで、その経緯や最初の奥さんとの出会いは、さらにもう1本の「チェ」になるんでしょう。

そっちはソダーバーグでなく、「モーターサイクル」のウォルター・サレスにお願いしたいけど、どうでしょう(笑)?

Posted by: | January 18, 2009 at 04:14 PM

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