『アンダーカヴァー』のブルックリン
『アンダーカヴァー(原題:We Own the Night)』は、僕がこの夏まで住んでいたニューヨークのブルックリンが舞台になっていると聞いて見たくなった。もっとも映画は1988年という設定になっている。ニューヨークが今よりずっと危ない街だった時代の話だね。
ニューヨーク市警(NYPD)の幹部である父(ロバート・デュバル)をもつ兄弟の話。兄ジョセフ(マーク・ウォルバーグ)は父と同じNYPDの警察官になり、一方、弟ボビー(ホアキン・フェニックス)は父に反逆してロシア・マフィアが経営するディスコのマネージャーになっている。
ディスコは歴史的建造物を改造したらしい巨大なホールで、ブルックリン南端の海岸、ブライトン・ビーチにある。ブライトン・ビーチは「リトル・オデッサ」と呼ばれ、ロシア人コミュニティーがある町として知られている。
ブライトン・ビーチの繁華街は高架地下鉄の両側にロシア系の店がびっしり並ぶにぎやかな通りで、僕も何回か行ったことがあるけれど、昼のことで、残念ながら夜は知らない。80年代にはきっと映画のようなディスコが流行っていたんだろう(『サタデー・ナイト・フィーバー』はブルックリンの話だった)。
ジョセフは、玄関前に数段の階段があるブルックリンの典型的な古い住宅に住んでいる。ロシア・マフィアの麻薬取引を追う責任者になったジョセフは弟がマネージャーをしているディスコを手入れするが、そのことがきっかけでロシア・マフィアに銃撃され、ジャマイカ病院にかつぎこまれる。
ジャマイカ病院は実際にある。ジャマイカはブルックリンに隣接するクイーンズにあり、ケネディ空港の北に広がる郊外住宅地。マンハッタンやブルックリンのダウンタウンから郊外へ追われたアフリカ系や移民たちが混在する町で、現在でもあまり治安はよくない。このあたりは独り歩きしないようにと言われたことがある。
(以下、ネタバレです)
兄を銃撃され、父も狙われ、弟のボビーはNYPDに協力してロシア・マフィアのコカイン工場に潜入することを決意する。このコカイン工場へ向かう途中で、車はコニー・アイランド駅前の有名なホットドッグ屋、ネイサンズの前を通る。コニー・アイランドはブライトン・ビーチと海岸続き。浅草の花屋敷みたいに淋しい遊園地は今年いっぱいで取り壊されると言われていたが、どうなったのかな。コカイン工場はコニー・アイランド近くの廃ビルに設定されている。
警察への協力がばれ、ロシア・マフィアに追われる身となったボビーと恋人は、警察の手でケネディ空港近くのホテルにかくまわれる。エンド・ロールを見るとペンシルバニア・ホテルが撮影に使われたようだ。ペンシルバニア・ホテルはマンハッタンにある古いホテルで、近く取り壊されることになっている。僕も泊まったことがあるけれど、部屋は狭いし設備も悪い、しけたホテルだった。
そのホテルも狙われ、ボビーと恋人が警察の車でフリーウェイを逃げる途中でマフィアに襲われる。おそらく空港とマンハッタンを結ぶフリーウェイだろう。土砂降りのなかでのカーチェイスと銃撃戦がすごい。濡れた路上でこんなカーチェイスできるはずはないけど、そのリアルさはCGとも思えない。公式サイトを見たら、カーチェイスを実際に撮影した上で、CGで土砂降りの雨にしたらしい。ふーん、そんなこともできるんだね。
兄を銃撃され、父を殺されたボビーは警察官になり、ロシア・マフィアと対決することになる。最後の銃撃戦になる葦原は、たぶんケネディ空港南のジャマイカ・ベイで撮影されたんじゃないかな。僕も一度バードウォッチングに行ったことがあるけど、映画みたいな葦原があちこちにある。
ブルックリンを舞台にした映画というと、いちばん多いのは文芸ものや恋愛ものでよく出てくる高級住宅地ブルックリン・ハイツと(『ソフィーの選択』とか)、その近くでイーストリバー越しにマンハッタンの摩天楼を望めるプロムナードだろう。一方、ブルックリン育ちのスパイク・リーの映画は、ニューヨーク最大のアフリカ系住民の町ベッドフォード・スタイブサントが舞台になることが多い。
『アンダーカヴァー』はどちらでもないブルックリン、どちらかというと周辺部のブルックリンが出てきて、その意味で面白かったな。
ジェームズ・グレイ監督のデヴュー作は『リトル・オデッサ』(未見)。リトル・オデッサはこの映画の舞台になったブライトン・ビーチのロシア人コミュニティのことだから、こだわっているというか、あるいはここの出身なのかも。



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