オバマ勝利の報に
パソコンがダウンしリカバリーしていたので遅れてしまったけど、オバマが勝ったのは、当然といえば当然だったね。
昨日の朝日新聞に、ニューヨークに住む青木冨貴子さんが書いていた。
「この秋から増えてきた『レント(貸店舗)』の表示や、もぬけの殻になった元金融関係事務所跡、中断された建設工事現場や目立つホームレスの姿などをあげるまでもなく、サブプライムローン問題にはじまった金融危機はとどまるところを知らない」
僕が日本に帰ってきたのは8月中旬だったので、株価暴落から金融危機に至るニューヨークを知らない。サブプライムローン問題は去年から深刻になっており、ローンが払えず持ち家を手放した人もいたはずだけど、誰の目にも見える形で表面化していたわけではなかった。むしろニューヨーク中がジェントリフィケーション(高級化)と呼ばれる建築ブームに湧いていた。
僕が住んでいたブルックリンはアフリカ系やヒスパニックなど有色人種が多く、かつては労働者の町、今もどちらかといえば中下層階級の町。そこにもジェントリフィケーションの波は押し寄せて、僕のアパートのまわりには4棟の高層コンドミニアムが建設・計画中だった。青木さんの報告のように、それらのコンドミニアムはひょっとして工事が中断していないだろうか。
ブルックリンのダウンタウンはアフリカ系住民向けの店が並ぶ繁華街で、「レント」の札がかかった空家も多かったけど、その札はいま、もっと増えているんだろうか。いつもアフリカ系の客でごったがえしていたスーパーのターゲットと隣の食品スーパーは今も繁盛してるんだろうか。
オバマはほんのいっときブルックリンに住んだことがあるらしく、ヒラリー・クリントンと民主党大統領候補の指名を争っているときも、ここはオバマ一色だった。
僕は数人と話しただけだから個人的印象だけど、オバマ支持の底にはイラク、アフガニスタン戦争への厭戦気分があったように思う。なにしろアメリカ人にとっても必ずしも理屈の立たない戦争で、どちらかといえば下層に属する数千人の兵士が死んでいる。
その後、金融危機があり、ブッシュ8年間の失敗のツケが劇的に人々を襲ったから、オバマがマケインに勝つのは当然だったけど、僕にはそれよりオバマがヒラリーに勝ったときのほうが驚きだった。
そのオバマの勝因は、戦争はもういいよ、というアメリカ人の心情が人種の壁より大きかったことによるんじゃないか。ヒラリーはイラク戦争に賛成したし、現実政治家だから大きな変化は期待できない。「変化」を期待するならオバマだ、という心情。それが底流としてあったところへ、今回は自分の生活を直に脅かす金融危機が重なった。
日本へ帰ってきた直後にロバート・B・ライシュ『暴走する資本主義』(東洋経済新報社)を読んだ。ライシュはオバマの経済部門のアドバイザーだという。一言でいえばカジノ資本主義を市民の立場、公正の観点から抑制しないと大変なことになる、という主張だったけど、いま、その通りのことが起こっているわけだ。
同時に彼は、ひとにぎりの富裕層だけでなく、大多数の人間が(年金ファンドなどで)投資しているのだから、大なり小なりアメリカ人誰にも責任があるという。
投資だけでなく、アメリカは全体として過剰消費というか、無駄も多い社会だ。車社会だからガソリンは言うに及ばず、紙ひとつとっても、デリでピザやサラダを買うと山ほどナプキンをくれるし、トイレへ行っても誰もハンカチを持ってない。家庭のガス台には元栓がなく、24時間、種火がついている。すべてが資源の大量消費を前提にできていて、誰もそれに疑問をもたない。
オバマ大統領になって、カジノと無駄と過剰消費で膨れ上がった社会が、少しはまともになるだろうか。
戦争に関しても、オバマはイラクから撤退するが、アフガンへは逆に兵力を増強すると言っている。対テロ戦争を間違いだと言ったら、彼は恐らく予備選の早い段階で負けてしまったろうが、アフガンもイラクも、いったん壊してしまった国家は元に戻らない。中東のパンドラの箱を開けてしまったことを、どうするんだろう。
まあ、少しでも世界がよくなることを期待するしかない。
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