『僕らのミライへ逆回転』の映画とジャズ
オープニングで上空からのショット、緑のなかに広がる低層アパートの彼方にマンハッタンの超高層ビル群がそびえている。ああ、この緑の多さ、町の雑多な感じはいかにもニュージャージーだなと懐かしくなってしまった。
僕はニュージャージーに住んでいたわけでなく、何回か行ったことがある程度だけど、この映画にも出てくる鉄道「NJトランジット」に乗ってニューヨークに近づくときに見えてくる、映画と似た風景にはいつでも興奮させられる。
濃い茶色の、まるで墓石のように無個性な中層アパートが何棟も並んでいるのはプロジェクトと呼ばれる低所得者向け公共住宅だろう。カメラはそこから高速道路脇の廃品置き場にズーム・インしていき、『僕らのミライへ逆回転(原題:Be Kind Rewind)』がどんな場所を舞台にしているのかをワンショットで分からせてしまう。
町はPsssaic(パセーイク、とでも読むのかな)。グーグル地図とストリート・ビューを見ると、ニューヨークから15キロほど。低層の家が並ぶ、都市近郊のありふれた町みたいだ。
廃品置き場のトレーラー・ハウスに住むジェリー(ジャック・ブラック)と、つぶれそうなレンタル・ビデオ店の店員マイク(モス・デフ)が主人公。トラブル・メイカーのジェリーが店のビデオの映像を全部消してしまい、2人は客が借りにきた映画を手づくりでリメイクして急場をしのごうとする。
監督とカメラをマイク、ジェリーが主演。太めでメガネをかけた、いかにもダメ男ふうなジャックが、手近な廃品を使ってゴーストバスターズやロボコップに扮し名場面を再現する。それが大受けで、2人は『ドライビング・ミス・デイジー』『キングコング』『キャリー』『シェルブールの雨傘』と、常連が求める映画を次々にリメイクする。
映画づくりをテーマにし、映画にオマージュを捧げた作品はトリュフォーの『アメリカの夜』はじめたくさんあるけど、これはそれを素人の映画オタクがチープにやる設定でコメディにしたのが面白い。アナログでゴーストバスターズやロボコップをつくるところが、CG全盛のハリウッドへのさりげない批評になっているのもいい。
しかも映画だけでなく、そこにジャズが絡んでくる。
レンタル・ビデオ店はジャズ草創期の名ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの生家だということになっていて(オーナーが善意の嘘をついてる)、2人は立ち退きを迫られた店を守るためにウォーラーの伝記映画をつくろうとする。
僕はモダンジャズ好きなので、モダン以前のウォーラーはあんまり聞かないけど、ストライド・ピアノと呼ばれるスタイルの古いジャズが画面に流れてくると、それだけで1930年代の匂いがする。
当時の映画の雰囲気を出すために、ビデオ・カメラの前に換気扇をおいて画面をちらちらさせたり、古い自動車の写真を拡大し、張りぼてにして道を走らせたりのチープな工夫が泣かせる。
撮影には何人もの店の常連が参加し、店が取り壊される前の上映会にはたくさんの住民が押しかける。最後は「笑って泣かせて」の定番になるけど、それがありきたりにならないのはミシェル・ゴンドリー監督の腕の冴えだろうね。
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