NYの記憶・12 トイレ地図(3)
(ワシントン・スクエア・パークのストリート・ミュージシャン)
<ダウンタウン>
ダウンタウンのトイレ事情は決して良くありません。ミッドタウンのようにデパートもホテルもショッピング・モールもないからです。でも、スターバックスやカフェがあちこちにありますから、コーヒー・タイムをうまく配分していけば特に困ることもありません。
○ヴィレッジ
僕の知る限り、ヴィレッジの公共トイレはただひとつ。ヴィレッジのど真ん中、ワシントン・スクエア・パークにあります。ところがここ、かなり怪しいんですね。夕方、あたりが薄暗くなると、トイレの周りになにやら訳ありげなお兄さんがたむろしはじめます。僕の前を歩いていた男2人が連れ立って個室に入っていったこともあります。暗くなったら、男の僕でも(男だからこそ?)入るのをためらう雰囲気のトイレです。ランクC。
もっとも僕がニューヨークを離れた8月にはここ、工事中で閉鎖されてました。新しい清潔なトイレに生まれ変わったかもしれません。でも、場所が場所だからなあ。
ワシントン・スクエア・パークを中心に東がイースト・ヴィレッジ、西がウェスト・ヴィレッジになります。イーストにはタトゥーの店、オタクっぽいレンタル・ビデオ店、日系スーパーなどがあり、ウェストには映画館、ジャズのライブハウス、中古レコード店がありますが、無料で使えるトイレはどこにもありません。
僕は週に2、3日はヴィレッジをぶらつきましたが、イーストに2軒、ウェストに1軒、行きつけのカフェができ、歩き疲れるとトイレ休憩も兼ねてお茶を飲むことにしていました。窓際の席に座り、カプチーノをすすりながら道行く人をぼんやり眺めているのは無上の時間でした。
○ソーホー
ソーホーは元倉庫街、そこがギャラリー街になり、いまはブランド・ショップが並ぶ繁華街ですが、そういう町の成り立ちのせいか、公共トイレは皆無です。無料で使えるトイレも少なく、トイレ過疎地帯と言っていいでしょう。かろうじてブロードウェーにブルーミングデールス(BLOOMINGDALE'S)の小さな店があり、デパートですからトイレは清潔です。ランクA。
ソーホーの北のはずれになりますが、ハウストン・ストリートを渡ったところに映画館アンジェリカ・フィルム・センターがあります。単館ロードショー系の小屋で僕はよく行きましたが、1階にカフェとトイレがあります。入場券を買わなくてもカフェに入ることができ、従業員が商売熱心でなく顔が見えないことが多いので、トイレだけ使わせてもらったこともあります。ランクB。
もうひとつ、ブロードウェーからハウストン・ストリートを反対側にしばらく歩くと、もうソーホーというよりノーホーですが、オーガニック・スーパーのホール・フーズがあり、そこにもカフェとトイレがあります。ランクB。
○チャイナタウン、リトル・イタリー
ここで僕が知っている公共トイレはただひとつ。チャイナタウンのコロンバス・パークにあります。中国系住民の憩いの場ですが、トイレは清潔とはいえず、個室のドアがなかったりします。ランクC。
リトル・イタリーはチャイナタウンにすっかり包囲されてしまいました。リトル・イタリー側のモット・ストリートには徳昌というスーパーがあります。もともと肉屋なのですが、魚、野菜、冷凍食品もあり、総菜も売っていて、いつもごったがえしてる。総菜売場のそばにトイレがあります。ランクC。
チャイナタウンには行きつけのカフェもありましたし、ここへ来るときは食事か徳昌で買物のことが多いので、不自由を感じたことはありません。ただ、チャイナタウンのトイレはどこも清潔とはいえず、高級店の福臨門を除いて、きれいなトイレに当たることは望み薄です。
○ロウワー・マンハッタン
マンハッタンの最南端、バッテリー・パークにはクリントン砦のなかにトイレがあります。近くのスタッテン島行きフェリー・ターミナルにもトイレがあります。いずれもランクB。
ボウリング・グリーンのアメリカン・インディアン博物館は、入場無料ですが持ち物検査があり、中に入るとトイレがあります。ランクB。
ウォール街には公共トイレがありませんが、通りの入口にあるトリニティ教会にトイレがあります。ランクB。
ワールド・トレード・センター跡地周辺では、セント・ポール教会(いつも混んでいる。ランクB)とハドソン川に近いワールド・ファイナンシャル・センター(ランクA)にトイレがあります。
× × ×
こうやって書いてきて、ニューヨークのトイレの少なさには改めてびっくりします。前々回述べたように犯罪多発時代に公共トイレの多くは閉鎖されましたが、それを考慮しても、そもそもアメリカには公共施設にトイレが少ないし、またひとつひとつのトイレの面積(朝顔や個室の数)も小さいように思います。
例えばメトロポリタン美術館。毎日、あんなにたくさんの人がつめかけるのに、トイレの数はごく少ないし、朝顔や個室も少ない(女性用にはいつも長い列ができてるから、男性より状況は悪いんでしょう)。カーネギー・ホールだって、客席の数に比べてトイレの小ささにびっくりします。
アメリカ人だってトイレの悩みは同じだろうと思うんですが。
そういえば、かつて愛読したローレンス・ブロックのハードボイルド、探偵マット・スカダーシリーズで、スカダーの盟友であるギャングのボスが、年寄りのトイレの悩みはつらい、なんて普段の強面にも似ず愚痴るシーンがあったっけ。
このシリーズは作者ブロックの心境小説みたいな一面もあったから、あれはブロック自身の本音だったのかもしれません。ブロックが引退してフロリダに行ってしまったのも、ひょっとしてニューヨークに暮らすのがいろんな意味でつらくなったのかもしれないな。
ある人に言わせると、アメリカ人は日本人より1日の水分摂取量が少ないからトイレに行く回数も少ない、のだそうです。真偽のほどは分かりませんが、僕たちは朝昼晩、食事するとき水分がほしいし、食後もお茶かコーヒーが飲みたくなりますね。アメリカ人はそんなに飲まない。健康のためには1日に水を2リットルなんて言いますが、その半分も飲んでないんじゃないかな。
それは生理の違いなのか文化の違いなのか、なんてことになると問題はさらにこんがらかってきますが、ひとまずこれにて。
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