« オバマ勝利の報に | Main | 『binran』の妖しい光 »

November 11, 2008

NYの記憶・13  カード情報盗まれる

Queens3
(クイーンズのロング・アイランド・シティ)

やられた!

アメリカから帰って2ヵ月。10日ほど前、送られてきたクレジット・カードの利用明細を見たら、帰国して1カ月後の9月中旬、ニューヨークでカードが使われているではないか!

あわててクレジット・カードを探すと、確かに手元にある。ということは、カードそのものではなくカード情報を盗まれたわけだ。

気がついたのは深夜だったけれど、すぐに銀行に電話してカードを凍結してもらった。金額は合計801ドル。9月15日から20日まで、13回に分けて使われている。幸いこちらに落ち度があるわけではないので、使われた金は補償してもらえるらしい。

ニューヨークに1年間滞在するに当たって、生活費は東京にある外資系銀行のドル口座に入れておいた。ドルにしておけば、円ドルの為替変動に一喜一憂しないですむ。その口座から引き落とすクレジット・カードと、アメリカのATMでドルを現金で引き出せるカードの2枚を用意しておいた(もう1枚、予備として日本で使っているクレジット・カードも)。

アメリカはカード社会だから、デリやニューススタンドでの少額の買物には現金を使うけれど、スーパーやレストランでの払いにはカードを使うことが多い。多額の現金を持ち歩くのは、ホールドアップされたとき不安でもある。僕は外出するとき、100ドル以上の現金は持たないようにしていた。

カードのサインは漢字にした。ローマ字より漢字のほうがサインを偽造されにくいだろうと思ったからだ。

カード情報が盗まれたことが分かったその夜、口座を凍結したことで少し落ち着き、さてどこで盗まれたのかと考えた。

商店での買物なら、たいてい目の前でカードが処理されるから情報を盗まれる可能性は低い。やられたのは、渡したカードがいったん店の奥へ持っていかれ、見えないところで処理される場所、例えばレストランだろう。

カード裏のサインは漢字だから、漢字を知っている人間がいる場所で盗まれた可能性が高い。組織的にやられたのなら必ずしもそうでなく、末端でカードを使う人間が漢字を知っているだけかもしれない。でも可能性としては、漢字が分かる人間の仕業と考えるほうが自然だ。

盗まれた情報によるカードが使われたのはニューヨークだから、盗まれたのもニューヨークである可能性が高い。ニューヨークにいたのは7月末までで、その後はアパートを引き払ってカリフォルニアやフロリダに旅行し、8月中旬にまたニューヨークに戻ってホテルに2泊している。

「ニューヨーク」「レストラン」「漢字が分かる人間のいる店」という目で利用明細を遡ってみた。探してみると過去2か月で3件ある。

1件目は、旅行からニューヨークに帰ってきたアメリカ滞在最終日から2日前。マンハッタン西42丁目にあるコリアタウンの韓国レストランで食事している。この店はスーン豆腐(豆腐鍋)がおいしく、また語学学校から近いので、月に1、2度は通った気に入りの店だった。従業員は韓国人とフィリピン人が多い。

2件目は旅行に出る前、マンハッタンのイタリア・レストランで友人と食事している。この店のオーナーは日本人。ほかのイタリア・レストランがアメリカ人好みで味の濃い店が多いなか、この店はあっさりと日本人好みなので、安い店ではないけれど時々利用した。従業員は日本人が多い。

3件目は更にその2週間前、チャイナタウンのベトナム・レストランでアフリカ系の友人と食事をした。チャイナタウンには、米軍撤退後のベトナムから脱出した中国系ベトナム人が経営するレストランがたくさんある。従業員は中国系ベトナム人か中国人。

あくまで可能性にすぎないけど、この3軒のどこかで盗まれた可能性が高いな、と思った。

Queens1
(ロング・アイランド・シティの工場。手前はイースト・リバー)

次に、盗まれた情報が使われた利用明細を調べてみた。

使われたのは13回で、9月15日から20日までの6日間に集中している。この利用明細は10月14日までの分だけど、20日以降はなぜか使われていない。

偽造カードを使った犯人をXと呼べば、Xが利用した店は、タクシーの払いに使ったのがいちばん多くて8件。少なくて10ドル、多くて23ドル。次にストップ&ショップというスーパー・マーケットで2件。191ドルと347ドルと、Xはここで最大の金額を使っている。悔しい! この店はクイーンズのマスペスにある。

後はガソリン・スタンドで1件。パティセリーというからケーキや菓子の店だろうか、ここで1件。スターバックスで1件。スタバの払いが最少で2ドル28セント。このスタバを最後に、Xはカードを使っていない。それにしても犯人X、2ドル28セントでカード使うか? 名前を騙られた者として恥ずかしいぞ。

Xの盗難カードの使い方はなんというか、あまり泥棒らしくない。最初は注意深くやるにしても、いけるとなれば大胆に、豪勢に、普段やらないことをやるもんだと思うけど(うんと遠くまでタクシーで行くとか、高価なレストランで食事するとか、高価なものを買うとか)、Xは日常生活にカードを使っているように感じられる。

唯一、ストップ&ショップで540ドル使っているけど、グーグルで調べると普通のスーパー・マーケットのようだから、置かれている品は、電気製品や家具にしても日用品だろう。タクシーにしても、普段なら地下鉄で行くところをタクシーで行ったという程度の金額だ。それ以外のガソリンスタンドにしても、スタバにしても、ごく普通に生活している気配がある。

Queens2
(ロング・アイランド・シティ)

Xがカードを使った地域は、クイーンズで7件、マンハッタンで4件、ブルックリンで2件となっている。クイーンズの内訳は、ロング・アイランド・シティで2件、アストリアで2件、マスペスで2件、ウッドサイドで1件使っている。

いちばん多いのはクイーンズだから、ここにXの生活の本拠があると考えるのが自然だろう。

クイーンズは、ニューヨークのなかでも多様な民族が住んでいる区として知られる。マンハッタンに住めない移住者たちが住む町で、ここを走る地下鉄7ラインは「インターナショナル・トレイン」と呼ばれる。僕は何回か行ったことがある程度だけど、さまざまなエスニックのコミュニティがあって、地下鉄を降りる駅によってがらりと雰囲気が違ったりする。

Xがカードを使ったロング・アイランド・シティは工場地帯で、ギリシャ人・コミュニティがあり、日本人も多い。アストリアにもギリシャ人と日本人のコミュニティがある。マスペスやウッドサイドにはアイルランド人、ヒスパニック、韓国人のコミュニティがある。その東のウッドヘブンには中国人やベトナム人のコミュニティがある。

カード情報が盗まれたのはマンハッタンの可能性が高いから、Xはクイーンズのアパートに暮らし、マンハッタンのレストランで働いている、と考えるのが自然だろう。カードの使い方からして、またレストランで働いているという職種からして、豊かな暮らしをしているとは思えない。

クイーンズのアパートに暮らし、地下鉄を使ってマンハッタンに通っている東洋人の姿が、おぼろげに浮かびあがってくる。僕が通っていた語学学校にもそのような人間がたくさんいた。

Xが1週間でぱたりとカードを使うのを止めてしまったのはなぜだろう。よく分からない。使いつづけて足がつくのを恐れたのか。それとも別の事情があるのか。盗人ならカードが使えなくなるまで使いまくるように思うけど、骨までしゃぶらないところは、怖くなったのか、それとも逆にリスクを避ける組織的な仕業なのか。

カードが使えなくなったいま、Xはどうしているんだろう。

次の偽造カードを使っているのか。それとも、あれは1回こっきりのことで、狭いアパートに偽造カードで買った大型テレビかなにかが鎮座しているのを唯一形に残ったものとして、以前と同じ生活に戻って地下鉄7ラインに乗っているんだろうか。

|

« オバマ勝利の報に | Main | 『binran』の妖しい光 »

Comments

う〜ん、漢字でのサインを含めたカード情報(表裏)をコピーできたとしても、磁気情報を含めた実物と変わらないカード自体はすぐできてしまうのか。

使い方自体は素人っぽくせこいね。
高額商品で試し、目一杯を狙うのが普通だろうが。

でも補償がきいてよかった。

Posted by: TAKAMI Toshio | November 12, 2008 02:30 AM

これをアップしてから気がついたんだけど、カードそのものを盗まれんじゃなく、偽造カードを新しくつくられたわけだから、サインが必ずしも漢字である必要はないかもね。

でも日本人名前のカードだから、誰でも使えるというわけでもない。アメリカ人の大半は、ある名前がどこの国のものかなど知らないし、気にもかけない。でも犯罪を犯すんだから犯人はそれなりに慎重に、例えば金髪やアフリカ系の人間が日本人名前のカードは使いにくいだろう。

となると、日本人になりすますことができるのはアジア系の人間。といってもインド以西の国の人は明らかに日本人と風貌が違うから、もう少し絞れば、当の日本、韓国、中国、東南アジアといったあたりの可能性が高い。

となると、盗まれた可能性のある場所は「ニューヨーク」「レストラン」「漢字」ではなく、「ニューヨーク」「レストラン」「日韓中・東南アジア」となる。もっとも、結果は前と同じ3件だけど。

補償があったから頭を冷やしてこれを書いたけど、もし補償されなかったら、いまだに頭に来てて、書く気にもなれなかったかもね。

Posted by: | November 12, 2008 09:54 AM

初めましてー。2年ほど前までNY在住しておりました。私もカード情報やられたことがあります。NY時代の上司もやられてまして、彼女曰くホテルのカードキーが一番危ないんだそうです。ホテルに宿泊する時はギャランティとしてクレジットカード番号を渡しますよね。カードキーには結構な情報が入っているんだとか。(真偽のほどを確かめたことはありませんが…)フロントに返すと、情報を悪用される可能性があると彼女は言っていました。それ以来、念のため必ず持ち帰るようにしています。

ちなみに、クレジットカードにチャージする側の仕事もしておりましたが、カードの名義は見なくともチャージできますから、どこで情報を盗まれたのかを確定するのはむずかしいかもしれませんね。カード再発行の手間はあったとはいえ、被害が最小限度だったことは不幸中の幸いですね。


Posted by: きてぃ。 | November 12, 2008 07:57 PM

 怖いですね。テレビとかで、カード情報が盗まれるという話は聞いていましたが、身近で簡単にこうしたことが起こるんですね。NYにいる娘にもこの記事を読むように、気を付けるように早速メールしました。
 補償さるということで、被害がなくて良かったですね。
 それにしても、雄さんの分析や推理はすごいですね。

Posted by: TO | November 12, 2008 09:27 PM

>キティさま

コメントありがとうございます。けっこう皆やられてるんですね。

ホテルのカードキーが危ないとは知りませんでした。キーのなかにこちらのクレジット情報が入っているということでしょうか。

となると、最後にニューヨークで泊まったホテル(建物も部屋もサービスも最悪でした)も怪しくなりますね。


>TOさま

お嬢さんは私などよりNYに詳しいでしょうから、気をつけておられるでしょうが。

やられてから時間がたって、少し頭を冷やして、やっと犯人像を半ば楽しみながら推理してみようという気になりました。

Posted by: | November 13, 2008 11:08 AM

犯人はかなりのプロですね。
大金をカード払いにするとIDを提示しろなどと怪しまれますが、逆に少額に使う分にはカード社会のアメリカでは怪しまれないし、使われた側も金額が小さい故に気がつかなかったりする。IDを提示しなくてもカードが使えるとかカード払いでもサインを確認しなかったりサインが不要のお店も沢山ありますしね。犯人は当然そういった事情も承知している通い慣れたお店での日用の買い物を明細が届く前の月末前までに済ませてしまいその後はもうそのカードは使用しないということを繰り返しているんですよ。
日本人をターゲットにしていることはありえますが、(そういう意味ではホテルはかなり怪しいと思います)犯人がアジア人である必要があるかと言えばそれははっきり言ってあまり関係ないと思います。

Posted by: yucca | November 13, 2008 04:12 PM

うーむ、プロの仕業ですか。

なぜ1週間でぴたりと使うのを止めたのか、yuccaさんの説明だと納得できます。素人だったら、未練がましくたらたらと使いつづけてしまいそうですものね。

アメリカはカードが日常生活の隅々まで浸透しているだけに、サインの確認は正直言っていい加減ですね。IDの提示を求められたことは稀ですし、サインしてカード裏のサインと照合されたこともまずありません。おっしゃるようにサイン不要の店もある。

そういうことが、カード情報盗難が多発する素地になっているのかもしれません。

これは僕の個人的感想ですが、商店やデリ、レストランで働いている人(外国移民も多い)は、オーナーではないから仮に偽造カードが使われても痛くも痒くもない。日本に帰ってくると、従業員の熱意というかモラルというか、かなりの差を感じます。そういうこともチェックが甘くなる土壌になっているのかも。

僕の推理ゲームははずれだったかも、ですね。

Posted by: | November 14, 2008 10:35 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference NYの記憶・13  カード情報盗まれる:

« オバマ勝利の報に | Main | 『binran』の妖しい光 »