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November 29, 2008

三四郎池のナナカマド

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友人たちと本郷の東大構内へ紅葉見物に出かける。正門から安田講堂へつづく銀杏並木の黄色も見事だったけど、三四郎池の小島に1本だけあるナナカマドの赤が日没直前の淡い光に浮かび上がる。ここは友人のひとりの職場で、ナナカマドが散ってしまわないか、毎日、見にきてくれていたらしい。

三四郎池に来たのは数十年ぶりだけど、周囲の木々が大きくなって深山の趣がある。

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November 25, 2008

鶴橋商店街

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仕事で大阪へ行き、1時間ほど時間があいたので環状線・鶴橋へ。この国最大の在日韓国・朝鮮人の町。駅前ガード下の商店街は30年前とまったく変わっていない。

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何十種類もの漬物が並ぶこの漬物屋さんとも30年来のなじみ。店によって少しずつ味が違う。キムチはもちろんだけど、岩海苔の漬物が絶品。

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November 21, 2008

『僕らのミライへ逆回転』の映画とジャズ

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オープニングで上空からのショット、緑のなかに広がる低層アパートの彼方にマンハッタンの超高層ビル群がそびえている。ああ、この緑の多さ、町の雑多な感じはいかにもニュージャージーだなと懐かしくなってしまった。

僕はニュージャージーに住んでいたわけでなく、何回か行ったことがある程度だけど、この映画にも出てくる鉄道「NJトランジット」に乗ってニューヨークに近づくときに見えてくる、映画と似た風景にはいつでも興奮させられる。

濃い茶色の、まるで墓石のように無個性な中層アパートが何棟も並んでいるのはプロジェクトと呼ばれる低所得者向け公共住宅だろう。カメラはそこから高速道路脇の廃品置き場にズーム・インしていき、『僕らのミライへ逆回転(原題:Be Kind Rewind)』がどんな場所を舞台にしているのかをワンショットで分からせてしまう。

町はPsssaic(パセーイク、とでも読むのかな)。グーグル地図とストリート・ビューを見ると、ニューヨークから15キロほど。低層の家が並ぶ、都市近郊のありふれた町みたいだ。

廃品置き場のトレーラー・ハウスに住むジェリー(ジャック・ブラック)と、つぶれそうなレンタル・ビデオ店の店員マイク(モス・デフ)が主人公。トラブル・メイカーのジェリーが店のビデオの映像を全部消してしまい、2人は客が借りにきた映画を手づくりでリメイクして急場をしのごうとする。

監督とカメラをマイク、ジェリーが主演。太めでメガネをかけた、いかにもダメ男ふうなジャックが、手近な廃品を使ってゴーストバスターズやロボコップに扮し名場面を再現する。それが大受けで、2人は『ドライビング・ミス・デイジー』『キングコング』『キャリー』『シェルブールの雨傘』と、常連が求める映画を次々にリメイクする。

Bekindrewind

映画づくりをテーマにし、映画にオマージュを捧げた作品はトリュフォーの『アメリカの夜』はじめたくさんあるけど、これはそれを素人の映画オタクがチープにやる設定でコメディにしたのが面白い。アナログでゴーストバスターズやロボコップをつくるところが、CG全盛のハリウッドへのさりげない批評になっているのもいい。

しかも映画だけでなく、そこにジャズが絡んでくる。

レンタル・ビデオ店はジャズ草創期の名ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの生家だということになっていて(オーナーが善意の嘘をついてる)、2人は立ち退きを迫られた店を守るためにウォーラーの伝記映画をつくろうとする。

僕はモダンジャズ好きなので、モダン以前のウォーラーはあんまり聞かないけど、ストライド・ピアノと呼ばれるスタイルの古いジャズが画面に流れてくると、それだけで1930年代の匂いがする。

当時の映画の雰囲気を出すために、ビデオ・カメラの前に換気扇をおいて画面をちらちらさせたり、古い自動車の写真を拡大し、張りぼてにして道を走らせたりのチープな工夫が泣かせる。

撮影には何人もの店の常連が参加し、店が取り壊される前の上映会にはたくさんの住民が押しかける。最後は「笑って泣かせて」の定番になるけど、それがありきたりにならないのはミシェル・ゴンドリー監督の腕の冴えだろうね。


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November 18, 2008

『binran』の妖しい光

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1年間、日本にいなかったので、その間にどんな写真集が出たか知りたくて新宿の写真専門書店「蒼穹社」に出かけた。島尾伸三の中国ものを集大成した『中華幻紀』とか、何冊か気になる写真集があったけど、特に目を惹かれたのが瀬戸正人の最新刊『binran』(リトルモア)だ。

binranは漢字で書けば檳榔。台湾語で「ビンラン」、日本語だと「びんろう」になる。

15年ほど前、仕事と遊びの両方で頻繁に台湾に出かけた一時期がある。車で台北郊外の道路を走っていて、「檳榔」という看板の出た粗末な小屋をたくさん見かけた。檳榔の売店だった。

檳榔はヤシの一種で、果実の種にはある種の覚醒作用がある。まあ、噛みタバコみたいなものと思えばいい。口のなかでくちゃくちゃやったあと、ぺっと吐くと、真っ赤な血のような唾が路上に散る。当時、台北の町の近代化を進めていた市当局にとっては悩みの種だったらしい。

台湾人の友人に「一度、やってみたいな」と言ったら、「やめてください。台湾の恥です」と言われたことがある。

その檳榔の売店を50店近く撮影したのがこの写真集だ。

びっくりしたのは、僕が見た1990年代には掘っ建て小屋みたいだった売店が、最新のこの写真集では派手なネオンが彩るガラス張りに変わり、おまけにガラスの奥には必ずミニスカートの若い売り子が太ももを露わに座っていることだった。檳榔の売店が今でもしぶとく残っているばかりでなく、こんな姿になっているとは!

写真集のなかで闇に浮かぶ檳榔店は、まるで深海の底で照明を当てられた水槽か、夜の誘蛾灯みたいな妖しい光を放っている。誘蛾灯というのはこの場合比喩じゃなく、檳榔を買う客のほとんどは男だから、蛾ならぬ男を誘惑するための装置がこのネオンとガラス張りとミニスカートの女性というわけだ。

瀬戸正人はすべてを一定のスタイルで撮っている。必ず夜。「水槽」をやや角度をつけて画面の大部分に取り込み、周囲の建物や道路の様子もさりげなく写し込む。スナップではなく、ミニスカートの女性にポーズしてもらう。

中判カメラ(多分。最新のデジタル一眼レフは中判並みの描写をするけど、画面縦横の比率は35ミリでない)の細密な描写がそこにある細々としたものまで写しとり、見る者はまるで誘蛾灯に誘われるように(僕も男だし)それらに目をこらすことになる。

額縁みたいにガラス窓を飾る原色のネオン。そのなかにいるミニスカートの女性たちの、いかにも水商売ふうなチープな衣装。そばに置かれたブランドものバッグや化粧道具、鏡。飲みかけのペットボトル。ミッキーマウスのぬいぐるみ。金色の招き猫。檳榔を入れたプラスチック籠。ビニール貼りのピンクのイス。立てかけられたビニール傘。古ぼけた扇風機。入口に置かれた女戦士のフィギュア。錆びた鉄骨。

そんな台湾のマーメイドたちや町のたたずまいを、画面の隅々まで楽しんでいると、1枚の写真に4分も5分も滞留してしまう。見ることの快感を実に感じさせてくれる写真集だね。

なお「biinran」は写真集に先立って昨年、写真展が開かれ、瀬戸正人はそれによって日本写真協会賞を受賞している。

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November 11, 2008

NYの記憶・13  カード情報盗まれる

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(クイーンズのロング・アイランド・シティ)

やられた!

アメリカから帰って2ヵ月。10日ほど前、送られてきたクレジット・カードの利用明細を見たら、帰国して1カ月後の9月中旬、ニューヨークでカードが使われているではないか!

あわててクレジット・カードを探すと、確かに手元にある。ということは、カードそのものではなくカード情報を盗まれたわけだ。

気がついたのは深夜だったけれど、すぐに銀行に電話してカードを凍結してもらった。金額は合計801ドル。9月15日から20日まで、13回に分けて使われている。幸いこちらに落ち度があるわけではないので、使われた金は補償してもらえるらしい。

ニューヨークに1年間滞在するに当たって、生活費は東京にある外資系銀行のドル口座に入れておいた。ドルにしておけば、円ドルの為替変動に一喜一憂しないですむ。その口座から引き落とすクレジット・カードと、アメリカのATMでドルを現金で引き出せるカードの2枚を用意しておいた(もう1枚、予備として日本で使っているクレジット・カードも)。

アメリカはカード社会だから、デリやニューススタンドでの少額の買物には現金を使うけれど、スーパーやレストランでの払いにはカードを使うことが多い。多額の現金を持ち歩くのは、ホールドアップされたとき不安でもある。僕は外出するとき、100ドル以上の現金は持たないようにしていた。

カードのサインは漢字にした。ローマ字より漢字のほうがサインを偽造されにくいだろうと思ったからだ。

カード情報が盗まれたことが分かったその夜、口座を凍結したことで少し落ち着き、さてどこで盗まれたのかと考えた。

商店での買物なら、たいてい目の前でカードが処理されるから情報を盗まれる可能性は低い。やられたのは、渡したカードがいったん店の奥へ持っていかれ、見えないところで処理される場所、例えばレストランだろう。

カード裏のサインは漢字だから、漢字を知っている人間がいる場所で盗まれた可能性が高い。組織的にやられたのなら必ずしもそうでなく、末端でカードを使う人間が漢字を知っているだけかもしれない。でも可能性としては、漢字が分かる人間の仕業と考えるほうが自然だ。

盗まれた情報によるカードが使われたのはニューヨークだから、盗まれたのもニューヨークである可能性が高い。ニューヨークにいたのは7月末までで、その後はアパートを引き払ってカリフォルニアやフロリダに旅行し、8月中旬にまたニューヨークに戻ってホテルに2泊している。

「ニューヨーク」「レストラン」「漢字が分かる人間のいる店」という目で利用明細を遡ってみた。探してみると過去2か月で3件ある。

1件目は、旅行からニューヨークに帰ってきたアメリカ滞在最終日から2日前。マンハッタン西42丁目にあるコリアタウンの韓国レストランで食事している。この店はスーン豆腐(豆腐鍋)がおいしく、また語学学校から近いので、月に1、2度は通った気に入りの店だった。従業員は韓国人とフィリピン人が多い。

2件目は旅行に出る前、マンハッタンのイタリア・レストランで友人と食事している。この店のオーナーは日本人。ほかのイタリア・レストランがアメリカ人好みで味の濃い店が多いなか、この店はあっさりと日本人好みなので、安い店ではないけれど時々利用した。従業員は日本人が多い。

3件目は更にその2週間前、チャイナタウンのベトナム・レストランでアフリカ系の友人と食事をした。チャイナタウンには、米軍撤退後のベトナムから脱出した中国系ベトナム人が経営するレストランがたくさんある。従業員は中国系ベトナム人か中国人。

あくまで可能性にすぎないけど、この3軒のどこかで盗まれた可能性が高いな、と思った。

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(ロング・アイランド・シティの工場。手前はイースト・リバー)

次に、盗まれた情報が使われた利用明細を調べてみた。

使われたのは13回で、9月15日から20日までの6日間に集中している。この利用明細は10月14日までの分だけど、20日以降はなぜか使われていない。

偽造カードを使った犯人をXと呼べば、Xが利用した店は、タクシーの払いに使ったのがいちばん多くて8件。少なくて10ドル、多くて23ドル。次にストップ&ショップというスーパー・マーケットで2件。191ドルと347ドルと、Xはここで最大の金額を使っている。悔しい! この店はクイーンズのマスペスにある。

後はガソリン・スタンドで1件。パティセリーというからケーキや菓子の店だろうか、ここで1件。スターバックスで1件。スタバの払いが最少で2ドル28セント。このスタバを最後に、Xはカードを使っていない。それにしても犯人X、2ドル28セントでカード使うか? 名前を騙られた者として恥ずかしいぞ。

Xの盗難カードの使い方はなんというか、あまり泥棒らしくない。最初は注意深くやるにしても、いけるとなれば大胆に、豪勢に、普段やらないことをやるもんだと思うけど(うんと遠くまでタクシーで行くとか、高価なレストランで食事するとか、高価なものを買うとか)、Xは日常生活にカードを使っているように感じられる。

唯一、ストップ&ショップで540ドル使っているけど、グーグルで調べると普通のスーパー・マーケットのようだから、置かれている品は、電気製品や家具にしても日用品だろう。タクシーにしても、普段なら地下鉄で行くところをタクシーで行ったという程度の金額だ。それ以外のガソリンスタンドにしても、スタバにしても、ごく普通に生活している気配がある。

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(ロング・アイランド・シティ)

Xがカードを使った地域は、クイーンズで7件、マンハッタンで4件、ブルックリンで2件となっている。クイーンズの内訳は、ロング・アイランド・シティで2件、アストリアで2件、マスペスで2件、ウッドサイドで1件使っている。

いちばん多いのはクイーンズだから、ここにXの生活の本拠があると考えるのが自然だろう。

クイーンズは、ニューヨークのなかでも多様な民族が住んでいる区として知られる。マンハッタンに住めない移住者たちが住む町で、ここを走る地下鉄7ラインは「インターナショナル・トレイン」と呼ばれる。僕は何回か行ったことがある程度だけど、さまざまなエスニックのコミュニティがあって、地下鉄を降りる駅によってがらりと雰囲気が違ったりする。

Xがカードを使ったロング・アイランド・シティは工場地帯で、ギリシャ人・コミュニティがあり、日本人も多い。アストリアにもギリシャ人と日本人のコミュニティがある。マスペスやウッドサイドにはアイルランド人、ヒスパニック、韓国人のコミュニティがある。その東のウッドヘブンには中国人やベトナム人のコミュニティがある。

カード情報が盗まれたのはマンハッタンの可能性が高いから、Xはクイーンズのアパートに暮らし、マンハッタンのレストランで働いている、と考えるのが自然だろう。カードの使い方からして、またレストランで働いているという職種からして、豊かな暮らしをしているとは思えない。

クイーンズのアパートに暮らし、地下鉄を使ってマンハッタンに通っている東洋人の姿が、おぼろげに浮かびあがってくる。僕が通っていた語学学校にもそのような人間がたくさんいた。

Xが1週間でぱたりとカードを使うのを止めてしまったのはなぜだろう。よく分からない。使いつづけて足がつくのを恐れたのか。それとも別の事情があるのか。盗人ならカードが使えなくなるまで使いまくるように思うけど、骨までしゃぶらないところは、怖くなったのか、それとも逆にリスクを避ける組織的な仕業なのか。

カードが使えなくなったいま、Xはどうしているんだろう。

次の偽造カードを使っているのか。それとも、あれは1回こっきりのことで、狭いアパートに偽造カードで買った大型テレビかなにかが鎮座しているのを唯一形に残ったものとして、以前と同じ生活に戻って地下鉄7ラインに乗っているんだろうか。

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November 07, 2008

オバマ勝利の報に

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パソコンがダウンしリカバリーしていたので遅れてしまったけど、オバマが勝ったのは、当然といえば当然だったね。

昨日の朝日新聞に、ニューヨークに住む青木冨貴子さんが書いていた。

「この秋から増えてきた『レント(貸店舗)』の表示や、もぬけの殻になった元金融関係事務所跡、中断された建設工事現場や目立つホームレスの姿などをあげるまでもなく、サブプライムローン問題にはじまった金融危機はとどまるところを知らない」

僕が日本に帰ってきたのは8月中旬だったので、株価暴落から金融危機に至るニューヨークを知らない。サブプライムローン問題は去年から深刻になっており、ローンが払えず持ち家を手放した人もいたはずだけど、誰の目にも見える形で表面化していたわけではなかった。むしろニューヨーク中がジェントリフィケーション(高級化)と呼ばれる建築ブームに湧いていた。

僕が住んでいたブルックリンはアフリカ系やヒスパニックなど有色人種が多く、かつては労働者の町、今もどちらかといえば中下層階級の町。そこにもジェントリフィケーションの波は押し寄せて、僕のアパートのまわりには4棟の高層コンドミニアムが建設・計画中だった。青木さんの報告のように、それらのコンドミニアムはひょっとして工事が中断していないだろうか。

ブルックリンのダウンタウンはアフリカ系住民向けの店が並ぶ繁華街で、「レント」の札がかかった空家も多かったけど、その札はいま、もっと増えているんだろうか。いつもアフリカ系の客でごったがえしていたスーパーのターゲットと隣の食品スーパーは今も繁盛してるんだろうか。

オバマはほんのいっときブルックリンに住んだことがあるらしく、ヒラリー・クリントンと民主党大統領候補の指名を争っているときも、ここはオバマ一色だった。

僕は数人と話しただけだから個人的印象だけど、オバマ支持の底にはイラク、アフガニスタン戦争への厭戦気分があったように思う。なにしろアメリカ人にとっても必ずしも理屈の立たない戦争で、どちらかといえば下層に属する数千人の兵士が死んでいる。

その後、金融危機があり、ブッシュ8年間の失敗のツケが劇的に人々を襲ったから、オバマがマケインに勝つのは当然だったけど、僕にはそれよりオバマがヒラリーに勝ったときのほうが驚きだった。

そのオバマの勝因は、戦争はもういいよ、というアメリカ人の心情が人種の壁より大きかったことによるんじゃないか。ヒラリーはイラク戦争に賛成したし、現実政治家だから大きな変化は期待できない。「変化」を期待するならオバマだ、という心情。それが底流としてあったところへ、今回は自分の生活を直に脅かす金融危機が重なった。

日本へ帰ってきた直後にロバート・B・ライシュ『暴走する資本主義』(東洋経済新報社)を読んだ。ライシュはオバマの経済部門のアドバイザーだという。一言でいえばカジノ資本主義を市民の立場、公正の観点から抑制しないと大変なことになる、という主張だったけど、いま、その通りのことが起こっているわけだ。

同時に彼は、ひとにぎりの富裕層だけでなく、大多数の人間が(年金ファンドなどで)投資しているのだから、大なり小なりアメリカ人誰にも責任があるという。

投資だけでなく、アメリカは全体として過剰消費というか、無駄も多い社会だ。車社会だからガソリンは言うに及ばず、紙ひとつとっても、デリでピザやサラダを買うと山ほどナプキンをくれるし、トイレへ行っても誰もハンカチを持ってない。家庭のガス台には元栓がなく、24時間、種火がついている。すべてが資源の大量消費を前提にできていて、誰もそれに疑問をもたない。

オバマ大統領になって、カジノと無駄と過剰消費で膨れ上がった社会が、少しはまともになるだろうか。

戦争に関しても、オバマはイラクから撤退するが、アフガンへは逆に兵力を増強すると言っている。対テロ戦争を間違いだと言ったら、彼は恐らく予備選の早い段階で負けてしまったろうが、アフガンもイラクも、いったん壊してしまった国家は元に戻らない。中東のパンドラの箱を開けてしまったことを、どうするんだろう。

まあ、少しでも世界がよくなることを期待するしかない。

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November 03, 2008

NYの記憶・12 トイレ地図(3)

Washingtonsquare
(ワシントン・スクエア・パークのストリート・ミュージシャン)

<ダウンタウン>

ダウンタウンのトイレ事情は決して良くありません。ミッドタウンのようにデパートもホテルもショッピング・モールもないからです。でも、スターバックスやカフェがあちこちにありますから、コーヒー・タイムをうまく配分していけば特に困ることもありません。

○ヴィレッジ

僕の知る限り、ヴィレッジの公共トイレはただひとつ。ヴィレッジのど真ん中、ワシントン・スクエア・パークにあります。ところがここ、かなり怪しいんですね。夕方、あたりが薄暗くなると、トイレの周りになにやら訳ありげなお兄さんがたむろしはじめます。僕の前を歩いていた男2人が連れ立って個室に入っていったこともあります。暗くなったら、男の僕でも(男だからこそ?)入るのをためらう雰囲気のトイレです。ランクC。

もっとも僕がニューヨークを離れた8月にはここ、工事中で閉鎖されてました。新しい清潔なトイレに生まれ変わったかもしれません。でも、場所が場所だからなあ。

ワシントン・スクエア・パークを中心に東がイースト・ヴィレッジ、西がウェスト・ヴィレッジになります。イーストにはタトゥーの店、オタクっぽいレンタル・ビデオ店、日系スーパーなどがあり、ウェストには映画館、ジャズのライブハウス、中古レコード店がありますが、無料で使えるトイレはどこにもありません。

僕は週に2、3日はヴィレッジをぶらつきましたが、イーストに2軒、ウェストに1軒、行きつけのカフェができ、歩き疲れるとトイレ休憩も兼ねてお茶を飲むことにしていました。窓際の席に座り、カプチーノをすすりながら道行く人をぼんやり眺めているのは無上の時間でした。

○ソーホー

ソーホーは元倉庫街、そこがギャラリー街になり、いまはブランド・ショップが並ぶ繁華街ですが、そういう町の成り立ちのせいか、公共トイレは皆無です。無料で使えるトイレも少なく、トイレ過疎地帯と言っていいでしょう。かろうじてブロードウェーにブルーミングデールス(BLOOMINGDALE'S)の小さな店があり、デパートですからトイレは清潔です。ランクA。

ソーホーの北のはずれになりますが、ハウストン・ストリートを渡ったところに映画館アンジェリカ・フィルム・センターがあります。単館ロードショー系の小屋で僕はよく行きましたが、1階にカフェとトイレがあります。入場券を買わなくてもカフェに入ることができ、従業員が商売熱心でなく顔が見えないことが多いので、トイレだけ使わせてもらったこともあります。ランクB。

もうひとつ、ブロードウェーからハウストン・ストリートを反対側にしばらく歩くと、もうソーホーというよりノーホーですが、オーガニック・スーパーのホール・フーズがあり、そこにもカフェとトイレがあります。ランクB。

Chinatown
(チャイナタウン)

○チャイナタウン、リトル・イタリー

ここで僕が知っている公共トイレはただひとつ。チャイナタウンのコロンバス・パークにあります。中国系住民の憩いの場ですが、トイレは清潔とはいえず、個室のドアがなかったりします。ランクC。

リトル・イタリーはチャイナタウンにすっかり包囲されてしまいました。リトル・イタリー側のモット・ストリートには徳昌というスーパーがあります。もともと肉屋なのですが、魚、野菜、冷凍食品もあり、総菜も売っていて、いつもごったがえしてる。総菜売場のそばにトイレがあります。ランクC。

チャイナタウンには行きつけのカフェもありましたし、ここへ来るときは食事か徳昌で買物のことが多いので、不自由を感じたことはありません。ただ、チャイナタウンのトイレはどこも清潔とはいえず、高級店の福臨門を除いて、きれいなトイレに当たることは望み薄です。

○ロウワー・マンハッタン

マンハッタンの最南端、バッテリー・パークにはクリントン砦のなかにトイレがあります。近くのスタッテン島行きフェリー・ターミナルにもトイレがあります。いずれもランクB。

ボウリング・グリーンのアメリカン・インディアン博物館は、入場無料ですが持ち物検査があり、中に入るとトイレがあります。ランクB。

ウォール街には公共トイレがありませんが、通りの入口にあるトリニティ教会にトイレがあります。ランクB。

ワールド・トレード・センター跡地周辺では、セント・ポール教会(いつも混んでいる。ランクB)とハドソン川に近いワールド・ファイナンシャル・センター(ランクA)にトイレがあります。

×    ×     ×

こうやって書いてきて、ニューヨークのトイレの少なさには改めてびっくりします。前々回述べたように犯罪多発時代に公共トイレの多くは閉鎖されましたが、それを考慮しても、そもそもアメリカには公共施設にトイレが少ないし、またひとつひとつのトイレの面積(朝顔や個室の数)も小さいように思います。

例えばメトロポリタン美術館。毎日、あんなにたくさんの人がつめかけるのに、トイレの数はごく少ないし、朝顔や個室も少ない(女性用にはいつも長い列ができてるから、男性より状況は悪いんでしょう)。カーネギー・ホールだって、客席の数に比べてトイレの小ささにびっくりします。

アメリカ人だってトイレの悩みは同じだろうと思うんですが。

そういえば、かつて愛読したローレンス・ブロックのハードボイルド、探偵マット・スカダーシリーズで、スカダーの盟友であるギャングのボスが、年寄りのトイレの悩みはつらい、なんて普段の強面にも似ず愚痴るシーンがあったっけ。

このシリーズは作者ブロックの心境小説みたいな一面もあったから、あれはブロック自身の本音だったのかもしれません。ブロックが引退してフロリダに行ってしまったのも、ひょっとしてニューヨークに暮らすのがいろんな意味でつらくなったのかもしれないな。

ある人に言わせると、アメリカ人は日本人より1日の水分摂取量が少ないからトイレに行く回数も少ない、のだそうです。真偽のほどは分かりませんが、僕たちは朝昼晩、食事するとき水分がほしいし、食後もお茶かコーヒーが飲みたくなりますね。アメリカ人はそんなに飲まない。健康のためには1日に水を2リットルなんて言いますが、その半分も飲んでないんじゃないかな。

それは生理の違いなのか文化の違いなのか、なんてことになると問題はさらにこんがらかってきますが、ひとまずこれにて。


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