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October 18, 2008

NYの記憶・9 生徒たち(6)

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(学校そばの公園。空を見上げると、エンパイア・ステート・ビルの先端が見える)

あまり深いつきあいはなかったけれど、ワン・シーンだけ鮮やかに記憶に残っている生徒もいる。

トルコから来たBは彫刻家だった。頬から顎にかけて髭面だから歳を取っているように見えたけれど、ある日、髭を剃ってきたのを見たら若々しい青年だった。

彼とはJのクラスでなく、別の会話クラスで一緒だった。2年ほど在籍しているから英語力はあって、授業は熱心でなく、時間中、ずっと隣の生徒の姿をスケッチしている。そして自分に興味のある話題になったときだけ発言する。

彫刻家といっても昔ながらの彫刻だけでなく、公共の場所にモニュメントなどもつくっている。ホームページを持っているというので見せてもらったら、トルコでつくったモニュメントがあった。細い金属で人間をかたちどったもので、それが「見ざる言わざる聞かざる」のような姿勢をしている。

トルコはイスラム教国だけど近代化してEC加盟を目指している国であり、その一方、クルドなど少数民族問題もあって、国内にいろんな緊張を抱えこんでいる。

「この作品からはあなたのメッセージを感ずるね」と言ったら、Bは「アートは時に社会的な力を持たなきゃいけないと思う」と答えた。日頃、おだやかで政治的な話題は聞いたことがなかっただけに意外な気がした。

僕が最後に授業に出た日、記念にBにスケッチを描いてもらおうと思ったんだけど、残念ながらその日、Bは欠席した。それがちょっとした心残りになっている。

Jのクラスの生徒であるMもアーチストだった。チリから来ている彼女は20代後半。眼がぱっちりと大きい美人。長身で、いつもセンスのいい格好をしている。

一度、ニューヨークの地下鉄パスやいろんなチケットや自分で撮った写真をコラージュして貼った日記風の「作品」を見せてもらったことがある。

BはJの「お気に入り」の生徒だった。ゲイであるJから見ても彼女は魅力的だったんだろうし、それだけでなく、授業でBは性的なことも平気でしゃべるので、ほかの若い生徒がはやしたて、授業に活気が出てやりやすいという理由もあったかもしれない。

一度、Bが教室にアナイス・ニンの単行本を持ってきたことがある。カバーがヌードだったので、Jが「Bがポルノを読んでいる」とからかうと、周りの若い子たちが「見せて」「見せて」と大騒ぎになった。Bが「違う、これはポルノじゃない」と言っても収まらない。そこで僕が「アナイス・ニンはポルノじゃない。ちゃんとした小説だよ」と助け船を出したことがあった。

それがきっかけで話してみると、映画や音楽の趣味もけっこう合う。彼女はシャーディが大好きで、いつもipodで聞いている。僕が、「シャーディのコンサートに行ったことがあるよ」と言ったら、「え、ほんと?」と、なんとも羨ましそうな顔をして、「あなたと私は同じ資質を持っているみたい」と言う。若い美人のアーチストにそう言われてもちろん悪い気はしなかったなあ。

ペルーから来たDは小柄で黒髪、色黒の肌にきりりとした目と眉。ひとめでインディオの血を引いていると分かる風貌をしていた。

彼はクラスに顔を出したり、休んだり、あまりほめられた出席率ではなかった。教室に出てきても、授業中ほとんどしゃべらず、周りを冷笑するような表情を浮かべていつも貧乏揺すりをしている。隣に座っているとかすかにその振動が伝わってきて、何かにいらだっているらしいDの気持ちまで感じられるようだった。

授業ではときどき、さまざまなテーマを生徒が3人1組になって議論することがある。あるとき、Bとイタリアから来たEと僕の3人が組んで討論したことがあった。

確かエコロジーがテーマだったと思う。Eと僕とがイタリアと日本のエコロジーの取り組みについて話した後、Dの番になった。Dはひとこと、「あなたがたの国はもう豊かになったから、それでいい。でも僕の国は貧しい。エコロジーを考えるような余裕はないんだ」とだけ言った。Eも僕も、Dの言葉をうまくフォローしてあげるだけの英語力を持っていなくて、議論はそこで終わりになってしまった。

Dはアルバイトが忙しくなったのか、その後、クラスから姿を消した。

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Comments

『不良老年のNY独り暮らし』の方へは、何度かコメントしましたが、『Days of Books , Films & Jazz』へは初めてコメントします。
 このブログの方では、ますます”雄さんワールド”が広がっていて良いですね。
 「NYの記憶」、楽しみに読んでいます。『NY独り暮らし』と全く違うシーンの話なので、NYを思い出して、また興味深く読んでいます。
 私も今年の夏にNYに行って、雄さんともあちらで会っていただきましたが、その他にも色々楽しいことがありました。
 その中でも最高の思い出が、夫婦でジャズクラブの『バードランド』に行ったことですね。
 この日は、一度『バードランド』に行ってみたいという気持ちだけで、『CAST PARTY』と題されたライブの内容は全く何も知らないで出かけました。
 ところがこの催しがすごく、CASTとは、近くのプロードウェーの出演者のことで、会場内を埋めている満席の客も、主に舞台関係者のようでした。8月4日の月曜日でしたので、ほとんどの劇場が休みの日なんですね。
 午後9時半から始まったライブでは、進行役のJim・Caruso(彼も途中で1曲歌いました)という人に、客席の一人一人がステージに呼ばれ、主に自分の舞台でのワンシーンの曲をピアノとベースのデュオで、一曲ずつ披露するというものでした。
 ピアニストは、Billy・Stritchという人で、ミュージカルナンバーからジャズまで何でもござれといった上手さでした。後で調べてみると、彼はライザ・ミネリと一緒にアルバムを出しているような人でした。
 歌い手の中には、トニー賞受賞者や『アニー』の子役も登場してそれぞれが素晴らしく、1時間ほどで帰るつもりが、3時間の滞在になりました。
 『バードランド』では毎週月曜日の午後9時半から行われているようです。0時半位に帰りましたがまだまだ続いてました。チャージも10ドルと安く、ニューヨークに遊びに行かれる人には絶対のお勧めですね。
 では。時間が取れれば、またコメントします。 T・O

 

Posted by: TO | October 18, 2008 at 10:26 AM

こちらのブログも読んでくださっているとのこと、ありがとうございます。

cast partyに行ったことはないのですが、一流どころが出るクラブでは私もバードランドがいちばん好きです。

ブルーノートは狭くて食事がいまいち、ヴァンガードは玄人好みですが食事はなく内装も昔と変わらず古いのに対して、バードランドはゆったりとお洒落な雰囲気で、ケイジャン料理を中心に食事もおいしいですね。

それに、バーがステージに近いのも私には助かりました。ここで食事すると100ドル近くかかり、私の生活費では月に1回がせいぜいでした。バーで飲み物だけなら半額以下で素晴らしいミュージシャンを聞けるので、よく通いました。

Posted by: | October 19, 2008 at 01:38 PM

彫刻家DのHPを見たいのですが教えていただくことは可能でしょうか?

Posted by: 812SH | October 21, 2008 at 05:03 PM

ごめんなさい。アドレスを書いたノートを日本に帰るとき処分してしまいました。

Posted by: | October 21, 2008 at 11:56 PM

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