« 『ワイルド・バレット』はアメリカ地獄巡り | Main | NYの記憶・11 トイレ地図(2) »

October 28, 2008

NYの記憶・10 トイレ地図

R0010284
(アパートのあるブルックリンのウィロビー・ストリート)

ニューヨークに公共のトイレ(こちらではレスト・ルーム rest room)が少ないことは有名ですね。

町歩きする観光客がいちばん頭を悩ますのがトイレですが、ニューヨークの住民だって同じ悩みを抱えています。

なにしろニューヨークは鉄道の駅にトイレがない。グランド・セントラル駅とかペンシルバニア駅とか、ニューヨークの玄関口にあたる大きな駅にはもちろんありますが、市内を縦横に走っている19ラインの地下鉄駅にはほとんど見かけません。たまにあっても、たいてい鍵がかかっていて使えません。

ニューヨークの地下鉄は、かつてのように危険な目にあうことはまずないし、東京や大阪のJRと地下鉄と私鉄をあわせたような存在で、市内のどこへ行くにも利用しますから、これは困ります。

鉄道だけでなく、公園も似たような事情です。さすがにセントラル・パークには何カ所もトイレがあるけれど、街角の小さな公園にはまずありません。あったとしても金網に囲まれた子供専用グラウンドのなかで、子供とその保護者しか使えない。それも暗くなると鍵をかけられてしまいます。

なぜこうなったかというと、1960~80年代にかけて治安が悪化した時代に、トイレは絶好の犯罪の舞台になったからですね。考えてもみてください。トイレでホールド・アップなどされた日には、どうにも抵抗できませんもんね。というわけで、その時代に地下鉄や公園のトイレは次々に撤去・閉鎖されてしまった。その状態が今にいたるまで続いています。

ニューヨークに1年間住むことを決めたとき、まず頭を横切ったのもそのことでした。自慢じゃありませんが、ジジイはトイレが近い。東京ならば、自分の普段の行動範囲のどこにトイレがあるか、だいたい分かってますが、知らない町ではそうはいきません。

去年の8月、ブルックリンのアパートに入居してまずやったことは、自分の行動半径内のトイレ地図をつくることでした。アパートのあるブルックリンのダウンタウン。語学学校のあるマンハッタンのミッドタウン。その間にあって毎日のように途中下車してはぶらついたマンハッタンのダウンタウン――ヴィレッジ、ソーホー、チャイナ・タウンといったあたりです。

まずは、タダで、しかも誰にもとがめられずに使えるトイレを探すことから始めました。デパート、ショッピング・モール、大きなホテル、大きなスーパーといったあたりがそれに当たります。ホテルとスーパーに「大きな」とつけたのは、例えば中小のホテルだとトイレの入口に鍵がかかっていて、宿泊客がカード・キーを差し込んで開けるシステムになっているところがあるからです。

スーパーもターゲット(TARGET)みたいに大きなスーパーには必ずありますが、ちょっと小さなところだとまずありません。ニューヨークではいまホール・フーズ(WHOLE FOODS)というオーガニック・スーパーが人気ですが、ここは必ずカフェが併設されていて、ということはトイレもあって、カフェを使わなくともトイレは使えます。僕はユニオン・スクエアやソーホーのホール・フーズを買物がてらよく使いました。

もうひとつ、意外だったのは書店です。市内のあちこちに店があるバーンズ&ノーブル(BARNES & NOBLE)とかボーダーズ(BORDERS)といった大きなチェーン書店は、店内にたいていカフェとトイレがあります。ニューヨーカーもトイレには困っていると見えて、こうしたチェーン書店はトイレがありることを売りものに客を呼んでいる、と聞いたことがあります。

ついでに言うと、日本だと複数のテナントが入って出入り自由の雑居ビルにはたいていトイレがありますが、ニューヨークではまず間違いなくトイレ入口のドアに鍵がかかっています。それぞれのテナントが鍵を持っていて、利用者はその鍵を持っていくわけです。

さて、無料トイレがどうしても見つからなかったら、お金を払ってトイレを使うしかありません。そこでいちばん役に立つのはスターバックスです。

スターバックスは市内のいたるところにあって、にぎやかな通りなら5分も歩けばたいてい見つかります。ある人は、ニューヨークのトイレ事情はスターバックスが進出して劇的に改善された、と言います。たしかに、もしスターバックスがなかったら、ニューヨークの町歩きはけっこうシビアなことになるでしょう。

もっとも、スターバックスを見つけてほっとするのはまだ早い、んですね。場所によっては、僕の観察によれば人通りが多いのに公共トイレが少ない場所、例えばチャイナタウンやアスター・プレイスのスターバックスは、いつ行ってもトイレの前に数人、多いときは5、6人が並んでる。スターバックスには余裕をもって、が肝心です。

さらに悲惨なのは、10軒か15軒に1軒くらい、トイレのないスターバックスがあることです。カプチーノを買って席に着き、さてと思ったら、トイレはありませんと言われては泣くに泣けません。1年間で2度、そういう体験をしました。そういうときは一口飲んで店を飛び出し、切迫した目で次なるマクドナルドなりディーン&デルーカ(DEAN & DELUCA)なりを探し、もう一度金を払うことになります。

もっとも、席に座って眺めていると、さっと店に入ってきて店員と目を合わさず一直線にトイレに向かい、出たらまた店員とは絶対に目を合わさずさっさとドアを開けて出ていってしまう剛の者もいます。目的の場所がどこにあるかを知っているわけですから、トイレ常連なんだろうなあ。

以上、概論でした。次に各論として極私的ニューヨーク・トイレ地図を紹介しましょう。

|

« 『ワイルド・バレット』はアメリカ地獄巡り | Main | NYの記憶・11 トイレ地図(2) »

Comments

えーと、わたくしの場合はですね、短絡的ではありますが、バーを探します。バーテンにまず聞く。そのまま使わせてくれる店と、そうでない店がある。
ダメなときは、トイレ使ってから飲むからね、と言って、終ってからバーで一杯飲む。ただのときも、バーテンに100円あげて帰る、そんなふうでした。

Posted by: T君 | October 29, 2008 10:46 AM

なるほどバーですか。そういう手がありましたか。私はNYではほとんどアルコールを飲まなかったので気がつきませんでした。それにしてもこの問題の解決、皆がそれぞれのやり方で対処しているのでしょうね。

Posted by: | October 29, 2008 03:48 PM

今回、私もNY滞在中、常時『スターバックス』を利用していました。助けられましたね。私の場合は、雄さんが言われる「剛の者」が、ほとんどでした。すみません。マンハッタンをうろつく時、一日のうちで2、3回、色々な場所にあるスタバを利用することもありましたが、水を1回買った記憶があるだけで、他は「剛の者」でしたね。
 ところで先日、スタバの店舗が米国内で09年3月までに600店舗閉鎖されるという新聞記事がありました。スタバは米国内に1万1千店あって、近隣のスタバ同士の競合による弊害も店舗閉鎖の理由の一つとありました。
 確かにどこにでもあるのは便利ですが、アスター・プレイスの4th Aveを挟んだ両側にスタバ2店があったのには驚きましたね。
 この記事を見て、次にNYに行く時は、トイレはどうしようかと少し悩んでいます。
 ブック・ナビも再開され、このブログと平行して、楽しみに読んでいます。

Posted by: TO | October 29, 2008 08:38 PM

ほんとにアスター・プレイスの2軒のスタバは100メートルと離れていませんね。地下鉄階段上のほうはいつも混んでいるので(店もトイレも)、3rd Ave.に面したほうを使ってました。このあたり、公共トイレがないんですよね。

Posted by: | October 30, 2008 10:24 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference NYの記憶・10 トイレ地図:

« 『ワイルド・バレット』はアメリカ地獄巡り | Main | NYの記憶・11 トイレ地図(2) »