NY日記 1
ニューヨークに来ている。
この街に来たのはほぼ20年ぶり。20年前の1980年代は、ニューヨークの治安がいちばん悪い時期だった。当時なら観光客が足を踏みいれるのをためらった地域、タイムズスクエアから西へ向かいハドソン川に突き当る手前の短期滞在アパートに泊っている。
最初、知らされた住所を訪ねたら、その番地にはなんの看板もなく、住民表示にも宿の名前はなくて、ただ日本人らしき姓が書かれているだけ。おまけに約束の時間を20分すぎても、アパートの玄関に誰も現れない。だんだん不安になってきて、ひょっとしたらニセHPの前金詐欺にやられたかと青ざめた。
約束の時間を30分すぎ、これはニューヨークに住んでいる友人に連絡を取って助けを求めるのがいいかと覚悟を決めたとき、「○さんですか?」と若い女性が現れた。正直、ほっとした。事情を聞いてみると、僕が空港へ着いたとき電話するのを忘れたせいで連絡が遅れ、おまけに彼女自身もなにかの都合で遅れたらしい。
彼女に案内されたのは、3ベッドルームの個人アパートを改装してそれぞれ独立させた「ホテル」。キッチンとバスは共用になる。住民表示は日本人の姓になっているから、普通の個人住宅という体裁で、たぶんもぐりの営業なんだろう。
部屋の窓からは、眼下に煉瓦づくりの古い低層ビルと空地と無機質のオフィスビルの向こうにハドソン川が見える。南には再開発された高層ビルがいくつも建っている。すぐ目の前はガソリンスタンドで、早朝から深夜までイエローキャブがひっきりなしに出入りしている。夜になると、無人の44丁目通りにびっしりとイエローキャブが止まって休憩する。キャブから降りた運転手の影がひとつ、ゆっくりと動いている。
午前3時、時差ボケで眠れずにガソリンスタンドを眺めていたら、深夜の孤独な人々を描いたホッパーの絵が動きだしたような気分になった。
カメラを取り出して写真を撮ったのだけど(むろんホッパーのようにはいきません)、パソコンに接続するケーブルを忘れてきたのでアップできないのが残念。
Comments
読みながら、マイケル・マンの映画の雰囲気を思い出していました。もぐり営業のホテルってのがいいですね。このへんはジャームッシュ的(笑)
アルルほどの写真日記、期待しています。
Posted by: kiku | August 01, 2007 10:33 AM
「ホテル」で誰も現れず30分ほど待たされたときには、ニセHPの詐欺に会ったかと正直、青ざめました。ケーブルを忘れて写真を撮る意欲をなくしていたのですが、素人写真ながらなんとか頑張ってみます。
Posted by: 雄 | August 01, 2007 11:55 AM