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June 03, 2007

4つの展覧会

この2週間ほどで美術展をたてつづけに4つ見たので、その覚えを短くメモしておこう。

「渋澤龍彦 幻想美術館」(埼玉県近代美術館)

 渋澤龍彦が惚れ込んだり、興味を持ち、著作のなかで言及しているアーチストの作品を一同に集めた、渋澤龍彦の「脳内美術館」。

 アルチンボルド、デューラー、ピラネージ、サド侯爵、マグリット、ダリ、バルテュス、ベルメール、ヘルムート・ニュートン、若冲、酒井抱一、伊藤晴雨、瀧口修造、土方巽、細江英公、川田喜久治、金子國義、合田佐和子、四谷シモンなどなど。

 近世から現代、ヨーロッパから日本まで、かつて「異端」と言われた100人近い画家、美術家、写真家、人形師…の300点の作品は壮観。僕も渋澤龍彦の本で初めて知った名前が何人もある。今はメジャーになった美術家も多いけど、それだけ彼の影響力が大きかったってことだろう。

 それにしてもこれだけの作品を国内で集められるんだから、この展覧会みたいにキュレーターの腕次第でいろんな面白い試みができるはず。

龍彦が渋澤栄一(埼玉出身)の血筋だとは知らなかった。彼は湘南というイメージが強いけど、その縁で埼玉近美が企画したらしい。

「若冲展」(京都・相国寺承天閣美術館)

 明治期、廃仏毀釈で危機に陥った相国寺が宮内庁に当時の金で1万円という大金で買い上げてもらった若冲の「動植綵画」30点が里帰りした展覧会。「動植綵画」とセットになっていたが、これだけは寺が手放さなかった「釈迦三尊像」を中央に、120年ぶりに完全な形で展示されている。

 以前に宮内庁三の丸尚蔵館で数点見たことはあるけど、全点そろうとさすがに壮観。熱心な仏教信者だった若冲が「山川草木悉皆成仏」(山川草木、あらゆる動植物が仏になりうる)という日本仏教固有の思想を具現するために描いたのがよく分かる。一連の鶏図はすごいの一言。

 同時に若冲が金閣寺に描いた障壁画も展示されている。2点ほど、床の間、脇壁、違い棚奥の壁などが一体になった作品が、部屋のまま立体的に展示されていて、なるほど実際にはこう見えるのかと納得。芭蕉や棕櫚が題材に選ばれているのは、当時の「南方憧憬」なんだろうか。

「レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の実像」(東京国立博物館・6月17日まで)

 目玉は「受胎告知」1点のみで、あとはお飾り。ほかの作品をデジタル高精細複写で再現したり、ダ・ヴィンチが書いた「手稿」をもとにいろんな装置を再現してるんだけど、まあおまけみたいなもの。「受胎告知」1点では「モナリザ」ほどの集客を見込めないからだろうけど、満足感は薄い。予想したほど並ばずに見られたのはよかったけど。

「須田剋太展」(うらわ美術館・6月24日まで)

 戦後、抽象画家として一家をなし、晩年に具象に転じて、司馬遼太郎「街道をゆく」シリーズの挿画でも知られる画家の生涯を見渡せる展覧会。

 須田の具象絵画には、ゴッホを思わせるような独特の視覚の歪みがある。彼が東京美術学校(東京芸術大学)の試験を4度も落ちたのは、「デッサンが正確でなかった」ためらしい。その「正確でない」ところが、そのまま彼の絵の個性になっているんだから面白い。彼には、確かにこういうふうに風景や人が見えたんだろうな。

 僕は生前の須田画伯のアトリエに一度だけ入ったことがあるけど、売れなかった抽象時代の作品が無造作に山のように積み重ねられていた。ドンゴロスに絵の具を盛り上げた、荒々しい質感をもった抽象の代表作を見られたのが嬉しい。

 

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