« 4つの展覧会 | Main | 路上カフェ »

June 18, 2007

『パッチギ! LOVE&PEACE』の確信犯ぶり

Photo_27

『パッチギ!』は青春映画+音楽映画+活劇+コメディ+社会派といった色んな要素をごっちゃに詰め込んだ荒パワフルなエンタテインメントだったけど、続編の『パッチギ! LOVE&PEACE』は第1作にも増してこてこてで、そこまでやるかと思いつつも、思いこみの激しさとほとばしるエネルギーに、不満は多々あれどはまってしまう。

設定は第1作から5年ほど後、舞台は京都から東京の下町(江東区枝川)にあるコリア・タウンに移っている。前作は日本人の男の子と在日朝鮮人の女の子キョンジャの恋が中心になってたけど、今回は兄アンソン(井坂俊哉)と妹キョンジャ(中村ゆり)の兄妹2人のそれぞれの生き方が軸になっている。

こてこて、その1。井筒和幸監督の活劇へのこだわりは、冒頭に国鉄駅での乱闘シーンをもってきたことでもわかる。国労・動労が戦闘的だった1974年、左翼のスローガンが殴り書きされた京浜東北線の電車が駅に入ってきて、アンソンら在日朝鮮人と国○舘高校の突っ張りとの乱闘がはじまる(僕は埼玉県川口の育ちで、小学校の同級生には朝鮮高校に入った友人も国○舘の友人もいたから、これに近いことが赤羽や池袋の駅でよくあったことは知っているし、現場にいあわせたこともある)。

それにしても、白昼堂々、延々とつづく乱闘の傍若無人ぶりは、あんまりじゃないだろうか? いくら70年代だといっても、これほど長時間乱闘してれば、駅員や鉄道公安がやってくる。でもそんな現実性を無視したむちゃくちゃな確信犯ぶりは、第1作で高校生たちがバスを横転させてしまったシーンと同様、ありえないシーンをあえてつくることで、この映画はリアリズムじゃないんだからね、と宣言しているように思える。

第1作では、日本人の男の子がキョンジャに恋して在日の世界に入っていくという設定で、あくまで日本人の視線から物語が進行していた。第2作でも佐藤(藤井隆)という元国鉄職員が兄妹と仲良くなって行動を共にするのだけれど、佐藤はあくまで傍観者で、アンソンとキョンジャそれぞれの物語がそれぞれの視線から同時並行して語られる。

映画全体の視線が第1作はあくまで日本人の側にあったのに対して、今回の作品は在日の物語として描かれている。そんなさりげない視線の変更も、「日本映画」としてはちょっとした決断だったにちがいない(脚本は井筒和幸と羽原大介。『血と骨』はほとんど在日しか出てこない映画だったから、日本人の視線ははじめからありえなかった)。

こてこて、その2。アンソンと死んだ妻の間には小さな息子がいて、筋ジストロフィーという難病であることが分かる。大人になるまで生きられるか分からない息子の手術費用を捻出するために、アンソンは犯罪まがいの行為に手を染める。父子ものの要素に加えて、はやりの難病ものまで取り込んで、それは反則でしょと言いたくなるけど、まあここまで確信犯的に徹底すればあっぱれと言うしかないか。

こてこて、その3。在日朝鮮人を主人公にしたことで『パッチギ』は社会派的な要素をかかえこんだけれど、第2作ではそれがさらに徹底されている。ひとつは、兄妹の親の世代がなぜ故郷の済州島から大阪に来なければならなかったかを描いて、2世代にわたる年代記にしていること。もうひとつは、今も通名(日本人名)で活動している芸能人、スポーツ選手に向けて、みんなカミングアウトして本名で生きようよ、とストレートなメッセージを送っていること。

こてこてついでにもうひとつ、女優になったキョンジャが出演する映画が「キミを守るために死んでいきます」的な戦争映画。キョンジャがそれをコケにすることで、最近はやりの「美しい戦争映画」に砂をかけているのも、昔の中島貞夫や鈴木則文の挑発的な映画を見ているみたいだった。

|

« 4つの展覧会 | Main | 路上カフェ »

Comments

TB有難うございました。
なるほど、最初の乱闘場面を「活劇宣言」だとしてみれば、いろんな不満は解消できるのかもしれません。
前作の場合はいつもの井筒監督の活劇だと思ってみたら、思いもかけないリアルな映画だったので驚き心を動かされたというところがあります。あとで聞くとバスを横転させたのも事実あったらしいし。今回の場合は、高校生なら許されるけど、今回の場合は大人気ない喧嘩に見えるし、あれとあれは実際犯罪やろ、突っ込みたい気分があったのですが、まあ「活劇」としてみれば許されるかもしれません。
そう思ってもう一度見ることは叶わないことですが、もう一度評価は考え直したいと思っています。

Posted by: KUMA0504 | June 19, 2007 12:20 PM

ほんとに不満がたくさんある映画でしたが、思いの激しさに免じて許すか、という気分の源をたどると、昔たくさん見たプログラム・ピクチャーのテイストに行き当たります。それを「活劇」と言ってみたのですが。

Posted by: | June 19, 2007 11:40 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『パッチギ! LOVE&PEACE』の確信犯ぶり:

» パッチギ! LOVE&PEACE/井坂俊哉、中村ゆり [カノンな日々]
前作が素晴らしかっただけに井筒監督のプレッシャーもかなりのものだったんじゃないのかな?でも日頃、人の作品を辛口トークでぶった斬ってる方だけにきっと何かやってくれるんじゃないかとても楽しみにしてました。前作は日本人の高校生の目線で在日朝鮮人の社会を描いてい....... [Read More]

Tracked on June 19, 2007 10:54 AM

» 悪い予感「パッチギLOVE&PEACE」 [再出発日記]
監督:井筒和幸出演:井坂俊哉、西島秀俊、中村ゆり、藤井隆、風間杜夫、キムラ緑子、手塚理美、キム・ウンス、今井悠貴今回LOVEをこめて辛口でいきます。悪い予感が当たった。面白くない。「想い」が前面に出すぎている。話の構成をたぶんわざと前作と同じ(喧嘩→ドラマ...... [Read More]

Tracked on June 19, 2007 12:21 PM

» 映画「パッチギ!LOVE&PEACE」 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~]
LOVE&PEACEになっても、結局始まりは暴力シーンなんだよねぇ・・アリランもいいけど、前作でのイムジン河がとっても良かっただけに熱唱なくて残念・・ 舞台は1968年の京都から、1974年の東京に移る。アンソン(井坂俊哉)は息子チャンス(今井悠貴)の筋ジスト... [Read More]

Tracked on June 19, 2007 12:46 PM

» パッチギ! LOVE & PEACE [Akira's VOICE]
前作ほどのインパクトはなくても, 確かな家族愛は,気持ち良い後味を残す。 [Read More]

Tracked on June 19, 2007 03:24 PM

» 『パッチギ! LOVE&PEACE』 [ラムの大通り]
----前作が高い評価を受けた『パッチギ!』の続編だね。 えいも、大感激していて2回も喋っていたっけ。 で、今回はフォーンも一緒に観ることに。 あれっ、思ったほど泣いてないニャあ。 「う〜ん。だって微妙なんだもん」 ----えっ?これまた意外。 主人公アンソンの父親の話も出てきたし、 日本映画とは思えない大スペクタクル・シーンもある。 どういうところが微妙だったの? 「いや。悪くはないんだよ。 ただ、詰め込みすぎって感じがしたんだ。 そのため、前作に観られたような ディテールへのこだわりが少し後ろに... [Read More]

Tracked on June 20, 2007 01:15 AM

» 映画 【パッチギ!LOVE&PEACE】 [ミチの雑記帳]
映画館にて「パッチギ!LOVE&PEACE」 大ヒット作『パッチギ!』の続編は、キャストを一新。舞台を東京に移し、前作から6年後のアンソン兄妹が描かれる。アンソンの妻・桃子はすでに亡き人となっており、一人息子チャンスの病気を治すために何とかしようと奮闘するアンソンの話と、治療費を稼ぐために芸能界にデビューするキョンジャの話が柱になっている。 井筒監督のパッチギ魂は今回も生きていた。ともすれば在日の方からも日本人からも攻撃を受けそうな部分が見受けられる。芸能界のタブーに切り込むような題材は見ていて... [Read More]

Tracked on June 22, 2007 05:02 PM

« 4つの展覧会 | Main | 路上カフェ »