« 『松ケ根乱射事件』の脱臼具合 | Main | 『絶対の愛』 心地よい裏切り »

March 20, 2007

『パフューム』の奇っ怪

Photo_20

最初の10分でこれはすごいぞと思い、でも続く30分でどうにも乗れず、最後に至って思わず笑い出してしまった。『パフューム』はなんとも奇っ怪な映画だったなあ。

冒頭のすごさは、18世紀パリの汚物と汚臭に満ち満ちた細密描写。香りと香水を主題とした映画に、それとは正反対の汚物と汚臭から入るのがいい。

汚れた屋台がひしめくパリの魚市場。魚をさばいた後の臓物が無造作に捨てられ、ネズミやウジがうごめく屋台の下で、売り子の父なし子として主人公のジャン=バティスト(ベン・ウィショー)が産みおとされる。250年前のパリの街並みを再現したセットと、そこで繰り広げられる人々やら生き物やらのおぞましくもグロテスクな姿が、その後の展開を期待させてぞくぞくさせる。これは自分好みの映画かもしれないな。

(以下、ネタバレです)皮なめし職人の下で働くジャンは、街ですれちがった少女のふくよかな体臭に惹かれ、彼女の跡をつけて遂には殺してしまう。「ある人殺しの物語」(サブタイトル)の最初の殺人。このパリの薄暗い裏町での犯罪のシーンも、ジャンがやがて同じような手口で次々に処女を殺して裸にし、その匂いを奪うことを予想させて緊迫している。いよいよ、面白くなりそう。

でもその後、異常に鋭敏な嗅覚をもっていることを自覚したジャンが調香師(ダスティン・ホフマン)に弟子入りし、師をしのぎ、究極の香水を求めて連続殺人に手を染める展開がいかにもかったるい。

ひとつには、ナレーションを多用したことがあるかもしれない。第三者の視点からのナレーション(ウィリアム・ハート)が、ほんとなら映像やセリフで見せるべきところをナレーションで代用してしまい、物語を説明する以上の役割を果たしていないように感じられる。

いまひとつは、追う者と追われる者というミステリーの基本の対立構造をつくらなかったこと。そんな対立構造がないのは原作も同じだったけれど、原作では作者がジャンの内面に深く入り込むことによって小説の緊張を維持していたように記憶している(20年近く前に読んだきりなので確信はない)。

そしてラスト。ここでは原作から大きく離れた結末(と思う)が用意されている。エロチックなテイストが命の映画に、エロチシズムのかけらもない裸の乱舞とは、そのあまりの唐突さに思わず失笑してしまった。この70年代のLOVE & PEACEふうなラストはどこから来たんだろう? 

香りというフィルムに映らないものをテーマにし、映像に映らないものがすべてを支配するさまを映像化するむずかしさは分かるけど、だからってこれかよ? って気がする。昔、アントニオーニの映画にこんなのがなかったっけ?

20年ほど前に読んだ原作は、この映画の冒頭10分のグロテスクでエロチックなテイストを最後まで保った傑作だった。ディテールは忘れてしまったけれど、小説の官能的な空気は今でもこの手で触れるように覚えている。

250年前のパリ。裸にされた処女の連続殺人という猟奇的犯罪。都市の腐臭と、それを隠そうと貴族階級が専有する香水。あまりにも魅力的な素材で、スピルバーグやスコセッシが映画化を望んだというのもよく分かる。

トム・ティクバ監督の『ラン・ローラ・ラン』は不思議な面白さのある映画だったけど、ひねったつもり(?)のあのラストはないよな。冒頭のエロチックなグロテスクさを押し通してほしかった。

 

|

« 『松ケ根乱射事件』の脱臼具合 | Main | 『絶対の愛』 心地よい裏切り »

Comments

雄さん同様オープニングの市場のシーンには瞠目させられ、本当に期待感は高まりました。
しかし、なのに、何故、と気持ち的にはやはり竜頭蛇尾な作品でした。
それにしても「衝撃」というか「笑劇」のモブシーン!!
アントニオーニの『砂丘』、その他諸々を思い出して笑ってしまいました。
いくらなんでも、あれは、うーっ…(苦笑)

Posted by: nikidasu | March 20, 2007 at 11:34 PM

ベン・ウィショーの演技がアレだから、いったいどこでこの映画が破綻するかと思って観ていたのですが、ホフマンが出てきてほっとしました。かったるかったですか?
逆にジャンが独り立ちを始めたところからの方がちょっとかったるかったように思うのですが。次から次への殺人と逃げていく親子を追いつめたあたりまで(飛躍しすぎで)大味の感が否めなくて。
原作はもっと精緻で、それこそ堪能できるものなのでしょうけど。
ナレーション、ウィリアム・ハートだったんですか...
気がつきませんでした。

Posted by: kiku | March 21, 2007 at 12:10 AM

>nikidasuさま

そうか、アントニオーニの『砂丘』でしたね。このラストを監督がどこからどう発想したのか、いまだに理解できません。まさかアントニオーニその他70年代へのオマージュ(?)じゃないですよね。

>kikuさま

ホフマンは安心して見ていられましたが、おっしゃるように舞台がグラースへ移ってからがちょっとね、でした。ラストを見て、kikuさんがB級コメディと断じた(?)理由が分かりました。ナレーションのウィリアム・ハートはエンドロールを見てあれ? と思ったので、確認してなく、確信はありません。

Posted by: | March 21, 2007 at 12:13 PM

こんばんは。

ぼくもこの映画が楽しめたのはホフマンのところまででした。
ラストはアントニオーニ『ザブリスキー・ポイント』、
『砂丘』でしたね。
いろんな方が、そのことを指摘し始めてくれていて
心強くなりました。

でもnikidasuさんの「笑劇」というのはいいですね(笑)。

ちなみに主人公の設定はパゾリーニ『テオレマ』かなと…(汗)。

Posted by: えい | March 21, 2007 at 10:16 PM

えいさんのブログ、いつも楽しみに拝見させていただいています。

どう考えても、この映画(小説)にエロチシズムのかけらもないLOVE&PEACEふうなラストはふさわしくないと思います。同じ白昼夢なら、たとえば主人公が処刑台に張りつけられた瞬間、黒雲が天をおおい、豪雨と青白い雷光に群衆のまぐわいが照らし出されるとか(これも陳腐なイメージですが)、一貫したトーンで絵づくりしてほしかったです。

Posted by: | March 23, 2007 at 11:04 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/14318655

Listed below are links to weblogs that reference 『パフューム』の奇っ怪:

» パフューム ある人殺しの物語 /Perfume The Story of a Murderer [我想一個人映画美的女人blog]
わたしの嗅覚、犬並み{/kaminari/} ナンテいつも豪語?してたけど、犬の嗅覚は人間の1億倍!なんだってー。 猫は人間の10倍らしいから猫並みにしておこ☆ でも鼻が良くてもいいことなんてほとんどない{/kaminari/}(笑) 自分のつけた香水が、ほんのりいつまでも香ってたり、たまにふら〜と 焼肉の匂いやさんまを焼く匂いや芳しい香りが漂ってきたりに敏感っていうのはいいけど(?) イヤな匂いにも敏感だから困る。... [Read More]

Tracked on March 20, 2007 at 11:26 AM

» 映画「パフューム ある人殺しの物語」 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~]
原題:Perfume -The story of a murderer-  ※いわゆるひとつのネタバレ 赤毛の女性は芳醇にして妖艶、天国へといざなう至高の香りを放つ・・?「ラン・ローラ・ラン」は好きな映画だが、これは感動も共感も教訓も得られなかった 冒頭いきなり衝撃的なシーンがある。ひ... [Read More]

Tracked on March 20, 2007 at 12:13 PM

» 『パフューム-ある人殺しの物語-』 [Brilliant Days ]
昨年秋の映画祭関係で上映され、良くも悪くも話題になっていたのは知っていましたし、世にもおぞましき殺人鬼の話?とばかりに観るか観ないかのせめぎ合いで・・(^^;) しかし、偶然の神様が劇場へと向かわせた為、恐る恐る鑑賞して参りましたが・・ これは傑作でありまし..... [Read More]

Tracked on March 20, 2007 at 07:26 PM

» 「パフューム ある人殺しの物語」 Perfume: The Story of a Murder [俺の明日はどっちだ]
「香り」というよりまさに悪臭に満ちた18世紀のパリの中でもひと際汚臭漂う魚市場の屋台で産み落とされた主人公。 映画“ STONED ”でキース・リチャーズに扮していたベン・ウィショー演じるこの生まれながらに驚異的嗅覚を持ち、一切の体臭を持たない男、そんな彼とかかわりを持った人間、すなわち母親、孤児院の女主人、なめし皮職人の親方、そして調香師(ダスティン・ホフマン!)、それぞれがことごとく非業な死を迎えるという寓意に満ちた話の持って行き方、... [Read More]

Tracked on March 20, 2007 at 10:28 PM

» 『パフューム』はB級コメディか? [kiku's]
この映画に関する予備知識は「香りにまつわるサスペンス」、ダスティン・ホフマンが脇 [Read More]

Tracked on March 20, 2007 at 11:52 PM

» パフューム [シャーロットの涙]
東京国際シネシティフェスティバルにて… [Read More]

Tracked on March 21, 2007 at 07:48 PM

» 『パフューム ある人殺しの物語』 [ラムの大通り]
(原題:Das Parfum : Die Geschiche eines) ※カンの鋭い人は注意。※映画の核に触れる部分もあります。 鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。 ----この映画、スゴい評判だよね。 確か「衝撃のラスト!」とか言われているんでしょ? 「うん。そこまで言われると、 どんな映画だろうって…。 今日は期待に胸ふくらませて行ったんだけど…」 ----ん?行ったんだけど…? 「確か�... [Read More]

Tracked on March 21, 2007 at 10:04 PM

» パフューム 〜ある人殺しの物語〜−(映画:2007年36本目)− [デコ親父はいつも減量中]
監督:トム・ティクヴァ 出演:ベン・ウィショー、レイチェル・ハード=ウッド、アラン・リックマン、ダスティン・ホフマン 評価:79点 公式サイト (ネタバレあります) ダスティン・ホフマンが香りの調合士役に選ばれたのはやはりあの大きな鼻のせいだろうか。...... [Read More]

Tracked on March 24, 2007 at 06:10 PM

« 『松ケ根乱射事件』の脱臼具合 | Main | 『絶対の愛』 心地よい裏切り »