『デジャヴ』 はリアルSF
『デジャヴ』はネタバレなしで語れそうもないので、ご承知おきを。
で、はじめっからネタバレだけど、この映画、実は「タイムトラベル」ものだったなんて、途中まで思いも及ばなかった。
トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン主演というほかに予備知識なしで映画館に入った。この2人、以前に『マイ・ボディーガード』(良くできた映画でした)で組んでいたから、あの映画みたいなリアルなタッチのサスペンスなんだろうな、ただ「デジャヴ」というタイトルからすると、少しサイコがかってるのかも、などと思いながら。
出だしはまさにリアルなアクション映画。ハリケーン・カトリーナで壊滅した後のニューオリンズ。マルディグラのお祭り当日に、ミシシッピ川をゆく満員のフェリーが爆破される。
手持ちだったりフィックスだったりのカメラ、早送りやスローモーションを駆使し、短いカットを重ねて、登場人物と状況を簡潔に説明する鮮やかな手並みはトニー・スコットならでは。この段階では、リアルなサスペンスものであることを疑いもしなかった。
おや? どうもこれはリアルな話じゃないんだなと思い始めたのは、捜査官のダグ(デンゼル・ワシントン)が特別捜査班に組み入れられ、政府が秘密裏に開発したタイム・ウィンドウという監視装置のある部屋に導かれたあたりから。
タイム・ウィンドウは、いま地球の上空を回っている偵察衛星による監視をもっと高度化して、家のなかに自在に入り込み、3次元のヴァーチャルな映像を再現できるという設定。ただし、その映像は現実の時間から4日と6時間後でないと見られない。そのタイムラグが、この映画のミソになっている。
この映画のアイディアはネットのチャットから生まれたというけど、たしかにグーグル・マップで自宅や知り合いの家を上空からながめていると、もっと近づいて人が識別できないものか、家のなかに入り込めないものか、なんて空想をしてしまう。
ダグは爆破事件の手がかりを求めて、殺されたクレア(ポーラ・ハットン)の部屋のなかへタイム・ウィンドウで入り込み、4日前の、まだ生きているクレアの姿を追う。
この町のシンボル、フレンチ・クォーターの薄暗い部屋で、わずかな照明だけで彼女を映し出す映像がなんともリアル。特殊カメラと高感度フィルムを使ったらしいけど、見られていることを知らない彼女を追って、部屋から部屋へ素早く移動するカメラは覗き見感覚を刺激するね。そんなクレアの姿を追ううちに、彼女をどこかで見たという「デジャヴ」を感ずるダグは、次第にクレアに惹かれていく。
事件が起こってしまった現在と、4日前の、事件に向けていろんなことが起こりつつある映像。現在と過去、現実とヴァーチャルな映像の落差を縫ってサスペンスが進行する。なかでも、片目で4日前の映像を追い、片目で現実の高速道路を逆走しながら犯人を追うカー・チェイスは迫力たっぷり。さらに、ハリケーンで破壊された無人の家が立ち並ぶ荒廃したダウンタウンのリアリティには息を飲む。
そして映画の後半になってタイムマシーンが登場する。ダグはクレアの命を救うために4日前の世界にタイム・トラベルしてゆく。ま、ここから先はエンディングまで、これまで数えきれないほどつくられた「タイムトラベルもの」と大差ないんだけど、SF的なおとぎ話のタッチではなく、前半と同様にリアルな映像で押し通すのが新鮮だ。
ハリケーン後のニューオリンズにロケしたり、監視衛星を素材にしたり、テロの犯人が右派ファンダメンタリストだったりと、現実にアメリカで進行していることをうまく映画に取り込んでいるのもさすがだね。リアルSFとでも言ったらいいか。
トニー・スコットの映画は見終わってずっしり重いものが残ったり、考えさせられたりすることはないけれど、貴重なお金と時間を使って映画を見ている間だけは、こちらをたっぷり楽しませてくれる。そんな期待がはずれることがほとんどないという意味では、いまハリウッドで最高の職人かもしれないな。
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