『不機嫌な男たち』の妄想世界
『キムチを売る女』が面白いと聞いて渋谷のイメージ・フォーラムに行ったら3日前に終わってて、同じ「韓国アート・フィルム・ショーケース」シリーズの『不機嫌な男たち(英題:Possible Changes)』がかかってた。
ここから他の映画館は遠いし雨も降ってきたから、どんな映画なのか何の情報もないまま見ることにした。こういうとき「当たり」にぶつかると、不見転で買った本やCDが面白かったのと同じで、自分の選択は間違ってなかったと、ちょっとだけ得をした気分にひたれる。
で、結果はといえば、うーん、はずれでしたね。「アート・フィルム」シリーズの1本だからそれなりの仕掛けがあって、何をやりたいか分からないわけじゃないんだけど、映画としては楽しめなかったな。
主人公は2人のくたびれたインテリ中年。作家志望の無職男ムノ(チョン・チャン)と、研究所勤めのジョンギュ(キム・ユソク)。ムノは家族と無為な日々を過ごしながら、ネットで知り合った女に変てこりんな手紙を書いて誘い出す。独身のジョンギュは、初恋の相手で大学で教えている女性講師に、理由をつけて会いにいく。
そこから映画は現実と夢(というか妄想)が交じり合い、現実はそうならないのに、妄想のなかで2人はそれぞれ相手の女性と会ってあっという間にセックスすることになる。
現実と妄想の境界ははっきりしないんだけど、現実はブルーがかった冷たい色調で、妄想は赤みのある暖かい色調で撮影されている。でも最初のうちそのことに気づかないから、あっけないほど簡単に寝てしまう女たちを見て、え、これなんなの? って感じになってしまう。映画も後半になって、どうもこれ現実じゃなく妄想なんだなとやっと気づいたのは、見る側の目がないせいか。
監督はミン・ビョングク。ホン・サンスの助監督をしていたらしいけど、どちらかというとパク・チャヌクや初期のキム・ギドクのテイストに近いみたいだ。
でも、パク・チャヌクのような粘着質な悪意の昇華はなく、キム・ギドクみたいな風俗描写の冴えもない。主人公2人の性的妄想が妄想のままにとどまっていて、それが彼らの精神的危機とどう結びついてくるのかよく分からないから、ラストシーンが見ている側に響いてこない。まあ処女作だから、奇妙な作品ということだけで十分に評価できる。蛹が蝶になるように、いずれ突然変異することを期待しよう。
かつての日活ロマン・ポルノを見てるみたいに、唐突に過激なセックス・シーンになるのがおかしかったな。
Comments