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January 20, 2007

『ラッキーナンバー7』のアート・センス

Photo_10

気になるショットがいくつも出てくる。気になるというより、デジャヴを感じたと言ったらいいか。

ブラウンで統一された時代がかった部屋で鳴り続ける電話。アップでもなく、遠景でもなく、画面上3分の2ほどに壁を大きく入れ込んだベッドサイド。一見中途半端なフレームで切り取られた空間に鳴る古い型の電話を、低いアングルで真正面から捉えたショットが、それがどんな意味を持つのか見る者にはわからないまま繰り返し挿入される。

あるいは空港のロビー。光が射し込んだ白い無人の空間に並ぶ、スカイブルーの合成樹脂のイス。白い光のなかの青の四角形。色も形も極端に単純化された空間を、これも低い位置から真正面で捉えたショット。

対立するボス(モーガン・フリーマン)とラビ(ベン・キングズレー)が立て籠もる、向かい合わせた高層ビルは茶褐色のレンガ造りで、20世紀初頭に建設されたニューヨークの初期の摩天楼だろうか。その摩天楼の尖塔がビル群に大きな影を投げかけているショット。

あるいはクラシックだったりモダンだったりする部屋の壁紙。スレブン(ジョシュ・ハートネット)とリンジー(ルーシー・リュー)が絡む部屋の壁紙が古さと新しさを混在させたようなセンスで選ばれ、カメラ位置はここでも決まって壁に対して直角の真正面が選ばれている。

こういうショットに僕は現代写真の影を感じた。さまざまな姿の摩天楼は20世紀はじめのアメリカ現代写真を象徴するイメージ。それはこの映画がニューヨークを舞台にしているから当然かもしれないけど、それ以上にアメリカ映画にもかかわらずウォルフガング・ティルマンズをはじめとするヨーロッパ系の現代写真のセンスを感じたのだ。

あれれ、と思ってスタッフを調べると、監督のポール・マクギガンはスコットランド出身でもともとはカメラマン。撮影のピーター・ソーヴァもチェコ出身で、マクギガン監督とずっと組んでいる。1980~90年代にティルマンズらが活躍した雑誌『FACE』や『i-D』はロンドンのアート・シーンで広く読まれていたから、マクギガンやソーヴァの映像感覚がティルマンズらの現代写真からインスパイアされた可能性は、あながち僕の思いこみだけではないかもしれない。

『ラッキナンバー7』みたいに話が二転三転するコンゲームは、ハリウッドでも『スティング』とか『グリフターズ』とか傑作がいくつもあるジャンル。そういうお遊びの要素をたっぷりもったエンタテインメントに現代的なアート・センスをもちこんだのが、この映画の面白さじゃないかな。

モーガン・フリーマン、ベン・キングズレー、ブルース・ウィリスとベテランの役者を見てるだけでも楽しいけど、ジョシュ・ハートネットとルーシー・リューに僕はあまり魅力を感じず、2人のシーンではちょっと退屈して寝てしまった。部分麻酔で歯を抜いた翌日に見たので、眠くなったのがこっちの体調のせいなのか、映画のせいなのかはよくわからないんだけど。

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Comments

こんにちは。
これはよくあるエンタメ系のサスペンスかなぁと観る予定には入れていないんですが、そんなにアートセンスが光っていましたか!
ちょっと気になります。

Posted by: かえる | January 23, 2007 12:52 PM

そんなに光ってたかって正面きって聞かれると、うーん、口ごもってしまいますが、まあ写真好きの私の過剰反応というあたりでしょうか。私も自宅近くのシネコンでの消極的選択でした。

Posted by: | January 23, 2007 04:03 PM

こんにちは、TB有難う御座いました。
主役のファンで彼見たさという不純な動機で劇場に足を運びましたが(笑)、途中2回位意識が飛ぶほど話そのものには魅力感じませんでした。
が、やはり何故か見終わって不思議な満足感があったのは恐らくオスカー俳優を見られたというだけではないな~?と思っていたんですが、こちらのレビューを読ませて頂いてなるほどと。 最近自宅でクラッシックものをボチボチ鑑賞しているんですが、「第三の男」や「市民ケーン」のはっと息を呑むほど実験的で芸術的なカメラワーク!それだけでも見る価値ありますものね(もちろんこの2本は内容もですが)。

Posted by: マダムS | January 31, 2007 08:29 AM

マダムも「意識が飛ぶ」ほどなら、あながち私の体調のせいとも言えないかもと思い、ちょっと安心しました。でもこういう映画で客を眠らせてはいけませんよね。いずれにしろ、ところどころでヘンなカメラワークがあり、それが気になりました。

Posted by: | February 01, 2007 11:56 AM

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