『ラッキーナンバー7』のアート・センス
気になるショットがいくつも出てくる。気になるというより、デジャヴを感じたと言ったらいいか。
ブラウンで統一された時代がかった部屋で鳴り続ける電話。アップでもなく、遠景でもなく、画面上3分の2ほどに壁を大きく入れ込んだベッドサイド。一見中途半端なフレームで切り取られた空間に鳴る古い型の電話を、低いアングルで真正面から捉えたショットが、それがどんな意味を持つのか見る者にはわからないまま繰り返し挿入される。
あるいは空港のロビー。光が射し込んだ白い無人の空間に並ぶ、スカイブルーの合成樹脂のイス。白い光のなかの青の四角形。色も形も極端に単純化された空間を、これも低い位置から真正面で捉えたショット。
対立するボス(モーガン・フリーマン)とラビ(ベン・キングズレー)が立て籠もる、向かい合わせた高層ビルは茶褐色のレンガ造りで、20世紀初頭に建設されたニューヨークの初期の摩天楼だろうか。その摩天楼の尖塔がビル群に大きな影を投げかけているショット。
あるいはクラシックだったりモダンだったりする部屋の壁紙。スレブン(ジョシュ・ハートネット)とリンジー(ルーシー・リュー)が絡む部屋の壁紙が古さと新しさを混在させたようなセンスで選ばれ、カメラ位置はここでも決まって壁に対して直角の真正面が選ばれている。
こういうショットに僕は現代写真の影を感じた。さまざまな姿の摩天楼は20世紀はじめのアメリカ現代写真を象徴するイメージ。それはこの映画がニューヨークを舞台にしているから当然かもしれないけど、それ以上にアメリカ映画にもかかわらずウォルフガング・ティルマンズをはじめとするヨーロッパ系の現代写真のセンスを感じたのだ。
あれれ、と思ってスタッフを調べると、監督のポール・マクギガンはスコットランド出身でもともとはカメラマン。撮影のピーター・ソーヴァもチェコ出身で、マクギガン監督とずっと組んでいる。1980~90年代にティルマンズらが活躍した雑誌『FACE』や『i-D』はロンドンのアート・シーンで広く読まれていたから、マクギガンやソーヴァの映像感覚がティルマンズらの現代写真からインスパイアされた可能性は、あながち僕の思いこみだけではないかもしれない。
『ラッキナンバー7』みたいに話が二転三転するコンゲームは、ハリウッドでも『スティング』とか『グリフターズ』とか傑作がいくつもあるジャンル。そういうお遊びの要素をたっぷりもったエンタテインメントに現代的なアート・センスをもちこんだのが、この映画の面白さじゃないかな。
モーガン・フリーマン、ベン・キングズレー、ブルース・ウィリスとベテランの役者を見てるだけでも楽しいけど、ジョシュ・ハートネットとルーシー・リューに僕はあまり魅力を感じず、2人のシーンではちょっと退屈して寝てしまった。部分麻酔で歯を抜いた翌日に見たので、眠くなったのがこっちの体調のせいなのか、映画のせいなのかはよくわからないんだけど。
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» 『ラッキーナンバー7』 [Sweet* Days]
CAST:ジョシュ・ハートネット、ブルース・ウィリス 他
STORY:不運が続いたスレヴン(ジョシュ)は、友人のニックを頼ってニューヨークにやってくる。が、そこで更にニックに間違えられて不運が続く・・・
原題は「LUCKY NUMBER SLEVIN」。
主人公スレヴンと「7」をかけてあるのだな。なるほどぉ・・・・
で、あんまり期待してなかったんだけど、なかなか面白かった♪
最初、CMや予告編などから、軽快でテンポの良いお洒落な作品かと思ってました。
前半は確かにそんな感じもあり... [Read More]
Tracked on January 20, 2007 05:21 PM
» 映画「ラッキーナンバー7」 [ミチの雑記帳]
映画館にて「ラッキーナンバー7」
NYにやって来た青年が大物ギャングの対立に巻き込まれていくクライムサスペンス。
グッドキャット(ブルース・ウィリス)が語る二十年前の“ラッキーナンバー7”を巡る事件や“カンザスシティ・シャッフル”に驚き、青年スレヴン(ジョシュ・ハートネット)があれよあれよという間に抗争に巻き込まれていき、息もつかせぬ導入部にすっかり引き込まれていく。
とても複雑に入り組むストーリーは魅... [Read More]
Tracked on January 20, 2007 08:01 PM
» 『ラッキーナンバー7』ジョシュ・ハートネットに騙された私!? [銅版画制作の日々]
実はこのタイトルの7は、セブンではありません。英語のタイトルは「LUCKY NUMBER SLEVIN」なので、7はスレヴンと読みます。実はジョシュ・ハートネットが扮する主人公の名前がスレヴン・ケレプラ、なんか意味深
先日MOVX京都にて鑑賞。映画の始まりは、人気のない駐車場で一人の男が銃で撃たれて死んでしまう場面が変わり、豪華な部屋に3人の男がやって来て、そのうちの一人が自分の両脇に立っている男を刺す。そして次... [Read More]
Tracked on January 21, 2007 01:09 PM
» 映画「ラッキーナンバー7」 [しょうちゃんの映画ブログ]
2007年3本目の劇場鑑賞です。公開翌日観ました。「ホワイト・ライズ」のポール・マクギガン監督作品。不運続きの主人公が対立するギャングの抗争に巻き込まれていくさまをユーモアを織り交ぜテンポ良く綴ってゆく。出演者がめっちゃ豪華だったのは良かったです。殺し屋グ...... [Read More]
Tracked on January 23, 2007 11:09 PM
» ラッキー・ナンバー7 [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
なかなか、見応えのあるクライム・アクションでした。伏線が張り巡らされていて、それが余すところなく、解かれていく。見事な構成だったと思います。
スレヴンは、仕事を失い、恋人は浮気、道ですれ違ったチンピラに鼻を殴られ、友人のニックの留守宅に転がり込みます。シャワ... [Read More]
Tracked on January 24, 2007 12:02 AM
» ★「ラッキーナンバー7」 [ひらりん的映画ブログ]
ひらりん的に、主演のジョシュ・ハートネットはイマイチな気がするけど・・・
脇役が豪華絢爛みたいです。
ラッキー・・・と聞くと、「ラッキー池田」を思い出すけど・・・
お話はアンラッキー系みたい・・だね。 [Read More]
Tracked on January 24, 2007 01:10 AM
» 『ラッキーナンバー7』 [京の昼寝〜♪]
すべては〈幸運のラッキーナンバー7〉から始まる
■監督 ポール・マクギガン ■脚本 ジェイソン・スマイロヴィック ■キャスト ジョシュ・ハートネット、ブルース・ウィリス、ルーシー・リュー、モーガン・フリーマン、ベン・キングズレー、スタンリー・トゥッチ□オフィシャルサイト 『ラッキーナンバー7』
空港のロビーで、青年の前に現れた謎の車椅子の男。 男は、20年前�... [Read More]
Tracked on January 26, 2007 05:33 PM
» ラッキーナンバー7−(映画:2007年10本目)− [デコ親父はいつも減量中]
監督:ポール・マクギガン
出演:ジョシュ・ハートネット,ブルース・ウィリス,ルーシー・リュー,モーガン・フリーマン,ベン・キングズレー,スタンリー・トゥッチ
評価:93点
公式サイト
(ネタバレあります)
かっこええ!
これはたまらんですな。
名前....... [Read More]
Tracked on January 27, 2007 12:58 AM
» ラッキーナンバー7 [PLANET OF THE BLUE]
今年の一発目はこれ!
監督 ポール・マクギガン
出演 ジョシュ・ハートネット ルーシー・リュー ブルース・ウィリス 他
結構僕は好きでした。
雰囲気的にはガイ・リッチーっぽいかな?それをシャープにした感じです。
そんな感じだから、不思議と説明っぽい台詞も成り立つし、
逆にそれがおしゃれに見えたり、そんな映画です。
原題は「LUCKY NUMBER SLEVIN」。
そう、ダジャレです^^;
ストーリーも、まさに火曜サスペンス!?
つまり、
ガイ・リッチー+火... [Read More]
Tracked on January 31, 2007 01:30 AM
» 『ラッキーナンバー7』 [Brilliant Days]
ジョシュなので、観ないワケには行きません#63899; 公式サイト 2005年 アメリカ 監督:ポール・マクギガン 出演:ジョシュ・ハートネット/ブルース・ウィリス/ルーシー・リュー/モーガン・フリーマン/ベン・キングスレー /スタンリー・トゥッチ スカっというほ..... [Read More]
Tracked on January 31, 2007 08:15 AM
» 【2007-14】ラッキーナンバー7(LUCKY NUMBER SLEVIN) [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
いったい誰が─なんのために?
偶然なのか?計画なのか?
絡み合ういくつもの「謎」が解き明かされた時、
驚きのラストがあなたの「心」まで奪い去る!
すべては<幸運のナンバー7(セブン)>から始まる
... [Read More]
Tracked on February 03, 2007 01:28 AM
Comments
こんにちは。
これはよくあるエンタメ系のサスペンスかなぁと観る予定には入れていないんですが、そんなにアートセンスが光っていましたか!
ちょっと気になります。
Posted by: かえる | January 23, 2007 12:52 PM
そんなに光ってたかって正面きって聞かれると、うーん、口ごもってしまいますが、まあ写真好きの私の過剰反応というあたりでしょうか。私も自宅近くのシネコンでの消極的選択でした。
Posted by: 雄 | January 23, 2007 04:03 PM
こんにちは、TB有難う御座いました。
主役のファンで彼見たさという不純な動機で劇場に足を運びましたが(笑)、途中2回位意識が飛ぶほど話そのものには魅力感じませんでした。
が、やはり何故か見終わって不思議な満足感があったのは恐らくオスカー俳優を見られたというだけではないな~?と思っていたんですが、こちらのレビューを読ませて頂いてなるほどと。 最近自宅でクラッシックものをボチボチ鑑賞しているんですが、「第三の男」や「市民ケーン」のはっと息を呑むほど実験的で芸術的なカメラワーク!それだけでも見る価値ありますものね(もちろんこの2本は内容もですが)。
Posted by: マダムS | January 31, 2007 08:29 AM
マダムも「意識が飛ぶ」ほどなら、あながち私の体調のせいとも言えないかもと思い、ちょっと安心しました。でもこういう映画で客を眠らせてはいけませんよね。いずれにしろ、ところどころでヘンなカメラワークがあり、それが気になりました。
Posted by: 雄 | February 01, 2007 11:56 AM