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December 29, 2006

『ダニエラという女』は一夜の夢

Photo_6

これほど徹底してひとりの女優に捧げられた映画も珍しいな。映像も、音楽も、名優ジェラール・ドパルデューですら、すべてがモニカ・ベルッチの美しさを際立たせるために存在する。もちろん、それでいいんです。そのためにつくられた映画なんだから。

1964年生まれというから、42歳。決して若くない。でもカルテイエやらプラダやらディオールやらの衣装やジュエリーをまとい、あるいは妖艶な黒い下着で、あるいは何も身にまとわず画面に君臨するモニカは、存在そのものがエロティック。

もちろんカメラや照明の角度によっては、男を誘惑するようなあの唇の周りに見える小皺や、腰周りの肉のつきかたに年齢を感じさせないわけじゃない。でもそこがまた、長い黒髪やしなやかな指や豊かな二の腕と相まって、常套句しか思い浮かばないけど「熟れきった果実」、昔なら「大年増の色香」、アラーキーなら「エロイイ女」としか言いようがないんですね。

宝くじを当てた平凡なサラリーマンと、金で買われて一緒に暮らすようになった飾り窓の女。平凡な毎日に退屈して娼婦稼業に舞いもどったり、ギャングの情夫(ドパルデューの強面の純情がいい!)が現れたりしながら、2人は離れてはくっつく。くっついては離れる。

ストーリーはもちろん、内面や心理描写なんてどうでもいいんで、モニカを見せるためにそれらしい「場」を重ねていくだけ。途中、ちょっと退屈もするけど、見せ場、見せ場をつなぐ歌舞伎みたいなもんですね。それがまた妙な味を出しているのが面白い。

一貫性などないいくつもの「場」に応じて、パトリス・ルコントふうだったり、ノワールになったり、いきなりコメディーになったり。音楽もヴェルディやプッチーニのオペラ曲だったり、ダラー・ブランドのサックスで情感たっぷり(「すすり泣くような」ってやつですね)のジャズだったり、ロックだったり。

風景描写がまったくなく、2人が暮らすアパートの階段が繰り返し登場して重要な「場」になるあたりは舞台劇のようだし、最後は現代的な『ラ・ボエーム』みたいになって終わる。現実感などどこふく風、徹頭徹尾つくりこまれた映画。

モニカ・ベルッチに惚れた監督のベルトラン・ブリエがつむいだ一夜の夢だと思えばいいのかもしれないね。覚めてみれば、モニカが発散したフェロモンの記憶だけが残る。

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Comments

TBありがとうございます。
>覚めてみれば、モニカが発散したフェロモンの記憶だけが残る。
ホントにそんな映画でしたね。
でもそれだけでちゃんと一本の映画になっているんですから、立派なものだと思います。

Posted by: きぐるまん | December 29, 2006 09:27 AM

モニカ・ベルッチはセクシーな色もの女優というイメージだったのに、気がつけばすごいオーラを発する役者になっていましたね。いずれキム・ベイシンガーみたいになってくれるでしょうか。

Posted by: | December 31, 2006 05:40 PM

昨日観てきました。
珍妙な映画、これが率直な印象です。
私などはベルッチを観にいったくちですからそれでよかったわけですが、かなりデタラメな作りでちょっと笑ってしまうほどでした。もちろん、それが狙いだったのでしょうが。

序盤で最初にコートを脱ぐシーン、あれは様々な意味で衝撃的でした。

Posted by: [M] | January 09, 2007 03:43 PM

ほんとに「珍妙」な映画で、僕は途中で、あ、これは(近代的な作劇と全く別の)歌舞伎なんだなと思って納得してしまいました。それが意図的なのかはっきりしないところが、また面白かったり。

コート、白いワンピース、黒い下着、腰回りに肉のついた裸体と、ベルッチに関しては思い切りエロチックに撮ってましたね。

Posted by: | January 10, 2007 12:10 PM

お久しぶりです。

モニカ・ベルッチも私の憧れの俳優の一人です。

最近は倦怠感と人生のやるせなさに襲われてもう惨めな人生を26年も過ごしてきたのでこれ以上の人生が苦痛の続きなのならもう26歳で死んでもいいかなと思いました。

しかし今週で二回目の歯の治療を終えて、自分は意外と我慢できる人間だなと気付き、歯の治療の痛さが克服できるのなら、きっとまだ克服したり超克できることはきっとあるはずだと思いました。急に雷に打たれて全身ビビビと電流が通過して得たような道理みたいでした。

本当にフランス語を勉強したり、台湾を出て海外で暮らしたいという強い意志と願いがあるのなら、いくらか多少苦労しても大丈夫なはずだと思いました。

時々疲れた時は一休みしてステップを整えて、また出発する準備をすればいいと分かりました。人間は疲れた時や体の具合が悪い時は元々色々とネガティブに考え易いので、ちゃんと一休みしてからまた歩き続けることを分かりました。

こんなふうに雷に打たれたかのように何かの道理を理解する経験は今回が初めてです。

死ぬ勇気があるのなら、それを夢が実現するようにする努力の力に変えればいいことが分かりました。

貴方からもいつも励ましと勇気を頂いているので、是非感謝したいと思います。

Posted by: 台湾人 | May 01, 2010 09:35 PM

歯が痛いのは耐えがたいですものね。僕も歯が痛いと、世の中すべてが苦痛に満ちて見えてきます。歯だけでなく、精神は肉体に依存しているというのが、60年以上生きてきての実感です。肉体が健康であってはじめて、精神の充実や気力が湧いてきます。生きていることは辛いことも楽しいこともありますが、差し引きすればやっぱり楽しいことが多いというのも実感です。

歯はきちんと直しましょうね。そして夢を実現するには、まずどうしたらいいかを考えましょう。

Posted by: | May 02, 2010 11:15 PM

実は最近韓国の音楽グループ「少女時代」のアルバムを買ってエンジョイしている私で、彼女達は歌唱力もダンスも申し分ないし、中には中国語、日本語や英語などを学び、相当の会話力を身につけている子がいるので、私は彼女達の音楽に勇気付けられて、彼女達みたいに夢や理想に向って情熱をぶち込んで自分を燃やして頑張ろうと決めました。

勿論怖いもの無しという絶対無敵の状態になったわけではありませんが、とにかく失敗や辛さに恐れずに進む勇気が出てきました。

私は自分の長所になかなか気付かず、他人の長所や自分にはない部分しか気付かなかったので、最近自分の長所にも気付きました。

字幕無しの状態で英語のドラマの75%は理解でき、あと上手じゃないんですが英語が得意な長所にも気付きました。

歯の治療まだ何回かありますが、卒論と卒論の口答試験と一緒に頑張りますね!

貴方に対する感謝の気持は本当に筆舌に尽しがたいです。いつもお世話になっていますし。

Posted by: 台湾人 | May 03, 2010 12:12 AM

英語のドラマの75%が理解できるなんてすごい実力ですね。僕なんか1年もニューヨークにいたのに、半分もおぼつきません。まあ、歳のせいとあきらめていますが。

台湾人さんの日本語も、きちんとした、美しい文章です。今の若い日本人よりよほどしっかりしています。

卒論と口頭試問、がんばってください。

Posted by: | May 06, 2010 06:39 PM

文法なんか滅茶苦茶で単語のスペリングも間違えるし、名詞が分からないときは形容詞をそのまま名詞にして使っちゃう場合もよくあります。

登場人物のセリフに「お!これはなかなか使えるセンテンスみたい!」と発見した時はすぐにメモして、つまらない時や暇のある時は登場人物に成りすました気分でセリフを暗記しながら一人芝居を演じています。

「デスパレートな妻たち」、「セックス・アンド・ザシティ」や「Nip/Tuckマイアミ整形医」は私の教材となっています。

Posted by: 台湾人 | May 06, 2010 11:52 PM

「デスパレートな妻たち」も面白いですが、同じアメリカのTVドラマで「コールド・ケース」や「CSI」もいいですよ。特に「コールド・ケース」は中身の濃い人間ドラマになっていて、どれを見ても水準が高く、TVドラマの傑作だと思います。

Posted by: | May 08, 2010 11:08 AM

昨日の夕方、区役所から兵役についての調査の通知が来ました。

いくつかの選択肢があり、私は今年の七月入隊できるという項目を選びました。

無事生きて帰ってこられるか分かりませんが、やはり服役しないと海外留学や海外の長期滞在が不可能となるので、心の準備をしています。

Posted by: 台湾人 | June 02, 2010 03:12 PM

それもまた海外留学や海外長期滞在のために必要な回り道と考えればいいではありませんか。

候孝賢の映画『恋恋風塵』だったか、兵役に行く友人のため、仲間が杯をあげるシーンがありました。それに倣って台湾人さんに杯をあげましょう。

Posted by: | June 03, 2010 07:40 PM

先週6月23日水曜日は何とか卒論の口答試験をパスしました。

色々と欠点を指摘されて見込みがないかな?と心配しましたが、何とか無事にパスしました。

両親は私よりも不安で心配なので、これも一種の親不孝だなと思いました。

友達や親戚や大学の先生などから事前に祝福を沢山もらったので、すごく感謝しています。

こんなに多くの優しい人がそばにいるので、これは何よりの幸せで宝物だなと思います。

これに比べてグッチやプラダやエルメスなんて何の意味もない物だと今分かりました。

貴方からもいつも声援を頂いているので、本当にありがとうございます。

Posted by: 台湾人 | June 27, 2010 06:21 PM

卒論の口頭試問にパスしたとのこと、おめでとうございます。これで台湾人さんの夢の実現に向けて、一歩前進したことになりますね。まだハードルはいくつもあると思いますが、目標を見失わなければ、ひとつひとつ乗り越えていけるものです。

Posted by: 雄 | June 28, 2010 01:41 PM

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Tracked on December 29, 2006 01:20 AM

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