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September 17, 2006

『マイアミ・バイス』のコン・リー

コン・リーももう40歳になったんだなあ。疾走するモーターボートの上で、風に乱れた髪がきりっとした表情の顔に戯れかかる。昔のふっくらした線が消え、肌には年相応のやつれが見えるけど、それでもなお魅力的な姿を見て、コン・リーは久しぶりに彼女を美しく撮ってくれる監督にめぐりあったと思った。

過去にコン・リーを美しく撮った監督は、まず言うまでもなく彼女を見いだし、スターにしたチャン・イーモウ。デビュー作『紅いコーリャン』から、私生活でも2人が別れる直前に撮られた『活きる』まで。惚れただけあって、コン・リーの魅力をすみずみまで知っている。特に1990年代前半の3本。コン・リーの美しさをあらゆる角度から耽美的な映像に仕上げた『紅夢』、ファム・ファタールふう美女の『上海ルージュ』、たくましく生きる母を演じた大河メロドラマの『活きる』が記憶に残る。

もうひとり、コン・リーを魅力的に撮った監督は同じ「第5世代」のチェン・カイコー。『さらば、わが愛 覇王別姫』も悪くないけど、同じくレスリー・チャンと競演した『花の影』が好きだな。素封家を継いだコン・リーがレスリー・チャンとの愛にのめりこんでいく、その狂気のような愛は絶品だった。

チャン・イーモウ、チェン・カイコーの作品を中心に、90年代、20代後半のコン・リーは匂うような美しさをスクリーンから発散させていた。ところが30代になったコン・リーは作品にも恵まれなかったし、女優としての華も失ったように思えた。たとえばウォン・カーウァイ映画のコン・リーは、陰のある高級娼婦を演じて、ちっともきれいに撮られていない。カーウァイはきっとマギー・チャンのほうが好みなんだろう。

そんなわけでここしばらく、コン・リーの映画には失望していたけど、『マイアミ・バイス』は久々に楽しめた。

かつての匂うような美しさはないし、英語のせりふ回しもうまくない。物語としても、コリン・ファレルと恋に陥るあたりがきちんと描写されていないので唐突に映る。いずれコリン・ファレルが裏切るのか、コン・リーが裏切るのか。そんなハードボイルドふうな展開を期待(?)していたけど、そうはならなくて、ややがっかり。それでも、2人のダンス・シーンでコン・リーの背中から肩に柔らかな光が当たっているのをカメラが舐めるショットにはぞくっとしたし、乱れ髪のコン・リーも素敵だ。

…などと、コン・リーのことばかり書いたけど、『マイアミ・バイス』は「夜の映画」とでも呼べそうなほど夜のシーンにあふれている。マイケル・マン監督の前作『コラテラル』は夜から朝までの映画だったから当然、夜のシーンばかりだったけど、この映画でも夜への偏愛は変わらずに続いている。

ふつう、映画の舞台としてのマイアミは明るい原色で撮影されることが多い。去年の『イン・ハー・シューズ』でも、前半のフィラデルフィアの落ち着いた中間色と対比させるように、後半のマイアミ(フロリダ)は抜けるように明るい原色で色彩設計されていた。

ところが、『マイアミ・バイス』ではそんな定型をくつがえすように、原色の世界はほとんど登場しない。海も青い海ではなく夜の海。コリン・ファレルとコン・リーを乗せた高速モーターボートが白波を立てて夜の海を突っ切っていくショットが見事だ。

ストーリーはお約束通りとはいえ、アクション・シーン、銃撃シーンも小気味いいリズム。僕は『コラテラル』までこの監督の映画にさほど感心したことはなかったけど、なかなかやります、マイケル・マン監督。

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