『ハリウッド・バビロン』のブラック・ダリア
ジェームズ・エルロイのノワール小説『ブラック・ダリア』が映画化され、10月に公開される。映画への愛にあふれたブログ「ツボヤキ日記」に詳しい情報が紹介されてるけど、ブライアン・デ・パルマ監督、主演がジョシュ・ハートネット、アーロン・エッカート、いまいちばんの美女、スカーレット・ヨハンソンにヒラリー・スワンクというスタッフ、キャストだから楽しみ。
この映画の素材になったブラック・ダリア事件のことを初めて知ったのはケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロンⅡ』(1991、リブロポート)だった。その後、エルロイの『ブラック・ダリア』が翻訳され、エルロイ・ブームが起きて、ノワール、ハードボイルド好きのあいだではよく知られるようになった。
ケネス・アンガーの本によると、事件はなんともスキャンダラスで、その後、全米を揺るがすことになるいくつもの猟奇殺人の原型のようなもの。
1947年1月、ロスの町なかの草むらで、登校途中の少女が若い女の全裸死体を発見した。死体は上半身と下半身に切断され、体じゅうに残虐な拷問の痕があった。口は両端を真一文字に切り裂かれ、乳房には無数の切り傷と煙草の焦げあと。全身が血抜きされて洗浄され、髪はきちんとシャンプーされ染料で赤く染められていた。
「奇妙だったのは、太股の、三角形に深くえぐりとられたあと。そこには、もともとバラの花の刺青が施されていた。解剖の結果、刺青のある肉片は、からだの奥深くに押しこまれていたことがわかった。細い手首とミルクのように白い足首に残っていたロープのあとは、3日は続いたと思われる拷問のあいだ、彼女が固く縛りつけられていたことを物語っていた」
この本には切断された「ブラック・ダリア」(被害者がいつも黒髪をアップにし黒い服を身につけていたことから、こう呼ばれた)の現場写真が添えられているけど、とてもここで紹介する気になれない。エルロイは、ついに真犯人が逮捕されなかったこの事件をもとに小説家の想像力をふくらませ、1940年代LAの闇を見事に描ききった。
エルロイもすごいが、アンダーグラウンド映画作家のケネス・アンガーが書いた2冊の『ハリウッド・バビロン』(Ⅰの翻訳は1978、クイック・フォックス社)も、なんとも面白いハリウッド裏面史。
ヴァレンチノ、クララ・ボウ、チャップリン、ディートリッヒから資本家ケネディ(大統領の父)、ヒッチコック、ジェーン・マンスフィールド、モンローまで、ハリウッド・スターの情事や自殺や事故や発砲事件や麻薬騒動や乱痴気騒ぎ、認知裁判、ありとあらゆるスキャンダルが集められている。
当時のタブロイド紙やゴシップ雑誌に載った記事や写真が満載だから、映画ファンにとっては下世話な覗き趣味としても面白いし、一方で「欲望」をキーワードにして編んだハリウッド史(ひいてはアメリカ史)でもある。アメリカの雑誌や小説を読んでいたり、映画を見ていると、ああこれは『ハリウッド・バビロン』に出ていたあの事件だな、と気づくことが時々ある。そのたびに、この本を読みかえす。
「ブラック・ダリア」の映画化を知って、またまた本棚から引っぱりだした。この本やエルロイの小説をぱらぱらながめていると、いやでも期待が高まる。同じエルロイ原作でカーティス・ハンソン(監督・脚本)、ブライアン・ヘルゲランド(脚本)の強力スタッフで映画化した『LAコンフィデンシャル』が素晴らしかっただけに、デ・パルマさん、頼むよ。
Comments
こんばんは
TBありがとうございました。
雄さんのブログを読んで早速本棚を物色し、「ハリウッド・バビロン」を探し出してきて読んでみたものの、
「ブラック・ダリア」事件のことは書かれていなくて何故?と思ったところ、
これって続編というかⅡのほうに書かれているんですね。
つい早とちりしてしまいました(苦笑)。
ちなみに私はⅡのほうは持っていません。
それはさておき、一体どんな映画になっているのか大いに楽しみであると同時に、
女優陣はさておき男優陣に若干不安を感じたりするのですが、さてその出来やいかに? ですね。
Posted by: nikidasu | August 29, 2006 01:38 AM
コメント&TBありがとうございます。
『ハリウッド・バビロンⅡ』は、Ⅰで余ったネタやビジュアルをともかく放り込んだかっこうで、本としての出来はⅠに遠く及びません。ただ、ブラック・ダリア事件の写真とか、グレタ・ガルボやジョーン・クロフォードのヌードとか「お宝映像」(これをお宝と感ずるのはジジイの証拠ですね)が楽しめます。
確かに男優陣と、脚本がヘルゲランドでない(「LA」が傑作になった大きな理由のひとつが脚本だと思いますので)のがいささか不安です。
Posted by: 雄 | August 29, 2006 12:01 PM
観る前からこんなこというのも何ですけど、ジョシュ・ハートネットは小説のブライチャートとは被ってきません(きっぱり)
アーロン・エッカートは、なるほどなあ、と納得するものもあるのですけど。
ラッセル・クロウ、ケビン・スペイシー、ガイ・ピアースを超えられたのでしょうか。気になるところです。
Posted by: kiku | September 28, 2006 11:31 PM
正直なところ、男優2人の過去の印象はほとんどありません。小説は10年以上前に読んだのでキャラクターやディテールや忘れていますから、その意味ではまっさらな状態で見られるかも。『LA』の3人も、それまでの印象が薄かったけどそれぞれによかったですから、今度も一応期待したいと思いますが。
Posted by: 雄 | September 29, 2006 12:20 PM