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August 24, 2006

『ローズ・イン・タイドランド』のミイラ

梶井基次郎の「桜の木の下には死体が埋まっている」にならって言えば、「大草原の小さな家にはミイラがあるんだよ」。

『ブラザーズ・グリム』につづくテリー・ギリアムのファンタジー。原作の「タイドランド(干潟)」は少女を主人公にした小説だそうだが、それがもともとファンタジーの要素をもっているのか、それともテリー・ギリアムが映画化に際して「不思議の国のアリス」を重ねたのかは原作を読んでいないのでわからない(邦訳あり)。

ただ『ブラザーズ・グリム』にも『ローズ・イン・タイドランド』にも共通しているのは、いま全盛のファンタジー映画の波に乗りながら、正義と悪がはっきりした少年少女の成長物語ではなく、ファンタジーの底にひそんでいる性と死の世界をギリアム流の映像で全面展開してみせるしたたかな意思。僕はファンタジー映画をほとんど見てないのでわからないが、こういうのをダーク・ファンタジーと称するんだろうか。

緑の丘に囲まれた干潟の金色の草原。そにぽつんと建つ朽ちかけた家。草原のなかの1本の枯れ木と引っくりかえって錆びた車の残骸。草原と丘の境を走る鉄道の線路。こんな風景が、映画の舞台装置。たぶん「大草原の小さな家」を意識してるんじゃないかな。そしてその家のなかにいるのは一生懸命に生きる善意の人々ではなく、ミイラ。

少女のローズ(ジョデル・フェルランド)は元ロック・ミュージシャンの父・ノア(ジェフ・ブリッジス)とともに、お祖母ちゃんが住んでいた草原の廃屋に引っ越してくる。「不思議の国のアリス」が大好きなローズは、いつも指にはめたバービー人形の頭と会話ごっこをしては空想にひたっている。この人形の頭が、ちょんぎられた首を連想させて不気味。

ドラッグ漬けのノアは、ある日、クスリをやってトリップしたまま、この世に戻ってこない。ローズは父の死を気にもとめず幻想の世界に遊んでいる。のっけから全開のジェフ・ブリッジスはあっけなく死んでしまい、以後、死体とミイラとして画面に登場するのを嬉しそうに演じてる。

やがてローズは近くの屋敷に住む、知的障害を持つ少年デルと仲良くなる。ローズはデルに無意識の性的な遊びをしかけたりもする。デルの姉で魔女のようなディケンズは、ノアが少年だったころ、彼が好きだったらしい。死体になったノアを見つけたデルはを彼をいとおしみ、皮をはぎ内臓を取りだして、愛する男のミイラをつくる。そして彼女の家には、もう一体のミイラ……。

このあたりテリー・ギリアムの独壇場。特殊メーク(ルイーズ・マッキントッシュ)を駆使し、広角レンズの歪んだ視覚を使って夢幻的なショットを次から次へ繰り出してくる。といっても、おどろおどろしく見る者を脅かすのでなく、ギリアムらしい遊びの感覚。ローズとデルの家の悪夢のような光景と、周囲に広がる明るい草原との鮮やかな対照。

美しい風景と暗黒世界を自由に出入りするローズを演ずるのは11歳のジョデル・フェルランド。その可愛らしさが、この映画を暗い死の世界へとなだれていくことから救っている。金髪にぱっちりした二重の目。死んだお祖母ちゃんの帽子とピンクのショールを身につけ、口紅を引いた幼い唇の色っぽさ。それでいて凛とした品を感じさせる。

ファンタジーとかダーク・ファンタジーとかいうより、やっぱりテリー・ギリアムの映画、としか言いようのない作品だった。

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