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July 09, 2006

『やわらかい生活』寺島しのぶは最高

『ヴァイブレータ』につづく廣木隆一(監督)-荒井晴彦(脚本)-寺島しのぶ(主演)のトリオ。これは今の日本映画で最良の組み合わせかもしれないな。

歴史に残る傑作というわけじゃない。でも、こんなふうに時代の気分をうまく映し出した日本映画は、最近見た記憶がない。ハリウッド映画でもないし、ヨーロッパ映画でもない。韓国映画や中国映画は全体として日本映画よりおもしろいけど、僕の見ている限りこういう雰囲気の作品はない。その意味では、日本映画の現在を良くも悪くも象徴していると思う。昔はこういう映画が「標準」だったと思うのは、過去の記憶を美化しすぎか。

なんといっても寺島しのぶがいい。バリバリの総合職だったのに、躁鬱病で引きこもりになった30代の独身女。躁のときはネットで捜した痴漢趣味の男(田口トモロヲ)とデート(?)する。痴漢される映画館のある蒲田が気に入って引っ越し、「Love 蒲田」というブログを立ち上げる。鬱になると、服も脱がずにベッドへもぐりこんで、何日も風呂にも入らない。躁と鬱をいききするトワイライトの気分をなんとも自然に、等身大で演じている。

寺島しのぶがこんなに力が抜けたのは、やはり『ヴァイブレータ』で廣木・荒井コンビと出会ったからだろうか。同じ年に主演した『赤目四十八瀧心中未遂』では、以前の熱演型演技派のしっぽを引きずっていた。この2本の映画で彼女はこの年の女優賞を総なめしたわけだけど、僕には『ヴァイブレータ』のしのぶのほうがずっと生き生きしているように見える。

僕が寺島しのぶを初めて見たのは10年以上前の舞台「近松心中物語」(平幹二朗・太地喜和子主演。涙滂沱の名作)で、このときはちょっと3枚目の演技派といった趣だった。

その後はテレビドラマで何度か見た程度だけど、時代劇は意外なことに(藤純子の娘なのに)似合わないし、演技派の線でいくのか、ヒロインの線でいくのか、自分を決めかねているように見えた。ま、美人じゃないからヒロインの線はもともと無理があったし、演技派の線でそれなりの個性的役者になるのは確かだとしても、先は見えている。

日活ロマンポルノの系譜を引く廣木・荒井の映画に出演するのは、彼女自身、母親との葛藤を書いたり語ったりしてるけど、それなりの決意がいったにちがいない。

荒井晴彦はもともと文芸ものがうまいけど(原作は絲山秋子)、自ら監督した『身も心も』の失敗で吹っきれたのか、かつての団塊ふうなこだわりをさらりと捨て、豊川悦司の駄目男や田口トモロヲの痴漢、妻夫木聡の鬱病のヤクザ、松岡俊介のEDの都議、主人公ばかりでなく男の造形がどれもいい。

廣木隆一は『ヴァイブレータ』につづいてのオール・ロケ(多分。しのぶのアパートだけはセットかも)。ロケで映しこんだ「粋のない下町」蒲田の空気が心地よい。豊悦としのぶが尾崎豊を歌うカラオケ・シーンで、全曲そのまま撮るなんて大胆な演出も、2人の感情の揺れを感じさせてうまくいった。

そして寺島しのぶの表情の魅力を、素晴らしくうまく捉えてる。鬱でベッドにいるしのぶが目を覚ますのを真上から捉えたショット(このショットのしのぶは美女です)。はにかみながらする独特の微笑。Gジャンに朱色のスカートで豊悦と屋台が並ぶ祭りの町を歩くラスト。寺島しのぶが最高にいいね。

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