『M:i:Ⅲ』はいまいち興奮しなかった
『M:i:Ⅲ』はまずまず楽しめて2時間退屈はしなかったけど、すごい映画に出会ったときのワクワクドキドキはなかった。
僕の場合、このシリーズでそんなワクワクドキドキを味わったのはジョン・ウーが監督した2作目。むろんこれは、あくまで好みの問題。ブライアン・デ・パルマ監督の1作目がすごかったという人もいるし、いや、テレビ出身の新人、J.J.エイブラムスが監督したこの3作目がいいよ、という人もいるだろう。ジョン・ウーの「やりすぎ」でセンチメンタルな演出がうざったいという人だっているに違いない。
同じノンストップ・アクションなのに、このワクワクドキドキの差はどこから来るんだろう。2作目と3作目を僕なりに考えてみることにする。ちなみに1作目については、チームのメンバーが次々に殺されるあたりにパルマ監督らしいサスペンスはあっても、全体として絶好調時のパルマ作品に遠く及ばないという印象をもった。
ひとつは脚本の差。2作目は、イーサン・ハント(トム・クルーズ)が一目惚れするナイア(タンディ・ニュートン。魅力的)が悪役ショーン(ダグレイ・スコット)の愛人という、敵対する者同士の三角関係が生む葛藤がドラマ部分の軸になって、全体をおおうアクションに陰影と陰りを与えていた(見事な脚本は『チャイナタウン』のロバート・タウン)。
今回、イーサンには婚約者ジュリア(ミシェル・モナハン)がいる。ファースト・シーン。誘拐された婚約者(その時点では観客にはわからないが)の前で、イーサンがデイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)に銃をつきつけられ、殺されそうになる。この冒頭で映画の軸が提示される。愛する女性が捕らわれ、主人公が彼女を助けに危地ににおもむく、「姫、危うし」のパターン。
イーサンはジュリアにスパイである自分の正体を明かしていない。それがいつどんなかたちで明らかになるのか期待したけど、そこはごくあっさりと処理されていた。その場面で明らかになるイーサンとジュリアの葛藤に、2作目とちがって3作目はほとんど興味を示さない。
そのかわりに、イーサンとジュリアの婚約パーティをはじめ、幸せな2人のシーンが前半のそこここにインサートされる。その後、婚約者の誘拐の衝撃を高めるためだろうけど、どのシーンもお定まりの描写を出ない感じ。そもそも幸せなスパイなんてのはありえないんじゃないか。イーサンはスパイとしての裏の顔を婚約者に隠しおおせると思っていたんだろうか。でも3作目はそういう人間ドラマには目もくれず、ひたすら「姫、危うし」の定型を踏んでゆく。
いまひとつ2作目と3作目で違うのは演出力の差。世界中にロケ地を求め(3作目はベルリン、ローマ、ヴァージニア、上海)、イーサンと女性のからみを短くはさみながらノンストップ・アクションがつづくことは2作目も3作目も同じ。3作目のアクションは、テレビ出身の監督らしく2作目よりテンポがかなり早くなっている。手持ちカメラの不安定な映像も今ふう。
でも、ベルリンの襲撃シーンも、バチカンの拉致シーンも、海上道路でのカー・チェイスも、上海の高層ビルからの飛び降りも(これは1作目にも2作目にもあるトム・クルーズ得意のスタント)、どこかで見たという既視感がつきまとう。もちろんどれもアクション映画お定まりの設定で、それはそれでいいのだけど、お約束を見せながらなお観客を驚かせるショットに乏しい。
それに比べるとジョン・ウーの2作目は、お定まりのなかにも新鮮なショットに満ちていた。
冒頭、アンダルシア(だったか?)でイーサンとナイアがフラメンコ・ダンサーの踊りを間にはさんで目と目で出会うシーンから、スローモーションを駆使したジョン・ウー節全開。オートバイのチェイスも、イーサンと悪役の空中での剣士のような対決があり(三船敏郎と仲代達也みたい)、その瞬間、空中のオートバイを真下から見上げるショットは鮮やか。敵の要塞では、『男たちの挽歌』を思い出させるように鳩が飛び、炎のなかからイーサンが現れる(やりすぎ)。
おっ、おおっ、と見る者を驚かせるショットがつづく。「やりすぎ」とセンチメンタリズムもここまで徹底されれば、ジャンル映画の底を抜いて快感に変わる。これこそアクション映画の面白さなんだな。
いまひとつ3作目で期待ほどでなかったのは、悪役に今をときめくフィリップ・シーモア・ホフマンを起用したこと。ホフマンは『ブギー・ナイツ』やトム・クルーズと共演した『マグノリア』みたいな映画で生き生きすることからわかるように、外見ではなく内からじわじわにじみ出てくるもので役を演じるタイプ。でもこの映画は脚本も演出もそういうことに力を注がないから、悪役としてのホフマンの凄みがうまく出ていないように感じた。いい役者を生かしきれてない。
それにしても上海の高層ビル群はキッチュな建築が多いから、映像的には面白い。これから上海ロケが増えるかもしれないな。
Recent Comments