『魚と寝る女』(ビデオ)
『魚と寝る女』は『悪い男』と対をなす映画だった。というより、製作年から言えば『悪い男』(2001)が『魚と寝る女』(2000)と対をなしている。相手と自分を精神的にも肉体的にも傷つけることでしか成り立たない愛の形を、男と女それぞれを主人公に、一方は都会、一方は自然の中を舞台に描かれる。
『魚と寝る女』のソ・ジョンは湖上の小屋船に、『悪い男』のチェ・ジェヒョンは売春宿に相手を拘束する。2人とも屈託するものを内に抱え込み、ソ・ジョンは映画の初めから終わりまで一言も発しないし、チョ・ジェヒョンも言葉にならない言葉を一言発するだけ。
ソ・ジョンは水のなかから、チェ・ジェヒョンはマジック・ミラー越しに相手を窃視する。相手をつなぎとめるために、ソ・ジョンは釣り針を自らの性器に突き刺し、チェ・ジェヒョンはガラスに腕を突っ込む。観客がヒリヒリするような「暴力」描写。
風景もまた対をなしている。『悪い男』では都会の夜の闇に浮かび上がる売春宿のキッチュな色彩が記憶に残ったけど、『魚と寝る女』では朝霧が流れる湖の水面に黄色や紫のペンキを塗った小屋船が浮かんでいる。共に、キッチュな色がとても効果的に使われている。
『魚と寝る女』には、このイメージを撮りたかったんだなと思わせるショットがいくつもあった。特にラストシーン、浸水したボートの底に横たわるソ・ジョンの裸の死体(?)は、腹の肉を切りとられて泳いでいる鯉のイメージと重なって酷く美しい。
キム・ギドク監督は決してうまい監督ではないけど、いつでも映画の大もとになる原イメージがあり、それを実現するために脚本も演出も強引さをいとわない。それが彼の映画の力強さになっているんだろう。
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