『悪い男』(DVD)
すごい映画をつくる男がいたものだね。『サマリア』(2004)をDVDで見てうなり、新作『うつせみ』(05)につづいて評判の高い『悪い男』(02)を見た。傑作でした。キム・ギドクを見てなかったのは最近のいちばんの痛恨。設定、物語、映像感覚、すべてが「キム・ギドク印」のオリジナルな個性を持っている。
男が公園のベンチに座っている女子大生にいきなりキスする。男は風俗店の用心棒で、彼女を罠にはめ、娼婦に堕としてしまう。男(作者)の内的欲望があからさまにされていて、フェミニストなら目を剥く物語。
でも、そこからがこの映画の面白さで、男は娼婦になった女にいっさい手を触れない。マジック・ミラー越しに女を見守るだけ。女とベッドの上で横になっても、女にすがるように頬を寄せるだけでセックスを求めようとしない。だからこの映画、暴力的な男の純愛映画とも、不能男の恋愛映画とも取れる。
映像感覚が素晴らしい。暗い街路に浮かび上がる、そこだけけばけばしい色彩の風俗店と、男の手を引く女たちの色とりどりの服、嬌声。雨が降って、濡れた色彩がまたいい。『サマリア』での、ソウルのラブホテル街の映像も魅力的だったけど、これはそれ以上。
2人がトラックに幌をかけ、流しの売春をやりながら海岸線を走っていくラストも情感たっぷり。
この監督の映画、誰にも似てないけど、部分的にパトリス・ルコントと神代辰巳を思い出した。
Comments
この映画見たいんですが、台湾では上映されていないんです。
主人公を演じるチョ・ジェヒョンは以前韓国ドラマで彼の演技を拝見したことがあります。
あの瞳の奥に秘めた優しい眼差しに惹かれました。
キム・キドク監督は性や倒錯的な欲情を生々しくリアルに捉える作品が多いと聞いていますが、私自身はそういった社会に見捨てられた集団や倒錯的というか人間の原始的な欲望を描く題材の映画が大好きなんです。
Posted by: 台湾人 | May 08, 2010 12:28 AM
キム・ギドクは、僕がいまいちばん惹かれる映画監督の一人です。「悪い男」を筆頭に「青い門」「魚と寝る女」「サマリア」といった作品はどれも素晴らしい。台湾人さんおっしゃるように、人間の原始的な欲望がむき出しにされ、最近の作品では、それをどう浄化したらいいのかといった意識も感じられます。
僕は台湾のツァイ・ミンリャン監督の映画も好きですが、ちょっと似たところがありますね。
Posted by: 雄 | May 08, 2010 06:40 PM