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March 26, 2006

『変態村』の魔女狩り

こういうキリスト教的な寓意や隠喩が散りばめられた映画は、その方面の知識も関心も薄い当方にはどうも苦手だ。『変態村』(観客に予断を与えるこの邦題については、cinemabourg*の[M]氏が論じている)の原題は「CALVAIRE」。キリスト磔刑の丘であるカルヴァリオ(ゴルゴタ)、転じてキリスト磔刑像や苦難を意味する。

だから確信はまったく持てないのだけど、ヨーロッパの観客が『変態村』を見てまず連想するのは魔女狩りではないかと想像する。

この映画の真の主役は、実在の人物としては登場しないグロリアという女だ。(以下、ネタバレです)

グロリアはおそらくキャバレー回りの歌手で、芸人だったバルテル(ジャッキー・ベロワイエ)と出会って結婚し、森のなかの小さな村で夫婦して小さなホテルを営んでいた。やがて男好きのグロリアは村のロベール(フィリップ・ナオン)を誘惑して、ロベールの心をずたずたにする。

妻の浮気に怒った夫のバルテルは、グロリアの髪を刈って丸坊主にし、納屋の梁に十字にくくりつける。それを知ったロベールと彼に加勢する村人たちは、バルテルのホテルを襲ってグロリアを集団で犯す。憑かれたようになった村人たちは、ロベールを誘惑したグロリアを森の丘に連れ出して「魔女」として処刑した。

はっきり語られてはいないけれど、断片的なせりふとショットをつなぎあわせてみると、この映画が始まる以前に、村にはそんな出来事があったらしい。白い霧に包まれた夜、そこへ、どさ回りの歌手マルク(ローラン・リュカ)が迷い込んでくるところから、映画は始まる。

宿に泊まったマルクがバルテルに求められて歌った歌が、忌まわしい過去を呼び戻す触媒になる。過去に憑かれたバルテルには、マルクがグロリアに見えはじめる。バルテルはマルクに向かって言う。「なぜお前は戻った? 俺の心を踏みにじるためか?」。バルテルの憑依は村全体に伝染し、過去の出来事が再現されることになる。

憑かれたバルテルやロベールには男のマルクがグロリアになってしまう倒錯がこの映画のキモなのだが(冒頭のショットで、舞台に立つマルクは鏡に向かって化粧している)、それがヨーロッパの観客にどれほど涜神的に映るのかは、よく分からない。不安と不快をかきたてる動物の扱いも、宗教的な匂いがありそうだけど、それもよくは分からない。キリスト教に無知な僕のような観客には、だからこの映画はちょっと変態的な心理サスペンス(あるいはホラー)といったふうに映る。

くすんだ白と赤が画面を支配している。霧に閉ざされた村。逆光に光る白い霧に包まれた木立の間を移動するショットが繰り返される。

対照的に、夜の宿の室内では、深紅のカーテンや赤いランプ・シェードが闇を際だたせる。そして暖炉の炎。捕らわれたマルクは、グロリアのワンピースの上に赤いキルティングを着せられ、森のなかを逃げ回る。森の中には、やはり赤いキルティングを身につけた子供たちがいる(彼らもまた憑依した村人の犠牲になった者たちの幻影なのか?)。そんな白と赤のショットが印象的だ。

ベルギーのファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督の第1作。映画としての完成度はそんなに高くないけど、独特の雰囲気はあるね。

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Comments

久々のTBをさせていただきました(このところ作品評が滞っていましたので)。リンクを張っていただき、恐縮です。

仰るように、私にも宗教的寓意というのがよくわからず、もちろん想像することは出来なくもないのですが、やはりヨーロッパ人にとって本作がスキャンダラスであるのと、日本人にとっての本作の見え方は異なるのでしょうね。

あの赤いフードの子供たち、一瞬ハッと息を飲みましたが、あのショット移行触れられることはありませんでしたね。いい意味で思わせぶりなショットで、嫌いではありませんでした。

Posted by: [M] | March 27, 2006 at 10:00 AM

私は職業柄、単行本や雑誌の仕事で原稿とニュアンスの違う見出しやタイトルをつけることがありますから(売る、ために)、邦題に関しては割と寛大なつもりですが、それにしてもこのタイトルはちょっと、ですね。

映画の出来は置くとしても、いろいろ想像する楽しみのある作品でした。

Posted by: | March 28, 2006 at 06:37 PM

雄さん、初めまして。

ワタシも邦題に惑わされた一人です。
「変態」云々より、やはり原題の「受難」が的確ですよね。
雄さんが書かれているように、ワタシも魔女狩りや集団ヒステリーみたいなものを感じました。

邦題がきちんと的を得ていれば、拍子抜けすることも無いし、それなりに評価が得られたのではないかと思います。
これはこれなりに良く出来た映画ですね。

Posted by: Puff | April 08, 2006 at 10:25 PM

結局この邦題は商売的にプラスだったのでしょうか、マイナスだったのでしょうか。チケット買うのが恥ずかしくてやめた人もいたんじゃないでしょうかね。

集団ヒステリー状態に入るサインである奇妙なダンスとか、グロテスクなユーモアもいい味でした。

Posted by: | April 10, 2006 at 08:55 PM

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